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ムゲンWARS10周年だよ!全員しゅーごう!  作者: 猫田33
チキチキムゲンレース
3/7

第二の部屋 前編

ちょっと長いから前編と後編に分かれます

 落ちた先は、闘技場のような場所だった。

 奇妙な黒い道が闘技場の内側をぐるりと回って外に出ており、どんな場所なのかわからないが用捨なく照りつける日光が暑い。


「皆しゃんにはレースに出場してもらいましゅ! 出場すればクリアでしゅが先着順で景品がありましゅ」


 景品というのは、召喚回数が増えるのが妥当だろう。


「しゅたーとゴールは、この会場でしゅ。コーシゅは、マシンに表示されていましゅが先導の後についてもいいでしゅよ。喚んだ勇者や魔王に乗せてもらうのは有りでしゅ」

「駿の魔王を喚べば確実に勝てますね」

「駿の魔王しゃまは、早しゅぎなので運営側でしゅ」


 下半身が黒馬の白髪の青年が蹄を鳴らして歩いている。


「ということだ。先導するから着いてこい」

「そしてレースの機体は、こちらでしゅ」

「見た目がマリ◯ーだな」

「参考にしただけでしゅ」


 確かに炎の魔王がしているゲームで見覚えのあるものだ。しかし脇にも乗る場所がもう一箇所ある。


「サイドカーには召喚した勇者しゃまや魔王しゃまをお乗しぇ出来ます」

「浮けないのがほとんどだからな」

「これどーやって進むんだ?」


 金色の勇者が、質問した瞬間にイクシュと炎の魔王がため息をついた。そんなに変な質問をしただろうか。


「足元の右側の板がアクセルで進む。真ん中の板がブレーキだ。左のレバーで速度変更とバック。そんなところだろう?」

「その通りでしゅ」


 イクシュが説明していると、読心の勇者が言いにくそうに口を開いた。


「私、目が見えないのですがついていけるでしょうか」

「読心の勇者様には特別なのを準備していましゅ。咆の魔王しゃま〜」


 空から狼のような体躯にドラゴンの翼が生えた魔王が降りてきた。その体は、とても大きくコースの幅半分をしめている。


「まぁ、咆の魔王様はとても大きいのですね。大きな音で驚きましたわ。よろしくお願いします」

「あなたは目が見えていないと聞いた。鞍をつけられるのは嫌だからしっかり掴まってほしい」

「まぁ、しっかりしてさらさらな毛並みですわね」


 金色の勇者は、マリ◯ーモドキよりもモフモフなあっちがいいと思っていた。だが炎の魔王は、違うようでマシンをぐるっと見回している。

 

「マシンの改造は可能だろうか」

「出来ましぇん。途中にアイテムが落ちていますので拾って使ってくだしゃい」

「やはり丸パクリ」

「皆しゃまに理解しやすいのでしゃんこうでしゅ。しょれよりレーシュを開始しマシュ。駿の魔王しゃまが先導しましゅが迷った場合マシンにカーナビがあるので見てくだしゃい」


 早速、灰色のマシンに乗り込むと金色に変わった。隣の炎の魔王は、赤に火のマークになっておりそれぞれのテーマカラーと模様らしい。

 

「マシンの開発は、兵機の勇者しゃまが外装で術の魔王しゃまがエンジンで電の魔王しゃまがカーナビ担当の合作でしゅよ」

「作成者が誰もこの場にいないのは出不精だからだろうな。よく作る気になったもんだ」

「開発者全員ロマンだと言っていたそうでしゅ」


 集厄の勇者がハンドル脇にあるカバー付きのスイッチを見ていた。

 

