20.悲劇
王宮での仕事を片づけて急いで別邸に帰ると、誰も出迎えることなく使用人達の怒鳴り声やすすり泣く声のようなものが聞こえる。
なんだ…何があった?
嫌な予感がして声がする方に走っていくと温室の前で使用人達が騒いでいる。
「おいっ!何があった!」
怒鳴りつけるように声を掛けると、一人の侍女が泣きながら訴えてくる。
「も、申し訳ございません!止められなくって、だってまさかメイドになって入り込むなんて…思ってもいなくて。気づいた時にはもう遅くて。間に合わなくて、何も出来なくて。奥様が、奥様が、」
侍女は混乱していて言っていることが支離滅裂だった。
チッ、俺は使用人達を乱暴に掻き分け中へと入っていく。温室の中はむせ返るような血の臭いが充満していて、使用人達に押さえつけられたメイド…いやロザリンが喚いている。
そしてリズが…血の海で倒れていた。
嘘…だろう…?
これはな・ん・の・冗談だっ…。
ううああああぁーーー!!!
「どけ、どけーーー!リズ、リズー!どうしたんだっ、しっかりしろぉっ。な、なんでこんなに血が…、ああ止まらない。クソッ、早く医者を呼べ!何してやがるっ、早くリズを助けるんだ!」
リズの胸を押さえるが血は止まらない。こんなに出血しているんだからこれ以上血を失っては駄目なのに‥‥。必死に手を当てながら『医者を呼べ!』と連呼する俺に、後ろから家令が何かを言っている。
「旦那様、もう医者は来ております。で、ですが傷が深く出血が酷いのでもう…手遅れだと」
何を言ってやがるっ。
手遅れ?それはどういう意味だ。
リズが死ぬ…?有り得ない!
これから赤ん坊だって生まれるんだぞ!
死ぬはずないだろうがっ。
あ、ああああ、ああああああーーー。
リズ…頼むから…笑ってくれ。
お帰りなさいって、いつも言ってくれているだろう…。
リズ、リズ…、俺を置いて…行かないでくれ。
‥‥頼む………。
自分の叫び声が遠くから聞こえるような気がする。
真綿に包むようにそっとリズが抱き締めると、彼女が目を開け俺の腕の中で『おかえ…りな、い』と言ってくれる。
「リズ!リズ!助けるから絶対に助けるから」
「……ご、めんね。ひと…り、に…て」
リズは涙を零しながら『別れの言葉』を口にする。
『痛い』って、『助けて』って、言ってくれ…。
なんで我慢するんだ!俺を頼ってくれ!
そして『一人じゃ寂しいから一緒に逝こう』と言ってくれ!
…俺を一人にしないでくれ…リズ。
そうだ、あれを使えばいい。今日王宮に提出した禁術の解析は完璧だ、俺ならきっと出来るはずだ。
古の魔術師が編み出したその術式は魔力の衰えと共に扱える魔術師がいなくなり禁術となっていた。
だが迷うことなく俺はそれを使うことに決めた。
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