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第一の部屋

「また会えるなんてな」


 いままで無表情だった黒い軍服は、東方の剣を抜いて好戦的な笑みを浮かべる。

 金色の勇者は、肌がざわつく感覚にこいつはヤバいと思った。そしてその前にいる見上げるほど大きい真っ黒な魔物は、もっとヤバい。頭に響くたくさんの声は、この魔物が元だと炎の魔王が言っていた。

 何が起きるかわからないこの場所で、自分に何が出来るのかと手元の剣を強く握りしめた。




 金色の勇者が、一瞬気絶した時に妙な夢を見た。運は悪いが勘がいい時があるのでもうほとんど記憶に残っていない。夢が現実にならなければいいと思う。


「イタタっ、蹴らなくてもいいだろ」


 落ちるような感覚がしたのに思ったより痛くない。頬に当たる感覚は、硬いのに不思議だ。隣には気絶した集厄の勇者がいる。


「ハッハッハッ」


 薄暗闇で短く呼吸する音がする音の方向を見れば四角い頭の犬がいる。犬は真っ黒で辛うじて口がわかるが目がわからない。


「何なのお前」

「ハッハッハッ」


 犬に敵対する様子がないもののイクシュは、部屋のお題をクリアしなければならないと言っていた。


「お前お題何か知ってるか?」


 犬は、問いかけに答えず金色の勇者たちの周りを走り始めた。ひとまず集厄の勇者を起こそうと手を伸ばした途端に上から炎の魔王が降ってきた。


「ぐぇ」

「移動したかと思ったんだが」

「まさかまた上から降ってくるのか」


 隣を見れば正に気絶している集厄の勇者の上に、読心の勇者が落ちて謝っていた。不運ではあるのだが自分もそちらが良かったと金色の勇者は、ジト目で集厄の勇者を見た。


「あー! あなたの出番は後でしゅ。後!」


 イクシュが指をさして犬に何か言っているが、遊んでもらえると思ったらしく尻尾を上げて走り回っている。


「四角い頭の黒色犬……? この犬どこかで聞いたことがあるような」


 頭がウミヒツジの人物で、素なのか被り物なのか見分けがつかない。


「気のしぇいでしゅよ! しょれよりもこの部屋では、敵が出現しゅるので勝ってくだしゃい」

「現れるのは、何体ですか」


 身なりが良い中性的な見た目の人物が赤い瞳をイクシュへ向けた。攻撃的な雰囲気はないものの底しれないそら恐ろしいと思ってしまう。


「貿の魔王しゃま。敵は、四体でしゅ。全て勝てればクリアでしゅ」

「勝つ条件は、相手が降伏するもしくは戦えなくなるでよいですか」

「しょの認識でいいでしゅ」

「それならなんとか出来るかもしれないですねぇ」


 透輝の勇者は、のほほんとした顔で言っているがどんな相手かわからない。魔王と戦うことだって未知と戦うのと変わりないが全く情報がないというのは少ない。


「金色の勇者君、不安そうな顔をしていますが先程の条件は倒し方を指定していないだけ楽ですよ」

「そうだな。物理攻撃のみとか魔法だけとかは言っていない。だがどんな相手かわからない以上立場や二つ名を表明して二手に別れた方が早そうだ」

「二手に別れるのは賛成です。それに二つ名を表明するのもです。共闘するなら呼び名がわからなければ困ります」


 一度も二つ名を呼ばれていない牧師姿の青年の目が泳ぐ。目線の先には黒い軍服の優男がいた。腕を組み鋭い視線をこの場にいる全員に向ける。誰も話さないのを見て溜息を吐いた。


「軍師の勇者だ。そこの気が弱いのは従僕の勇者という」


 従僕の勇者は、首を縦に振り距離をとった。


「おい、おまえなんでさっきから一言も話さないんだ! 身体が大きいからって見下してるのか」


 蛮の魔王が従僕の足を蹴りつけた。従僕の勇者の顔は、みるみるうちに青くなり涙目になっている。金色の勇者は、従僕の勇者に何がおきているのか察した。


「駄目だ」


 金色の勇者は、蛮の魔王を掴んで引き寄せた瞬間。従僕の勇者は盛大にリバースした。蛮の魔王を庇った金色の勇者と何故か袋を持っている集厄の勇者は気まずい。


「すみません、すみません。魔力酔いが酷くて。我慢してたんですが」

「勇者なんだよな。魔力酔いって困るんじゃないか」

「……はい、慣れればましだと」


 従僕の勇者は、口元をハンカチで抑える。金色の勇者は、蛮の魔王を下ろしついたものをどうしようかと周りをみると頭上から水が降ってきた。


「臭い」


 蒼の魔王が水を降らせたようだ。お礼を言おうとすると無表情のまま顔を背けられる。


「おい、金色の勇者。さっきの無礼は役にたったから許してやろう」

「そうっすか」


 金色の勇者は、正直びしょびしょの状態の方が気になってしょうがない。誰か布くれと思ったら炎の魔王に炙られた。


「あっっう」

「遊んでいる場合ではないようだぞ。あれが敵だろう」


 薄暗闇の向こう側で笑い声が聞こえてくる。近づくに連れてそいつはおとぎ話に聞く巨人のような大きさをしている。口がないのに笑い声が聞こえて目元は邪悪に歪んでいた。そして白い手が集まり人のカタチになっている。