「カバー付きのスイッチは、自爆スイッチでしゅ」

「なんでそんなのつけたんだ! やめろ、押すな」


 集厄の勇者は、必死に悪霊?の手がスイッチを押さないよう掴んだが一足遅くポチッと可愛らしい音の後に爆発音がして吹っ飛んだ。


「開始前からの退場は、想定外でしたので特別にこの部屋で復活させましゅね」


 イクシュが二拍手すると、爆発現場に集厄の勇者と吹き飛んだマシンが現れた。


「開始後は、最初の部屋から自力で戻ってくだしゃい。開始しましゅよー。三、二、一、しゅたーと!」


 開始の合図と共にアクセルを踏めば勢いよく走り出す。あまりの速さに目がまわるが、駿の魔王へ着いていくうちに慣れた。会場から出ればそこは、岩と砂しかない砂漠だった。


「どんだけ広いんだココ」

「さあな、少なくともカーナビの範囲はあるだろうな」


 並走して走っているのは、炎の魔王で遅れて軍師の勇者と透輝の勇者。そしてトップを走っているのは、読心の勇者と咆の魔王のコンビだった。体が大きい分一歩が大きく速い。


「流石に咆の魔王は、速いなー」

「何を言っている。一番は蛮の魔王だ」

「へっ?」


 先導している駿の魔王のすぐ後ろで小さな黄色のマシンが追走している。非常に楽しんでいるようで笑い声が金色の勇者のところにも届いた。


「なんであんなに早いんだ?速さがおかしいだろ」

「同じ馬力が出るマシンなら重しが軽いほうが早いだろうな。それよりも透輝の勇者のアレは、反則じゃないのか」


 後ろを見れば透輝の勇者は、ハンドルを握っていない。あろうことか手が置かれるべきハンドルに足をのせていた。


「魔術で運転するのは、問題ありまちぇん。ご自身の力を使っていいでしゅよ」

「そうか。理解した」

「ところで結構速いはずなんだけどどうやってついて来てるんだ」

「えっへん、これはホログラムでしゅ。そろそろチェックポイントに着きましゅ」


 チェックポイントとはなんだ? と思っているとオアシスでやたら布面積が少ない格好の女性が二人とも看板を持っている。やけに整った顔立ちと背中の羽や翼を見るに魔王のようだった。カゲロウのような羽の女性が飛び跳ねる度に揺れる胸は、見ていられないの。翼の女性も大きく手を振ると


「あらー、顔を赤くして可愛い勇者ね。お姉さんといいことしない?」


 金色の勇者がシドロモドロしていると、炎の魔王が呆れたように溜息を吐いた。


「そいつは気の魔王だ。お前が近づくとゾンビにされるぞ」

「ゾンビ?!」

「いやぁねぇ、誰にでもするわけじゃないのよ? それにこーんな暑いとこに来たんだから喉乾いたでしょ」


 紫色の飲み物が入った五つの木のコップがテーブルに並べられた。コップは、それぞれ特徴らしいものがない。


「三つがブドウのジュース、一つが気力たっぷりドリンク。最期の一つがちょっとお昼寝しちゃうジュース♡」

「睡眠薬入りか。時間がかかるとレースは不利だな」

「誰かを召喚して代理で飲んでもらうのもいいそうです」


 翼の女性が微笑みながらエグい提案をしてくる。それは生贄を準備すればいいということに他ならない。


「申し遅れました。私は、歌の魔王と申します。よろしくお願いしますね」


 歌の魔王が祈るように手を組む姿が目の毒過ぎる。なぜこんな格好なのだろうか。


「イクシュ運転代理を喚ぶのはありか?」

「いいでしゅよ。誰を喚ぶのでしゅか」

「森の魔王だ」

「あいあーい」


 イクシュが拍手すると地面から小さな芽が現れると若木になり大木になる。その大木には、人が一人通れる大きさの虚が開いており白い手が出てきた。そして目に鮮やかな緑の髪の人物が出てくると炎の魔王に蹴りかかったが躱された。


