盗聴部屋
「はい?」
「平気で女を殴るそうよ」
「ああ、そうですか」
亮はその言葉で嫌な予感がした
「まさか?玲奈さんが」
亮はすぐに玲奈に電話をしたが
電話が通じなかった
「まだ、地下鉄だ」
亮は玲奈へメールを打つと
日本橋から銀座線乗って日比谷で日比谷線に
乗り換えて中目黒に向った。
「ほとんど同時に着くはず」
亮は電車の中で苛立ちを抑え切れなかった
日比谷線が地上に出るとすぐに
亮のスマートフォンのメールがなった
「中目黒で待っています、玲奈」
亮は心配そうに立っている玲奈を見つけて
ホッとした
「玲奈さん」
電車が駅に着くと開いた扉から
玲奈に声をかけた
「亮さん、どうしたの?」
「マンションに戻るのは危険です」
「どうして?」
「一文字の手先が見張っているかも知れない」
「まだ、ばれていないと思うけど」
「屋島さんがいます」
「はい」
二人は玲奈のマンションに向い
日吉駅から歩きながら
周りを見渡した。
「盗聴器がつけられているかも知れないから
中では話さないでください」
「はい」
「荷物は最小限必要な物だけにしてください、
後は買いましょう」
「はい」
亮は6階の玲奈の部屋に一緒に入ると
入り口のブレーカーを切った
玲奈の部屋は狭いながらも
几帳面に綺麗に片付けられていた
玲奈は下着と着替えを急いで
ピンクのドランクに詰め込んでいる間に
亮はコンセントの中に盗聴器を発見し
それを玲奈に見せると
玲奈の顔色が変わり手が小刻みに震えていた
玲奈の部屋を出るときに
亮はブレーカーのスイッチを入れ
静かにドアを閉めると玲奈は
ゆっくりと鍵を回した。
「ふー、急ぎましょう」
「はい」
二人は日吉駅から急行に飛び乗り
電車のシートに座るとため息をついた。
「まさか盗聴器が仕掛けてあるなんて・・・」
「やはり、やつはあなたを監視していたんですね」
「怖い」
「でもブレーカーを切ってから入っているので
音は聞かれていないはずです」
「ありがとうございます」
「とにかく、今夜から僕の部屋に
泊まってください。
別に下心は有りませんから、ははは」
「いいえ、ありがとうございます」
「それと、3時過ぎに一文字にドイツへ行く
報告をしてください、ドイツとの
製薬会社との契約の話も」
「どうして3時過ぎなんですか?」
「あはは、安いうちに株を買われるのが
しゃくにさわりますからね」
「はい、うふふ」
玲奈はホッとして亮の手を優しく握った
二人が日比谷に着くと直子から電話が来た
「はい」
「亮、山際さんから連絡があったわよ」
「えっ」
「覚えていないの?」
「いや覚えています。でももう1時過ぎています」
「じゃあ、遅れると言う連絡をするからすぐに来て」
「はい」
亮は忙しくてため息をついた
「丸の内の直子さんのところに
行かなくちゃいけなくなりまた。
食事はまた」
「はい」
亮と玲奈がお店に着いたのは13時30分だった
「お待たせしました」
「はい、お疲れ様」
直子はホッとした
「もう、見えているわよ」
「はい、すぐに」
亮は上着を脱いで白衣を羽織ると
手を消毒し治療室へ入った
「こんにちは、遅くなりました」
亮はすまなそうに挨拶をした
「こんにちは」
山際恭子は嬉そうに挨拶をした
「具合はいかがですか?」
「はい、肩こりがまだ治まりません」
「そうですか」
亮はうつ伏せになった恭子の肩を触わると
その凝り方に驚いていた
「ひどいですね」
「はい」
「この凝り方はマッサージだけじゃなくて、
食事療法とかサプリメントが必要ですよ」
「はい、でも食事が不規則で」
「そんなに忙しいんですか?」
「はい」
「そう言えば、最初山際さんとお会いした時
制服のような物を着ていて、二度目はカウンター業務
じゃないとおっしゃっていましたね」
「はい」
