3.過去と希望~エリザベス視点~①
『ジークが死んだと連絡があった。まったくあいつは碌に役に立たずに勝手に自害しおって。軟弱な奴だとは思っていたがここまでとはな。明後日の葬儀にはみなで参列するぞ、せいぜい悲しそうな顔をしておけ』
家族で夕食を取っている時に告げられた次兄の死。
父と母と長兄はその後も平気な顔をして食事を続けている。私は溢れ出る涙を必死で我慢し食事をしているふりをする。
そして食事が終わり自室に戻ると扉をしっかりと閉めてから、一人で声を堪えて泣いた。
うっうう、っう。なんで…ジーク兄様が。
神様…は、いない…の?
どうして…優しい人から死んでしまうの…。
我がアダムス伯爵家は由緒正しい家系で、代々夫婦仲も良く子供の数も多かった。
表向きは貴族には珍しい家庭的な伯爵家…だが事実は違う、我が家ほど子供を家の駒として冷酷に扱う家はないだろう。
子供の数が多いのも夫婦仲が良いからでなく、切り捨てられる手駒を多く持っていたいがためだ。
大切に育てられる跡継ぎ以外は、幼少の頃から生家の駒となるべく厳しく育てられ、歯向かうことは一切許されない。
『お前達は意思を持たなくていい。貴族とは己の幸せの為ではなく家の為に尽くすものだ。忘れるな!』
『『はい、お父様』』
『家の繁栄の為』という鎖から逃れる術を知らない子供達は一人また一人と、用意された道に進んで行く。その未来が平凡なら幸せな方だ、しかし大概は不幸な結末を迎える者が多い。
アダムス伯爵家に生を受けた子供は跡継ぎ以外は贄となる運命。
私には兄が二人、姉が二人いた。長兄は跡継ぎなので父の思考を受け継ぎ兄弟は道具と思っている傲慢な人だ。
でも次兄は優しく聡明な人で自分がより虐げられても姉や私を両親や長兄から庇ってくれる心の強い人だった。
だがそれが良くなかったのだろう。自分達の思う通りに動かない次兄は最悪の未来を用意されてしまった。それはある公爵家で家令見習いをすること。家を継がない次男がより高位の家で家令として働くのは珍しい事ではない。
だが行く先が問題だった、その公爵は男色であり家令見習いは男娼として扱う男だった。勿論両親はそれを知っていて、公爵への貢ぎ物として次兄を差し出したのだ。