「大人しく蹴られろ」

「ワンパターン過ぎる」


 顔面から地面にダイブしてぷるぷる震えている。上げた顔を見れば額を擦りむいている。


「あの、直接手当が出来ないのですがこちらをお使いください」


 読心の勇者が、森の魔王へハンカチを渡している。


「重症じゃないんだから気にしないでくれる」

「痛そうな音だったので」

「あんた見えないの」

「はい、でも人の痛みがわかる人でありたいなと思っています」


 森の魔王が、読心の勇者のハンカチを受け取った。なんだか微笑ましいと思っていると従僕の勇者が声を出して驚いている。


「イクシュさん、堕の魔王を喚んでくれますか」

「あい」


 イクシュが拍手すると青い空に黒い線が現れ人が通れるくらいぱっくり割れた。割れた中から天使のような風貌の人物が現れる。


「堕の魔王さん、テレパシー使えたんですか。『聞こえるか。同士よ』って驚きましたよ」

「童貞連盟の仲間なんだからレースクイーンの格好の美女の気配を察したら行きたくなるだろ」

「大きな声で言わないでください……」


 恥ずかしげな従僕の勇者の近くにいた軍師の勇者が距離を開けた。従僕の勇者がひどく傷ついた顔を見せたが堕の魔王が笑って肩を抱いている。


「さぁさぁ、綺麗なお姉様方。俺にジュースを下さい!」

「自分で選んでいいのよ?」

「美女が選んだものがいいんです」


 面白いと笑いつつ気の魔王がカップを渡した。


「たぶん男の堕の魔王! 美女のジュースを一気します」


 どこからか聞こえる一気コールが恐ろしい。だがそれ以上に堕の魔王が何を飲んだのか気になる。


「力が漲る!」

「栄養ドリンクが当たったのですか」

「それはたぶん普通のジュースだと思いますよ?」

「そうだろうな! 見よ毛並みの素晴らしさが増したぞ」


 蛮の魔王が誰かのマシンの上で胸を張っている。その隣には空になったコップが置かれていた。金色の勇者は確率が三分の一になったと思うので、直感で選んだコップを掴んで中身を飲み干す。濃厚なぶどうのジュースだが口に甘さが残らない不思議な味わいだった。


「これ、美味しいな」

「炎の魔王! ふざげるな、僕は絶対飲まない。ガボガボっ」


 最後まで言い終える前に炎の魔王に飲まされ、森の魔王は速攻で寝た。


「これは外れか」

「では、咆の魔王様。残りは普通のジュースのようですのでお飲み下さい。走り続けてお疲れではありませんか」

「ありがたくいただく」


 全員チェックポイントを通過出来るためジュースを飲んだ順番に、出発することになった。


従僕の勇者→蛮の魔王→金色の勇者→炎の魔王→読心の勇者


 炎の魔王は、寝たままの森の魔王をサイドカーに乗せたが寝心地が悪そうだ。




 集厄の勇者は、悪霊たちにハンドルを手を握る手を邪魔されマシンをぶつけながらチェックポイントに到着した。到着と同時に色々な視線が突き刺さりいたたまれない。


「最期の方が到着しましたね。私は、歌の魔王と申します。皆さん、コップを選んでください。元気が出るジュースとお昼寝してしまうジュースがあります。代理の方を召喚して飲んでいただくことも可能です」


 代理で飲んでもらうというのは、代わりに生贄を用意しなさいということにしか聞こえない。


「グレンさん……猟人の勇者様を喚んでもらえますか」

「あい、出来ましゅ」


 鉄とオークの無骨な扉が現れ、弓矢を持った右頬に傷がある男が出てくる。男は、琥珀色の三白眼を鋭く光らせ扉へ戻ろうとするがすでに扉はない。


「突然こんな場所によんですみません」

「あんた森で迷子になってた集厄の勇者じゃないか」

「その節はどうもありがとうございます。グレンさん」


 集約の勇者がたまたま採集にいった先で悪霊に道を迷わされ、森で餓死しかけた時に助けてくれたのが猟人の勇者だった。お腹が空いていると知ると獲ったばかりの鳥を焼いて食べさせてくれた。


「妙な場所にいるようだが俺は、弓は得意だがそれ以外は協力出来ない」

「俺がこの飲み物を飲むので介抱を頼めないかと思って。信頼出来る人がグレンさんしか思いつかなかったんです」

「信頼されるのは、悪い気がしないが……」


 猟人の勇者が困惑していると軍師の勇者が声をあげた。


「ずっと待っていたんだ。私が先にもらおう。イクシュ、機士の勇者を喚ばせてもらう」


 軍師の勇者の言葉にイクシュが返事をすると白い煙幕が出て晴れると仮面のようなものを着けた男が立っていた。最初来た時に戸惑うことが多いのに無表情に軍師の勇者のことを見ている。