「不快だな。燃えろ」


 どこからともなく火がつき眼の前の魔物を覆っていく。悲鳴をあげるような光景なのに魔物の笑い声のみが響き渡り悪夢を見そうだ。


「むっ、まだ足りないか。火力をあげよう」

「なら援護しようか」


 透輝の勇者から風が吹くと火はいっそう強く燃え上る。しかし魔物は、相当タフなようで六つの手からビームを発射させた。金色の勇者の髪の先にビームが当たり焦げる。

 そして集厄の勇者は、背後の何かに引っ張られて顔面から転んだ。しかし転ばされていなかったらビームで蜂の巣になる位置に見えたのは気のせいか?


「ビームは反則だろ!」


 ビームは様々な方向へ放たれ地面を焦がし、困惑する読心の勇者に向かっている。金色の勇者は、止める方法が思いつかないままがむしゃらに駆け出していた。

 

「逃げろっ」


 金色の勇者は、間に合わないと目を閉じることも出来ない。しかし水の膜が出来て鏡のように自分の姿が写し出された。


「ギャーギャーうるさい」


 蒼の魔王が呟くとビームは、水鏡に反射されてかえっていった。


「ワハっ」


 反射したビームが当たったのがトドメだったようで静かに消えた。


「一体目倒されたでしゅ。あと三体でしゅよ」

「おい、イクシュ。なんで▼の魔物がいる。まさか他のもそうなのか」


 炎の魔王がイクシュに脅…話しをすると目線が泳ぐ。心なしか羽をパタパタさせる回数が増えている。


「確認しまちた。魔物のじょーほうを公開ちましゅ。△魔物と▲の魔女、▽の魔人でしゅ」

「望の魔王の誘拐事件ですね。聖界魔界の各地に現れたと聞いています。皆様の誰かも対峙したことがあったのではないですか」


 語の魔王が話した内容に金色の勇者は、過去の相手を思い出した。だが魔物が最後どうなったのか思い出せない。


「潰して、溺れさせた。なんでいるの」


 蒼の魔王は、不思議そうな顔をして物騒なことを言っている。


「私もだが、何人か覚えがあるようだ。何がしたい」

「イクシュは、ゲームの進行をまかしゃれただけでよく知らないでしゅ。それよりも次がきまちたよ」


 右側にベールを被った黒いモノがいた。一つしかない大きな目は、秘するように閉じられている。体らしき場所の形状を見れば女性のようで▲の魔女なのだとわかる。そして左側には、白髪に白い三角の面をつけたのが▽の魔人だろう。


