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プロローグ

気が付くとよくわからない場所にいた。


絵本で昔見たかのような、淡い緑色の草原と薄青色に広がる空が埋め尽くす視界。


()()言葉を反芻するように、俺は思考を巡らす。


一体、何が起こっているのか──、と。









「お前は絶対に……許さない」


その言葉と共に背中を一突き、だった。


俺は激烈な痛みが広がるのを感じながら、ああこいつは……とその状況を察していた。


俺の恋人篠原凜華(しのはらりんか)、その元恋人にして現ストーカー。


こういう類の人間には何を言っても何を示しても理性的に受け入れられるはずもなく……俺こそがストーカーだと認識されてしまい、数か月間にわたる粘着行為の末に鋭利な刃物で後ろからグサリ。


俺は数秒間したのち意識を失い、そのまま死──




”メモリアルコード197、発動”




妙な声が頭の中でした。


明らかに意識を失っており、さらにはもしや死んでいるのではないか、といった状況なのにもかかわらず、その声は鮮明に聞き取れた。


無機質で忠誠的な声。だが機械のそれではない。確かに人間の声だ。




”規定にしたがい、再組成プログラム試行開始。──第一フェーズ成功”




その声はなおも続き、意味も解せぬことを淡々と喋り続けている。


俺はそこで明らかな違和感を認識し、現状を確認せんと試みる。


だが視界は気を失ったときから変わらず真っ黒、手足を動かそうとしても感覚ゼロ。果てには自分の拍動すら感じ取れない。





”──第二フェーズ成功──第三フェーズ成功──、──最終フェーズ成功。これより同調プログラム及び整合プログラム開始──共に成功”





謎の声は、淡々と「サイソセイプログラム」とやらの「フェーズ」を成功させていき、やがてはほかの「ドウチョウプログラム」「セイゴウプログラム」とやらに着手し、即終了。


そして……





”全プログラムの成功を以てメモリアルコード197を終了。認識フェーズへ移行”





この声を聞き終わったその次の瞬間、俺は真っ白な世界にいた。









「……お前は不運だった。ゆえに命を落としかけた」


その白い世界で初めに認識したのは、低く渋い男の声だった。


そしてその声とともに、目の前にパッと特徴的な風貌の()()が現れた。


何か、と表現したのは──男の声なのにもかかわらず、その見た目は明らかに人間の男のそれではなかったからだ。


神々しく輝く肉体に威圧感を放つ黒色の袈裟、全身に纏われた金色の光、そして手に持っていた謎の杖らしきもの。


そのうえ決定的だったこと──なんの予兆も見せず、瞬間的に俺の前に姿を現したその現象。

だが俺の見間違い勘違いではない。確かにその瞬間を認識している。


「だから私の権限でプログラムを発動させ、今こうして生命維持をしている」


俺はその現象の傍らで男?の言葉をひとつづつ解していく。


──命を落としかけた。


プログラムで生命維持をしている。


俺は何とか話そうと試みる──それは難なく成功した。


「ちょっと待って……俺はそのプログラム?に助けられて生きてるってこと……?」


恐る恐る聞いてみる。すると会話はできるようで、このような答えが返ってきた。


「そうだ。信じられないだろうが、要は私が死にかけのお前を助けた、ということだ」


それに続いて、


「名乗り遅れたな。私は所謂──神だ」


俺はその言葉を理解するのに時間がかかった。何せ日常生活でめったに聞くことのない言葉だったから。


「神……?」


「神、とはいっても、()()()の世界で言われているような、全能的な存在じゃない。私は十柱いる統監者が一柱、アルウェスという」


そのアルウェスと名乗った存在は、こう続けた。


「助けた、とはいっても、タダで生き返られるわけじゃない。このプログラムだってある程度の代償を必要とするからな」


『プログラム』。『そちらの世界』。『神』。突っ込みたいワードばかりだが、俺が口をはさむ間もなくアルウェスはさらに続けた。


「だから、明石(あかし)大空(そら)、お前にはある使命を課す」


アルウェスは俺を名指しし、その使命とやらを告げた。


「お前がいた別の世界で、その秩序を保ってもらう。とはいっても恒久的な秩序でなくていい──乱世となっている元凶を取り除きさえすればよい」


「その世界のどこかに、力をやみくもに振る舞い人間の生活を脅かしている何者かがいる。その正体を突き止め、無力化せよ」


アルウェスは手に持っている杖らしきもので俺を差した。


そのあといくらかの問答が続き──俺が持っていた疑問点やその世界の常識などである──やがて、俺は同年齢同様の姿で再び、足を地につけることとなった。


そして現在。


俺は心地よいほどに澄んだ光景を目にしながら──何やら大変なことに巻き込まれたな、と思った。

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