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第2章 第7話 予知

 夏休みというイベントに出会えたのは10年ぶり。約40日という長期にも程がある休日を得られるとか大人になってからは考えられない。というか長期休みという存在そのものが考えられない。そもそも社会人になってから三日以上の休みをもらったことがない。それもあっても半年に一度程度。夏真っ盛りの時期も生暖かいエアコンが稼働するオフィスの中でひたすら熱いパソコンに向かい合っていた。え? お盆休み? 知らない子ですね……。



「ブラック自慢はいいんですよ! なにぼーっとしてるんですか!?」



 ちゃんと冷たい風を出してくれるエアコンが効いた自室のベッドで横になっていると、イシュが強く抗議してきた。



「いいだろ少しくらい休憩しても。勉強ばっかりするのも疲れるんだよ」



 俺の学力が低いのは日高先生の煽りではなく事実。いじめの影響から勉強になんてまるで集中できなかった。だがいじめがなくなった今。大学に進学できる可能性ができたとなると、嫌でもしなくてはならない。いい大学を出たからといって幸せになれるとは限らないが、多くのチャンスが得られるのは間違いなく事実。何より50代60代にもなっていまだに学歴コンプレックスに囚われている老人たちをたくさん見てきた。それほどまでに大学進学は人生に尾を引くものなのだ。



「そんな話じゃなくて……いいですか!? あなたは堂島さんと姫野さんに殺される運命にあるんですよ!?」



 イシュの怒りにいつもとは違う熱が帯びる。……そう。俺はこのままいくといじめっ子に殺される。そういう運命にあるそうなのだ。



「時期は一週間後の近所のお祭り。和泉さんに誘われて向かったあなたは調子に乗った彼らにリンチを受け、はずみで殺される。明確な殺意ではなく、ちょっとやりすぎてしまった。そんな理由で死んじゃうんですよ!?」



 その話は今日にいたるまで何回も聞かされてきた。そしてその返事もいつも同じ。



「だから行かなきゃいいだけだろ? お祭りに」

「そう簡単にはいきませんよ。運命は変わらないんですから」



 運命は変わらない。それこそイシュが口癖のように言っていた言葉だ。でもあくまで、簡単には変わらないだけ。



「運命は変わらなくても俺は変わってる。今までの俺だったらこんな風にベッドで休憩なんてできなかった。休むことだって慣れてなければとんでもない努力の成果だ。それに対策も一応打ってあるしな」

「……本当にあれで上手くいくんですか」

「さぁな。予想で全部上手くいくなら残業は存在しないよ」



 やるだけのことはやった。後は出たとこ勝負。それは仕事も人生も変わらない。その場その場の対応力こそが人生を左右する。



「いいですか佐伯さん……私は……!」

「わかってる。お前を悲しませる結果にはしないよ」



 イシュは人間界の運命には関われない。仕事上の……コンプラ上の問題で。そんなイシュが、あの時。運命が変わった時、咄嗟に二人を止めようとしていた。それほどまでにイシュは俺の身を案じているのだ。絶対に裏切れない。



「まぁがんばるよ。過労死しない程度にな」



 そして俺の運命を決める夏祭りが訪れる。

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