「私が処方した漢方をさし上げますので、
しばらく飲んでください」
「はい、ありがとうございます」
「ああ、僕は薬剤師ですから大丈夫です」
「はい、信じています。そう言えば私の部下が先生の
高校時代の同級生に似ているって言っていました」
「そうですか」
「部下は清瀬と言うんですけど」
清瀬と言う名に覚えがあったが
しらないふりをする事にした
「そうですか、高校時代はあまり
友人が居なかったので・・・」
「勉強ばかりしていたのかしら」
「あはは、そうだと良いんですけどね」
恭子の頭の中では露骨にエリート意識を持っている
有名私大卒の清瀬と謙虚な亮が東大とは考えられなかった
亮が治療を終えた後、恭子に薬を渡した
「ありがとうございます」
「もし効果がありましたら連絡をください」
「はい」
恭子はいなほ銀行本店の名刺を渡した。
受け取った名刺には法人運用部課長の
山際恭子名があった
亮にはアメリカのバンカーと違った
日本の銀行組織の事はピンと来なかった
「すごいですね、ストレスがたまりそうな役職ですね」
「はい、凄いストレスです」
亮のやさしい顔で見られた恭子は
一瞬めまいがした
「今度お食事でもいかがですか?」
恭子は生まれて始めて自分から
男を食事に誘った
「えっ?僕ですか」
「はい」
「話が合うかな?」
「はい食事をするだけで」
「はい、いいですよ。じゃあ来週の水曜日に」
「ほんとう、うれしい」
恭子は頭を深く下げて
跳ねるように帰って言った
その無邪気な姿をみて亮は山際恭子を
可愛いと思った
直子が亮の肩を叩いた
「気に入られたみたいね」
「遅いけどランチ食べに行きましょう」
「玲奈さんは?」
「お買い物へ行っているわ」
亮は玲奈に電話をして
ビルの中のレストランで待ち合わせをした
「ねね、盗聴器が仕掛けてあったんですって」
直子が驚いたように玲奈に言った。
「玲奈さんあそこに住んでどれくらいになりますか?」
「1年です」
玲奈が頭で数を数えて答えた。
「誰かが部屋に入って仕掛けたんですね」
「あそこは会社の寮ですから、
前の住人も盗聴されていたかもしれません」
「ひどい、警察に届けましょう」
直子は女として当然不条理な事と思っていた。
「いいえ、実は盗聴は日本の
法律で犯罪にならないんです」
「うそ!」
「玲奈さんが盗聴器が付いた部屋に入居したなら
住居侵入にもならない」
「それじゃ、玲奈さんは部屋に戻れないじゃない」
「はい。今晩から僕のマンションに
来てもらおう思っています」
「それがいいわ」
直子は亮の意見に賛同した。
「玲奈さんは月曜日からドイツに行きますから、
その間に解決します」
「すみません」
玲奈はすまない気持ちでいっぱいだった
「大丈夫です、その代わり一文字の事を
詳しく教えてください」
「はい」
3時を過ぎると玲奈は一文字に電話をかけ
團秀樹とドイツへ行く事を伝えた。
「おお、良くやった、これでDUN製薬の株価が上がるな」
「はい」
「向こうで團会長を取り込んでこい」
「はい、そのつもりです」
「それで、今夜夕食でもどうだ」
玲奈は一瞬戸惑ってどう答えていいか悩んだ。
「すみません、今晩会長に食事に誘われているんです」
玲奈は出まかせを言った。
「おお、そうか。もう迫って来たな」
「明日の会議は?」
「それが、明日から泊り込みで会長と一緒に
ゴルフに行く事になっています。
それで、会長を虜にします」
「ゴルフ部が役に立ったな。
わかった、電話で報告をしてくれ」
「はい」
玲奈は亮の手をしっかり握っていた
屋島のスマートフォンに
一文字から電話がかかってきた
「おい、何やっているんだ」
電話の向こうで一文字の怒鳴り声が聞こえた
「はい?」
「三島が会長秘書になったそうじゃないか」
「・・・」




