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22.絶望①

 やめてくれ!

 そんなこと言わないでくれ…!

 頼む…リズ。

 これ以上…傷つけるな…。



絞り出すように呪詛ともいえる別れの言葉だけを俺に残しリズの命は消えた…。

刺されたとは思えないほどの安らかな死に顔。

さっきまで俺の腕の中にあった温もりが徐々に失われ、リズの身体はただの死体のようになっていく。



ううぁあああああーーーー。

 

ぐうあああーー。


ああああああああぁぁぁーーー。


獣のような絶叫が温室に響き渡る。魔術師の狂乱を恐れて使用人達は誰も動かないし、動けない。


俺の咆哮とそれ以外の者の静寂。


どれくらいそんな時間を過ごしていたか分からないが、そんなに長くはなかったはずだ。


別邸の使用人の誰かが本邸まで知らせに行ったのだろうか。事の次第を聞いたであろう侯爵夫妻が使用人を怒鳴りつけながら温室の中に入ってきた。

のろのろと頭を上げそちらに目を向ける。


「子供は残念だったな。臨月くらいだったら腹を割いて子供を助けられたかも知れないが、まだこの大きさでは駄目だな。まあいい、また作ればいいんだ。お前に子種がある事は証明されているんだ、大丈夫だ。

失ったものを嘆いても時間が勿体ないだけだぞ。新しい妻を娶れば、エリザベスのことは直ぐに忘れられる、人間とはそういう生き物だ。とりあえず子供は1人いるんだから今度はお前の好みの女性を好きに選んでいいぞ、貴族の女性なら文句は言わん。それに今回の事は私が上手く処理するから心配するな。表向きは不幸な事故で死んだ事にすればいい。そうすれば我が侯爵家に汚点を残す事も無い」


「……………」


 こいつはなにを言っている…?

 不快な音として耳に入ってくるが言葉として理解できない…。 



エリザベスの死を悲しむことなく勝手な事ばかり喋る侯爵。驚くべきことに彼はエリザベスの死を偽装しロザリンの凶行を隠すつもりらしい。

侯爵の言葉を聞き唖然としている使用人達など気にも留めない。


今度はあの女を押さえつけている使用人にむかって、侯爵は唾を飛ばしながら怒鳴りつける。


「おいお前、ロザリンを離せ!そんな女でも我が家の跡取りになるかもしれん孫の母親だ。罪人には出来ん。みんな分かったか!ここで起きたことは不幸な事故だ。外で余計な事を喋ることは許さんぞ!」


ロザリンを地面に押さえつけていた使用人は慌ててその身体から手を離しすぐさま自由の身にする。他の使用人達はどうするべきか戸惑い黙ったまま下を向く。


「あなた、使用人達だって馬鹿ではないからちゃんと分かっているわ。後で侯爵家から特別報酬を出すわ、この意味は分かるわね?さあ、いつまでもさぼってないで散らかったここを片づけなさい。血の跡は消し去りすべて元通りにするのよ。いいわね?ロザリンもいつまでも転がってないで立ちなさい。本邸に戻ったらすぐにその服を燃やさなくては。今回のことは侯爵家の為に不問にするけど、多少の罰は受けてもらうわよ」


侯爵夫人も侯爵と同じ考えのようで、エリザベスの死を悲しむ様子は一切ない。それどころか多少の罰で済まそうとしている。

彼らにとって嫁は子を産む道具で替えのきくものなのだろう。



解放され立ち上がったロザリンは自分が勝ったことを確信し、ほくそ笑んでいる。


 捕まった時はもう終わりかと思ったけれども欲深い侯爵夫妻のお陰で助かったわ。

 正妻は死んでくれたし、もしかしたら次の正妻になれるかもしれない♪

 ふふふ、運命は私の味方のようね。



血で汚れた服を身に纏いながらロザリンは、媚びるような目を俺に向けてくる。

その態度は醜悪そのもので込み上げる吐き気を堪えず事が出来ず、その場に嘔吐した。


ゴボッ、ゲホッーー。


でもそのお陰でリズの死の衝撃でぼやけていた頭が徐々にはっきりとしてくる。そして自分のやるべきことが見えてきた。


 ああ、本当にこいつらは生存する価値はないな………。




 



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