「相変わらず冷静だな」

「コレでもオドロイテいる。国でアナタの魔力が突然ショウシツしたのにココにいる」

「時間経過があるのか……厄介だな。あまり留守にするのは得策ではない。ところであの飲み物の成分分析してくれないか。何もないものが三つある」

「ワカった」


 少しの間を空けた後に一つのカップを選んだ。


「コレだ。ワタシが飲むカ?」

「いいや、私が飲もう。お前には運転を頼みたい。あれくらいならなんなく出来るだろう」


 機士の勇者が小さく頷いたのを確認すると軍師の勇者は、カップの中身を一気に飲み干した。口の端に残っているジュースを機士の勇者を見つけてハンカチを差し出している。


「さぁ、私たちに先に出発させてもらおうか」

「いいわよぉ。行ってらっしゃーい」

「全速力で運転しろ」

「リョウカイした」


 二人とも乗り込むとびっくりする速さで砂漠を駆け抜けていった。


「介抱してくれと言っていたが、俺はあれを運転出来る気がしない。代わりに飲もう」

「いや、そんな悪いですよ」

「だが……面倒だ。俺が飲む」


 猟人の勇者は、ジュースを止める間もなく飲み干したが特に体の変化がないようだ。集厄の勇者と猟人の勇者は、お互いにほっと一息ついた。そしてこれからどうしようかと離している間に蒼の魔王がイクシュに話しかけた。


「イクシュ」

「あい、蒼の魔王しゃま」

「青の魔王喚ぶ」

「わかりましゅた!」


 空から氷の塊が降ると二つに割れて王冠を被った青い瞳の鳥のような子どもが現れた。つぶらな青い瞳は、好奇心からか輝いている。


「キシシシシ、ボクを喚んだのだぁれ」

「ボクだけど、この間の借り返して」

「げっ、キミは蒼の魔王くん。ちょっとイタズラしただけだから許してくれたでしょ」

「返して」


 蒼の魔王は、美しい少女のような面立ちをしているせいか無表情に詰め寄られるととても威圧感がある。そう感じているのは青の魔王も同じようで冷や汗を流していた。


「わかったよぉ。それで何をすればいいの」

「コレ運転して」

「わっ、何これ面白そうなおもちゃ。そういうことなら早く言ってよ」


 上機嫌でマシンに乗り込む青の魔王の隣にジュースを持った蒼の魔王が乗り込んだ。


「乗りながら飲む。いい?」

「はい、いいですよぉ。いってらしゃいませ」


 歌の魔王の返事と同時くらいにマシンが走り出した。びっくりするくらい土煙を上げて走っているのだが青の魔王の笑い声しか聞こえない。 


「さて、我々はどうしようか。私としては、レースよりもコレの目的を一度整理したいと思っているんだ」

「同感だ。私は、あまり戦闘が得意な魔王ではないから推測して先回りしたいと思う。英雄として歌になっている宝石の勇者の意見ならぜひ聞きたい」

「宝石の勇者なんてただの古典だよ。それに私がそのような歳に見えるかい?」


 語の魔王と透輝の勇者の話が不穏過ぎて聞きたいような聞きたくないような気がする。猟人の勇者もそう思うのか聞き耳をたてているようだ。


「お互い警戒したままだったら話せるものも話せなくなりますよ。共闘するべきでしょう」

「百の魔王だったかな。彼の言う通りだろう。私も戦うよりも商売をしていたほうが好きでね。商人らしくこの場で契約を交わすのもよいと思って残っていました」


 見る人がみれば優し気な笑みなのだろうが、獲物を狙う肉食獣に睨まれているようだった。集厄の勇者と猟人の勇者は、お互いに顔を見合わせてすぐに出発した。だが出発した後に歌の魔王が気の魔王に張り合っていたのが見えたが何があったのだろうか。




 出発に時間差があったものの、岩石が多くなると車が通れない場所が多くあまり差が広がらなかった。後方にいた何人かは追いつき誰が一位で到着するかはわからない状況に変わりなかった。時間がそれなりに経っているはずなのだが、太陽が高い位置にあるのに違和感しかない。

