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生まれる前2
父は都内でも下町とは呼べないが、上町とも呼べない湾岸部の工業エリアで生まれ育った。今ではすっかり平和になり見る影もないが、盗んだバイクで不良が走りまわっていたらしい。当時は一帯に臭いをまきちらす大きな麦酒工場があり、祖父はそこで電気系の仕事をしていた。祖父は独立した会社であり、麦酒工場はお客様であった。
父は幼いころの記憶を忘れる質の人間であったから、具体的なところはよくわからない。ただ、あまりモテるタイプではなかったように思う。私が子供のころはかっこいい男だと思っていたが、自分が大人になったいまは、実に平凡な男だと思う。先日久々に会ったら、どうも私のADHDみはこの人からの遺伝なのではと感じる部分があった。さらに工業高校卒でありながら、子供を二人とも大学に入れるくらいには働いたのだから、30歳を過ぎてもろくに働かない私と比べて彼のほうが偉いことは否定できない(なぜか私だけが奨学金という名の借金を背負い弟は背負わなかったのだが)。