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第2章 第4話 嫉妬

「ぅぇ……きもちわる……」



 イシュが目を覚ましたのは翌朝。俺が学校に行く寸前だった。



「仕事行きたくない……体調不良……今月あと何回使えたっけ……?」

「個人的にはアリだと思うぞ。個人的にはな」



 二日酔いだろうと何だろうと体調が悪いのなら無理するべきではない。あくまで俺の考えで社会が許してくれるかは別だが。



「そうそう。アマミさんが来たぞ」

「課長が!?」



 ベッドに寝たままのイシュに毛布を被せながら報告すると一瞬にして飛び起きる。俺だって課長が寝てるうちに会いに来てたなんて知ったらこうなるから無理はない。



「そんな慌てなくていいよ。弊社の課長と違っていい人だろ? 全然怒ってなかったよ」

「怒ってないからいいってわけじゃないでしょ……? あぁ気まずい……なんて報告したら……!」



 本当の体調不良に陥りガタガタと震えるイシュ。この子が慌ててるのは初めて見たな。



「それで……課長はなんて言ってましたか……?」

「イシュをよろしくって。あと和泉のことだな」



 イシュの話をした後アマミさんは俺が知らない和泉との関係を説明してくれた。



「和泉は元々成績優秀な優等生だった。キャリア組として警察に入って警視庁に入庁するくらいにはな。でもそれは親から言われたからなんだってさ」



 俺も昨日初めて知ったが、和泉の両親も同じくキャリア組で警察に入ったいわゆるエリート家系だったらしい。



「まぁ正義感が強かったら俺のいじめを放っておかないよな。親から言われるままにただ勉強して、ただ教養をつけさせられて、警察官になった。その人生を俺が変えたらしい」



 説明されたが自分でも信じられない。本当に俺があんなことをやったのだろうか。



「和泉の家に乗り込んで両親に言ったんだってさ。好きな仕事に就かせろって。やりたくない仕事を続けることほど辛いことはないって。その結果……なんか俺にベタ惚れしたんだってさ」



 言うか言わないかで言えば、俺は間違いなく言うだろう。だがわざわざあまり関わりのない女子の家にまで行くだろうか。そんな行動力は俺にはないと思うが……。



「……やりますよ、佐伯さんは。やっちゃうから過労死しちゃうんでしょ」



 ゆっくりとベッドから立ち上がり、イシュが言う。



「本当に馬鹿なんだから。他人のことばっか気にしてないで自分の人生を考えてくださいよ」



 青い顔をしながらつぶやくようにそう口にしたイシュ。二日酔いだからか、あるいは俺の身を案じてか。その瞳はどこか辛そうに見えた。



「まぁ佐伯さんが生き返ろうが死のうが私にとってはどうでもいいですけど。むしろ早く諦めてほしいです。私の仕事も早く終わりますし……」

「ダーリン、迎えに来たわよ」



 取り繕うように紡いだイシュの言葉が、突然俺の部屋に入ってきた和泉の声にかき消される。こいつもこいつで天使なんじゃないかと思うくらい神出鬼没だな……。



「ダーリン、ラブラブ登校しましょう。いえ、むしろこのままダーリンの家でイチャイチャラブラブしたいわ。ダーリン言ってたわよね。学校なんてサボろうが就職はできるって」

「俺そんなこと言ってたの……?」



 まぁ不登校から一応は就職できた俺なら言いかねないけど……たぶんそんな意味合いでは言ってないと思う。でも……そうだな。イシュの言う通り俺は俺で自分の人生を考えなくてはならない。このまま真面目に学校に通ったところでおそらく過労死する未来は変えられない。それにここまで好いてくれている和泉を無碍に扱うのも気が引けるしな……。



「……そうだな。今日はこのまま学校サボるか」

「本当に!? うれしいわダーリン。実は私もしもの時のためにちゃんとひに……」

「せんぱーい! 早く行かないと学校遅刻しちゃいますよー?」



 和泉の問題発言を遮ったのは、さっきとは逆の立場になったイシュ。その服装はいつの間にか制服になっており、和泉の視線から実体化していることが伺える。



「……なんなのかしらあなた昨日からずっと。私のダーリンに近づかないでくれる?」

「なに言ってるんですかー? ……佐伯さんは私のなんですけど」



 和泉をあしらい俺の手を取ったイシュがそのまま部屋を飛び出る。俺はイシュと違って他人の心を読み取ることはできない。それに言わないでも伝わるなんてコミュ力もない。だから訊くしかない。



『イシュ……お前俺に彼女作れって言ってたよな。なんで邪魔するような真似を……』

『……なんかむかついたからです』



 そう返したイシュの顔は俺の位置からは覗けない。だがさっきまでの青い顔とはまるで違う、感情が溢れた表情をしていることは見なくてもわかった。

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