第二の部屋 後編
前編のあらすじ
俺は、金色の勇者。閉じ込められた部屋を脱出するためにゲームをクリアすることになった。一部屋目を突破して二部屋目に突入したがなんとレース対決をすることに。一位になるために熾烈な戦いをしていたがついに後半戦。しかし突然マシンが動かなくなった。これではリタイアするしかないのか俺?
エンジンがかからず動かないので故障したのかとイクシュに聞くことにした。だが聞く前に炎の魔王がニヒルな笑みを浮かべ残念だと言い始める。
「いったいなにがいいたい」
「故障だと思っているようだが、それはガス欠だ。先頭を走っていたから消耗が激しかったんだろう。給油しないと動かないぞ」
「余裕の態度でいるけどそれはお前も同じじゃないのか」
金色の勇者と炎の魔王は、ほぼ並走していたので状況は同じはずだ。なのになぜ余裕なのかわからない。
「私は炎の魔王だぞ。エンジン内部の火に干渉して燃費を良くするのは造作もない。そこの勇者が魔術で車を動かして問題ないのだから」
炎の魔王がエンジンをかけると勢いよく走り出す。蛮の魔王も問題ないようで走り去る。エンジンがかからないのは金色の勇者だけのようだ。どうしようかとマシンの前で考えていると読心の勇者に声をかけられた。
「大丈夫でしょうか」
「気にしないで、補給出来るか聞いてみるし」
「何度も気にかけていただいたと私は思っています。だからこれは私のエゴなんです」
読心の勇者は、とある勇者の二つ名を告げると照れくさそうに砲の魔王に乗っていってしまった。
「放置も出来たはずだし、イジワルするようには見えないんだよな」
あえていうなら知り合いの親切なお姉さんという感じだろう。
「イクシュ、補給出来るか」
「補給は出来ないでしゅ」
「なら」
読心の勇者の善意にかけることにしてイクシュに喚んでもらう。すると風が吹いて礫が顔にあたり地面が暗くなる。
「オレは、竜騎の勇者。てっきり読心の勇者さんだと思ったんだが」
「読心の勇者さんがあんたならなんとか出来るだろうって教えてくれたんだ」
「そうなのか。ちょっと照れくさいが読心の勇者さんの友人なら力を貸すっすよ」
なにがあったのかカクカクシカジカ話していると知っている二つ名があったらしく、笑ったり嫌そうだったり表情が忙しい。
「エンジンがよくわかってないんだけど要するに進めればいいんすね」
竜騎の勇者は、金色の勇者へ手を差し出した。握手かと思い手を出せば竜の背中に乗せられる。
「うわっ、高いな」
「しっかり掴まってくれ。出ないと空に投げ出されるっすよ。行くっす」
「はい」
羽ばたいて大空を翔んでいるのは、怖くて楽しかった。足元に何もない恐怖よりも手を伸ばせば空に手が届きそうなことが楽しい。
「すごい! 俺翔んでる」
「楽しそうで何よりっす」
マシンで走るよりも空を飛ぶ方が早いらしく、先頭集団に追いついた。これなら優勝も夢ではないかもしれないと思っていると、貿の魔王の隣に見知らぬ誰かが座っている。その人物は、牛のような角に片翼があるように見えた。視線を感じたのか後ろを振り向き目を見開くと口が裂けたように嗤う。
「オレは、天の魔王! 飛べる奴は◯ね」
天の魔王の大きな腕がドラゴンに迫ってくる。
「「うわぁぁっーー!?」」
しかし腕は、ドラゴンに当たることなく空を切り騎乗の二人は一息ついた。背中に翼があるのだが片翼では飛べないらしく安心した。届かない腕が滑稽で笑えてきてしまうが失礼だろうかと、金色の勇者は自重する。
「堕ちろ!」
天の魔王は、道端の岩を掴みドラゴンに向かって投げつける。岩と砂しかないので投げるものには困らないようだ。地味に砂が口に入ってジャリジャリするのが不快過ぎる。
「もう少し高く飛べませんかジャリっ」
「これより上は天井ジャリっす」
「ゴールするまでこのままジャリかジャリっ」
話さなければ不快感が多少ましになるだろうと、金色の勇者と竜騎の勇者はアイコンタクトをした。
「コレをうけやがれっ」
「爆弾!?」
足がついた爆弾は、まさか自分が空を飛ぶと思っていなかったらしく涙目だ。一番泣きたいのは金色の勇者たちのほうだ。
「これは流石に無理!」
竜騎の勇者が動揺するとドラゴンが薄くなり始める。どういうことなのかわからない金色の勇者は、余計に焦った。
「知人に喚ばれて来たが面白いことをしているようだな」
紫色の瞳の男がマントをはためかせて剣を下ろす。まるでそこに地面があるかのように堂々と浮いていた。
「空帝の勇者だ。そこの君、落着きたまえ」
すっかりドラゴンが消えてしまい落下仕掛けたところを空帝の勇者に襟を捕まれ、二人とも空中浮遊することになった。
「助かった……」
「俺も冷や冷やしたっす。一度焦るとドラゴン維持出来なくて墜落するんっす」
竜騎の勇者が笑って言っているが普通は死んでしまうのではと、金色の勇者は呆然と見るしかない。
「もう一回アレを出せるか。出せるならば下の魔王の相手は私がやろう。もう一対の翼を落とすのも一興だ」
うっすら笑みを浮かべているのにとても怖いなと金色の勇者が思っていると、竜騎の勇者がまたドラゴンを出した。そして地上と空中で熾烈な戦いが始まっている。
「今のうちに離脱しよう」
「そうするしかないですね」
天の魔王を喚んだのは誰だと思い下を見れば、貿の魔王がとてもいい笑顔で見ているので色々察した。
「行き先ってアレかな」
竜騎の勇者が示す場所はスタートしたあの会場だ。いつの間にか日が暮れて地平線の向こうに赤い夕焼けが見える。
「夕焼けってなんで綺麗だけど不安な気持ちになるのか」
「それはきっと今日が楽しかったんだと思う。さぁ、そろそろ高度を落とすよ」
出た時と同じようにゲートから入ると、ラストスパートに入る。集厄の勇者は黒い手?とハンドル争いをしているが誰が勝ってもおかしくない。
さぁ、ゴールだと思ったら軽快な音楽と共に金色に光る何かが勢いよくぶつかり弾き飛ばされた。
「「はっ?」」
「我が一番!」
蛮の魔王がマシンの上でふわふわの胸毛をそらして立っている。その姿は自身が金色に光っているようでとても眩しい。
「まさかスーパースターがあったのか」
「きんきらおほしさまをげっとしたぞ。むっ、どこにいった?」
確か炎の魔王がやっていたゲームのアイテムで無敵になって相手を弾き飛ばすものだったはずだ。
「蛮の魔王しゃま優勝おめでとうごじゃいましゅ。優勝商品は、◇の魔物を呼びだしぇましゅよ」
「うむ、こぶんは多い方がいい」
「わん」
召喚回数が増えるのかと思ったのだが違ったようだ。
「優勝を逃したみなしゃまは、参加賞として召喚回数が二回増えましゅ」
「あっさり増やしてもいいのかい」
「あと八部屋ありましゅので。さぁ、次の部屋にご案内でしゅ」
足元に魔法陣が広がると一瞬で意識が途切れた。
人物紹介
竜騎の勇者:精神を体現したドラゴンを出せる
天の魔王:空は俺のものだったのだが翼を片方失ってから空を飛んでるやつは撃ち落とすようになった
空帝の勇者:とある帝国の皇帝で魔王から翼を奪ってから飛べるようになったらしい