「とりあえず二手に別れてそれぞれの相手をなんとかしたほうがよいでしょう。ひとまず私は、▲の魔女をなんとかする伝があります」

「▽はオレに任せろ!」


 蛮の魔王が金色の勇者の頭の上で胸を張っている。


「いけ金ピカ一号」

「俺のこと!? 俺は金色の勇者かエーっていう名前が」

「進めと言っている。喚びたいのが大きいから距離をとりたい」


 大きいとはどれくらい大きいのだろうか。小さい蛮の魔王が大きいというのだから案外小さい気もする。


「ちび、どうやって喚べばいいのだ」

「イクシュでしゅ。誰を喚ぶのか宣言してくだしゃい」

「うむ、なら綿の魔王を召喚する」


 綿の魔王とはどんな魔王だろうかと様子を伺っていると上から大きなモフモフが降ってきた。そしてモフモフは、動き出してつぶらな瞳と笑みを浮かべた口元が見える。


「久しぶりだな綿の魔王」


 綿の魔王は、手足をバタつかせてニコニコしている。


「そこにいる白いお面の奴が一緒に昼寝したいらしいから喚んだぞ」


 ▽の魔人は、一言もそんなこといっていないのだが綿の魔王は▽の魔人をふわふわなお腹に寝かせた。▽の魔人は、何が起きたのかわからないようだ。


「▽の魔物を倒すんじゃないのか」

「条件は、相手が降伏するもしくは戦えなくなる。ということは戦う気力を削げば我々の勝ちでしょう」

「問題ありまちぇん」


 屁理屈にしか聞こえないがイクシュが問題ないというのならこれでいいのだろう。


「確か綿の魔王にだっこされたままだと最終的に綿になるのだから戦闘不能になる」

「なにそのエグい情報」

「あっちもだいぶイカれてるぞ」


 ▲の魔女が全身氷漬けにされていた、と思ったがガラスのようなもので覆われている。


「ガラス??」

「結晶化させたのです。アレはいいですね。好いた相手をまた見れるなど素晴らしい」


 白銀の髪のまるで貴族のような優美な男が恍惚の笑みを浮かべて結晶化した▲の魔女に頬ずりしている。


「神父さまがロープを持って笑っていましたが……」

「たぶん精神支配で相手を殺めるのだろうが相手が悪いな」

「好いた相手なら結晶化すれば共にいられますからね。どうやって持ち帰りましょう。城のどこに置きましょうねぇ」

「封の魔王、私に交渉をお任せください」

「貿の魔王君の取引は、いつも条件がいいから信用しているから頼む。私は、先に城に戻って片付けよう」


 封の魔王は、空間が湾曲した中に消えていった。


「後は△の魔物だけですね。私、足を引っ張っているばかりで申し訳ありません」

「読心の勇者さんが気に病むことなんてないですよ。俺とか悪霊に引っ張られて転んでばっかりだし」

「そこの君達和んでいる場合じゃないみたいだよ」


 黒い大きな人形からたくさんの声が聞こえる。老若男女重なり合わさり雑踏にいるような意味のない言葉たち。


「また会えるなんてな」


 軍師の勇者は、東方の剣を抜いて好戦的な笑みを浮かべた。金色の勇者は、直感的にこいつはヤバいと思った。


「あのときの借りを返させてもらおう。△の魔物」


 意味のわからない言葉の重なりが木霊する。言葉の意味がわからないが、非常に怒っているように見える。


「イクシュ! 召喚を使う」

「誰でしゅ」

「書簡の勇者を喚ぶ!」

「わかりましゅた」


 何もない空間に立派な木製の扉が現れる。そしてその扉から水色の瞳に黒いくせっ毛の少年が、気だるそうに歩いてきた。


「アレ? お前は」


 少年の気だるげな瞳に剣呑な光が灯り、足元に魔法陣が広がる。少年を中心にして風が吹くと、従僕の勇者の顔が青いを通り越して白くなっていく。


「もう一回」


 白い翼が見えたから鳥だと思ったが、上半身が人のカタチをしているのを見て魔物だと気がついた。さらに異様なのは胸元から溢れている茨が生きているかのように動いている。


「行って」


 魔物は、頷くと茨が△の魔物に巻き付いていく。大きな目が書館の勇者に向くと茨の隙間から無数の黒い手が飛んでくる。しかし手は、全て軍師の勇者が切り捨てた。


「対処出来なくはないが数が多いな」


 書館の勇者に向かっていない手は、それぞれ対処していたが頭に響く声が邪魔して気が散る。攻撃の方法を変えたらしく体を崩して手が雪崩のように押し寄せてきた。


「あんなの対処出来ないよ! 死亡理由手に飲まれて圧死なんて書いたことない」

「数が多いのでしたら。イクシュさん、群の魔王を喚んでいただけますか」

「わかりましゅた!」


 ボフンと煙が出て消えると三つの頭を持つ猫がいた。


「困った時は、猫の手にゃーん。グンさんにゃ」

「こんにちは猫さん。私は存在しかわからないのだけれど黒い手がいっぱいあるの。止められないかしら」

「新しい遊びにゃ?」

「その猫に止めさせるのは無理じゃないか」


 金色の勇者の眼の前で群の魔王が増えた。たくさんの猫が現れて黒い手に猫パンチを次々当てていく。


「にゃははー」

「アレは俺が知っている猫じゃない」

「猫ではなく魔王だぞ。金ピカ」


 黒い手よりも猫の数が多いらしく黒い手を茨まで押し返した。そして茨の中に首を突っ込むと角が生えた少年を口に咥えている。少年は、気絶しているようだった。


「弱まった」


 茨の拘束が強くなり、△の魔物はやがて沈黙した。


「第一の部屋クリアでしゅ! 特殊達成条件、望の魔王の救出が達成されたのでボーナスで召喚が一回増えマシュ」

「最大三回になったということか」


 炎の魔王がブツブツと何か考え始めたが、金色の勇者は別のことが気になった。


「普通に受け入れているけど特殊達成条件ってなんだよ」

「特殊達成条件を達成しゅると部屋をクリアしゅるために有利なモノやコトが貰えマシュ。ただし、達成条件はひみちゅ」

「へー、それじゃあ特殊達成条件を達成したほうがいいんだな」



「あれ? ここどこぉ」


 望の魔王が気がついて泣き出した。その様子は、まるで小さな子どものようだ。


「また泣いてるにゃあ」

「にゃんにゃん?」

「そうですにゃん。キラキラはなんていうにゃ」

「ひっく、…望の魔王っていうの」


 小さい子どもと動物?の姿は、和むなとそれぞれ思っていると足元に穴が空いて落ちた。


【第一の部屋クリア】

貿の魔王:

軍師の勇者:軍服着ていて格好いいぞ。ちょっと秘密がある

従僕の勇者:牧師の格好の勇者だよ。実は力持ち

語の魔王:ウミヒツジ頭の魔王。自称被り物

封の魔王:結晶化してしまっちゃう魔王。きれいなものが好き

綿の魔王:魔界のト◯ロ。モフモフは最強

書館の勇者:普段図書館から出ないぞ。伸び代がすごい

群の魔王:猫の魂が集まった魔王。食い物につられる




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