 気の魔王がチェックポイントだと言っていたので他にも同じようにチェックポイントがあってもおかしくないと思っている。


「あれはなんだ」


 途中でジュースの薬が切れた森の魔王が指さす方向を見れば、傘らしきものを持った人物が立っている。そしてそのわきには看板があるのでチェックポイントなのだろう。

 さらに近づけば傘の人物は、顔にキズがある強面の海賊のようでレースの日傘に違和感しかない。


「俺は海原の勇者。チェックポイントだから止まれ」

「その傘どうしたんですか」

「オシゴト中に呼び出されてな。レースの傘はいらねぇから戻った突っ返すために持ってんだよ」

「使う必要は、ないだろう」

「オカとウミじゃ暑さがチゲーんだ。あー、早く帰りてぇな」


 ならその厚そうな上着を脱げばいいのではないかと思うが、金色の勇者は言っていいものなのかと少しためらった。


「こちらとしても何かあるなら早くやってくれないか」

「それもそうだな」


 海原の勇者は、一つ咳払いすると参加者を見て話し出した。


「さて諸君、俺は泣く子も黙る海賊だ。だが海賊にも怖いものがある。知ってるか?」


 やけに引っ張るなと金色の勇者は、感じたがまだ本題が出ていないので黙った。


「ほとんどが知らないだろう。貿易船を持っているそこの魔王なら知っているかもしれないが」

「語り継がれるもの、伝承ですかね。度が過ぎれ臆病者と言われますが生き残るのは大抵そういうのを信じるのが多いでしょう」

「流石だ。まぁ、俺からすればあんたも伝承の一部の存在だがな。狂気の赤い海や南の海の主とか」

「伝承といえば砂漠の怪物がありましたね。砂を泳ぎ、鋭い牙で岩を砕く。砂漠の怪物が現れた場所には、生き物が残らないと砂漠の民たちが言っていた」


 語の魔王が手帳らしきものを取り出しめくる。


「そうらしいな。でだ、その砂漠の怪物を倒せっていうのがここのお題だ。おたくらも荒事になれてるだろう?」

「海原の勇者君、他人事のように言っているけど君も巻き込まれるんじゃないかい」

「透輝の勇者っていうんだっけあんた。これはあくまでゲームだからなぁ。砂の怪物が現れる場所が決まっているんだ。見えるだろ」


 ベージュ色の砂や岩が広がっている砂漠でそこだけ血のように赤い砂と岩が広がっていた。大きさは、小さめの街が入る程度でそこそこ広い。不自然さが不気味さを増させているようだ。


「あの赤いとこでだけ砂漠の怪物が出てくる。赤いとこ以外には出て行かない」

「なぜだろうな、何か砂に違いがあるのか。語の魔王、他に知っていることはあるのか」

「砂漠の民が残している英雄譚の唄がある」


砂漠の村は 怪物に生贄を捧げていた

捧げられるのは 子どもや女性ばかり

旅の英雄は 身代わりを申し出る

英雄は 女の衣を纏い朱い岩の上で待った

怪物は 砂から現し岩ごと英雄を飲みこんだ

村人は叫んだ 次は己の番だと

砂漠の怪物は叫んだ 英雄が鋭い剣で引き裂いた

朱い大地に倒れ伏す怪物は 砂に飲み込まれた

英雄は 蒼き剣を携え去りゆく


「うわぁ、なんか知り合いな気がするよ。でももう一回怪物の中に入るのはごめんじゃないかな」

「私なら一回でも体内に入るのはごめんですが」

「とりあえず直接知っていそうだから喚んでみようかな。僕は一回も喚んでないし。翡翠の勇者を喚んでくれないかな?」

「あい、翡翠の勇者しゃまでしゅね」


 砂漠に似合わないミントグリーンの扉が現れて翡翠のような瞳の美人が現れた。出てすぐに腰に下げた剣に手をかけ警戒されたが透輝の勇者が声をかけた。


「久しぶりだねぇ」

「あなたが私を必要とすることはないと思っていた」

「今回のコレは、そういうものではないらしい。ところで君は砂漠の魔物を討伐したことがないかな?」


 翡翠の勇者は、眉をしかめたが朱い砂漠を見て何か思い出したようだった。そして思い出した顔がまるで、昔話をする老人のように遠い過去を見ているように見える。


「英雄は、私ではないが共にいたから知っている。赤い瞳が輝いてる勇者らしい人だった。だから怪物に困っている村人を救いたいと言っていた」

「えーとっ、討伐方法がわからないってことでいいんっすかね」


 金色の勇者が遠慮がちにいうと翡翠の勇者は、首を傾げ一人納得した。


「英雄ではないだけで討伐方法は、知っている。おびき出して切ればいい。ドラゴンが切れれば砂漠の怪物も切れる」

「ドラゴンとか簡単に切れるものじゃないと思うんっすけど……」


 同意を求めて周りを見れば不思議そうな顔をされた。一部同意のつもりか首を縦に振っているが半分もいない。確かに金色の勇者は、強くはないと思っているがドラゴンは簡単に倒せるような魔物ではないはずだった。


「そうだっただろうか? ただ私が行っても地面から出てきてくれないんだ。だからどうやって地面からおびき出すかが問題で。あのとき生贄として女と子どもということだったからなんとかなったが。今回も同じ手が使えるのかわからない」

「ふむ、条件付きで現れるタイプの敵ということか。女や子どもが生贄にされたというなら抵抗出来ない弱い存在ということだろうな」


 やたら視線を感じると次々目が合う。どうしようもないのかと思っていると集厄の勇者も顔を青くさせている。女性は、読心の勇者がいるのだが生贄にするのは忍びなかった。


「俺、おとりになります」

「いや、それならオレがやります。オレだって勇者なので何か役にたちたいって思ってたんです」


 二人もいらないのではと思ったが、囮が多い方が釣りやすいと語の魔王が言う。


「二つに別れて現れたら合図しよう。私の角笛ならきこえるはずだ」

「なら俺は、指笛を鳴らす。猟で使うから広く聞こえるはずだ」


 あれよあれよと二つに別れて作戦が決行された。金色の勇者のグループには、語の魔王と魔王たちで構成されている。


「魔王が悪いわけじゃないが多すぎじゃないか。ってなんか干からびてる!?」

「女の子や美女いない……」


 堕の魔王が地面に寝そべりまったく動かない。心なしか堕の魔王の周辺だけ暗い気もしてくる。


「そこそこ有能な魔王なのですが欲と連動してますからいささか面倒ですねぇ」

「そういえば推援の勇者という巫女がいると聞いた。試しに喚んでみよう」


 語の魔王がイクシュに頼むとたくさんの紙吹雪が降って落ちると光る棒を持った少女が現れた。


「こんにちは、推援の勇者です! 戦いよりも祈祷の方が得意です。よろしくね。ところで誰が喚んだんですかぁ?」

「私なのだがそこの魔王に祈祷出来るかね」

「天使みたいな見た目ですけど魔王ですか? って魔王が多くてびっくりです」

「俺は、勇者なんだけど。ちなみに金色の勇者っていいます」

「すっごい金ピカですね! どうせなら箱推ししましょう」

「ハコオシ??」


 言葉の意味がわからないまま推援の勇者が光る棒を持って踊り歌い始めた。それは不思議なもので見ていると元気が出てくる。そう思ったのは、金色の勇者だけではないようで堕の魔王が復活した。

 

「ふっかーつ、何ならビームも出そう」

「確かに何でも出来そうな気がしてくるな」

「それじゃあ、私は次があるので失礼しまーす♪」


 紙吹雪がまたどこからともなく現れると推援の勇者の姿が消えていた。


「あとは砂漠の怪物を釣り上げるだけということだな。戦力は充分にある」

「百の魔王さん、俺で釣れると思いますか。はっきりいって美味しくないと思いますけど」

「先ほど翡翠の勇者と話して思っていたのですが砂漠の怪物は蛇の魔物に近いものだと思われるので大声で暴れればとても目立ちますよ。蛇は、音に敏感ですから……ね」


 百の魔王は、紳士的な態度をしているがニヤリと笑う顔が魔王らしいもので距離感がわからなくなる。そもそも勇者と魔王と仲がいいというのも考えられない話だ。

 だが疑問が残る、本当に自分はそう思っていただろうか。


「騒がしいのは、得意だろう。あそこの岩に置いておけばいい」


 百の魔王が返事とともに大きな狼のような姿になり、金色の勇者を加えると岩の上に置いて朱い砂の外にでてしまった。残された金色の勇者は、囮として注意を惹くために暴れるかもしくは様子見をするべきか迷う。巻き込まれることが多いが好きで巻き込まれているわけではない。

 しかし、そんな迷いなど砂漠の怪物に関係などなく小さな地響きが鳴ると大きなミミズが姿を現した。ミミズという言葉を使ったがその表皮は、蛇のような黒い鱗に覆われている。そして口の中が細かい歯に覆われていてミンチにはなりたくないと泣きながら逃げる。

 角笛らしい低い腹に響く音が聞こえるが、指笛の高い音も聞こえる。一匹だと思っていたが二匹いたらしい。そもそももっといてもおかしくないことにぞっとする。


「蛇革は、好事家に高く売れるので私がやりましょう。あの大きさならなんにでも出来る」


 貿の魔王は、黒いモノ取り出すと砂漠の怪物の口に投げ入れた。砂漠の怪物は、口に入ったものを咀嚼しようと口を閉じた瞬間痙攣して倒れた。

 倒れた砂漠の怪物に剣先でつついてもぴくりともしないため倒したようだ。


「貿の魔王殿、あれは」

「栄養たっぷりスープです。船員が誰も食べようとしないので残っていましてね」

「この世のものとは思えない匂いがしたぞ」

「カラダによいというものを色々いれたのですがね」


 スープなのに固形なのかと誰もツッコミをいれようとしない。そしてツッコミをいれたものが砂漠の怪物の二の舞になりそうだと黙った。


「そちらも終わったようだな。ところで切り口が見当たらないがどうやって倒したんだ」


 軍師の勇者が尋ねても誰も答えようとしないし答えられなかった。


「死ぬかと思いました……。翡翠の勇者さんが真っ二つにしたのも正直怖いんですが」

「よくわからないものを連れている君も相当だと思う。私は、また旅に戻らせてもらう」


 翡翠の勇者が言いかけるとまた砂漠の怪物が姿を現した。三匹目が現れて呆然としていると機士の勇者がやたら大きな銃を撃っている。


「欲望ビームMAX!」


 堕の魔王もどこからかビームを発射し、砂漠の怪物の頭が消失した。


「ビーム出そうって本当だったんだ」


 強力な魔力を浴びたため従僕の勇者が、ダウンした以外は無事だった。


「なんだよぉ。全員無事とかおもしろくねぇなぁ。もっとこう派手にドンパチやって負傷してもいいんだぞ」

「それではあなたの船に会ったらそうしましょうか。勇者だから復活出来るので練習台に良いですね」

「そりゃあ、勘弁願いたいねぇ」


 なんだか不穏なので早く出発しようとしたのにエンジンがかからない。どうすればいいんだろう。

人物紹介

駿の魔王:半人半馬の魔王。光速並みに速いので前方にいると挽かれてミンチになるとか

兵機の勇者:勇者に頼らない兵器を作ることを目指している勇者

術の魔王:魔術の行使がしやすいからと自分の角を追って杖にした。マッドサイエンティスト感がある

電の魔王:素手?で触ると感電するらしい

咆の魔王:狼とドラゴンの組み合わせがかっこいいと思う

気の魔王:厄介三人衆のお色気担当。完全に骨抜きにして下僕にしちゃう

歌の魔王:歌が好きだけど聞いたらアカンタイプ。気の魔王と胸の大きさで競っていることがあるらしい

猟人の勇者:名前はグレンという頼れるお兄さん。仇の魔王がいるらしい

堕の魔王:童貞連盟の一人。欲望に忠実

機士の勇者:感情を持った高性能ロボ。軍師の勇者が所属している国にいる

森の魔王:植物至上主義。植物以外は全て肥やし。炎の魔王が嫌い

青の魔王:いたずら大好きな魔王。ペンギンみたいな配下がいる

海原の勇者:泣く子も黙る海賊だったのに勇者になってしまい好かれるのが嫌。魔王滅べと思っている

翡翠の勇者:宝石組と呼ばれる古参の勇者の一人。剣が二本あるらしいが今回は使わなかった

推援の勇者:信仰により力を得るが推すことでも発揮される。どういう風に発揮されるかはまだ未知数

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