乗っ取りの理由
「何かあったんですか?」
「ううん、よくわからない」
「まさか理事長の解任?」
「それが心配で、理事が全員で10人いて
私と父で残りが8人」
「反対派はいるんですか?」
「はい、女の理事長は嫌だと前から
言っていた人が三人います」
「でもずっと山都さんが作った学校ですよね」
「はい、祖父と祖母が」
「理事がジュディを解任するでしょうか?」
「一人だけ心当たりがあるわ」
「えっ?」
「上原建設の社長さんです」
「上原建設、聞いたことあります。大手ですよね」
「はい、上場はしていませんが、社長は3代目で
まだ30代で彼が社長になってから年々業績を上げているわ」
「凄いですね」
「はい、祖父同士が親友でヤマト美容専門学校の
立ち上げに尽力してくださった方なの」
「そうですか、それで学校の資産はどれくらい?」
亮は小さな声で言うとジュディが答えた
「預金が100億、不動産で500億くらい」
「そりゃ凄い、もしかしたらそれが目的かもしれません」
「はい、でも売り上げはたいした事は無いわよ、
専門学校と短大だから」
「解任は防ぎようが無いんですか?」
「私の学校運営に問題が無ければ解任は出来ません、
ただ多数決で決まるから、それは理事たちの意思です」
「もし上原さんが理事長の地位についても
学校運営の経験が無くては難しいでしょう」
「はい、学校運営だけじゃなくて文部科学省
とのやり取りもありますからね」
「出来るだけ他の理事と接触して話し合うのが得策ですね」
「はい、父と相談してみます」
ジュディが言うと亮は不安になった。
「もし理事たちが買収でもされたら」
亮はジュディに聞こえないように呟いた。
「ジュディ、理事向けに美容師の再教育システムの
企画書を大至急書きます」
「お願い」
ジュディは治療が終わると急いで帰っていった
亮は自分の周りにおきている出来事を調べたく
て原美咲と会うのが待ち遠しかった。
「亮、指名よ」
直子が声をかけた
「は、はい」
そこに立っていたのは、以前治療した
山際恭子だった
「あ、いらっしゃいませ」
「こんにちは」
恭子は顔を赤らめて言った
「今日のお時間は?」
「あります」
「ではゆっくり出来ますね」
「はい」
亮は恭子の背中のツボを押しながら恭子聞いた
「仕事忙しいんですか?」
「はい」
「どんなお仕事を?」
「銀行員です」
「ああ、銀行は冷え性の人が多いですよね」
「はい、まあ」
亮は銀行と言うとカウンターで仕事をしている女性行員を
思い浮かべていた
「私は為替の仕事をしています」
「ああ、すみません。勘違いしていました」
「いいえ、女の銀行員のイメージはあれですよね、うふふ」
「すみません」
「あの、松平先生は何曜日にいらっしゃるんですか?」
「一応水曜日の夕方です、今日は特別です」
「わかりました、ところで先生独身ですか?」
「あはは、独身です」
「うふふ」
恭子はうれしそうに笑った
「彼女いますよね」
「もちろん」
「わあ、正直ね」
恭子はそれでも亮に興味があった。
「先生、普段はどこで仕事をなさっているんですか?」
「あはは、普段は製薬会社のサラリーマンです」
「えっ?」
「大丈夫です、資格は持っていますから」
「そういう訳じゃなくて、こっちのほうが儲かるような
気がするんですけど」
「そうですね」
恭子が治療を終えると店の前にスーツ姿の男が待っていた
「山際さん」
「どうしたの?」
「至急決済をいただきたい事がありまして」
「わかりました、すぐに戻るわ」
その男が亮の方を見るとそうつぶやいた
「團?」
「清瀬君知っているの?」
恭子が聞いた。
「はい、高校の同級生に似ていたような」
「まさか」
「そうですね、團は東大薬学部を出た後
ハーバードへ行っていますからね」
「そうなの?凄いわね」
「はい、変わり者でしたけどね」
恭子は東大出のエリートがマッサージを
やっているわけが無いと思った
その日の夕方、亮は日比谷のTホテルのバーで
原美咲を待った
「お待たせ」
美咲はグレーのコートを脱ぐと
紺のワンピースが艶やかだった
「お疲れ様でした」
「ううん、事務所が出来たわ」
「じゃあいよいよ、動き出すんですか?」
「はい、でもまだ具体的な指令は受けていないから、
電話で話していた件、調べるわよ」
「いま、僕達の周りで何かが起きよう
としているそんな気がします」
「何?」
「インサイダー、M&A、産業スパイ」
「うん、うん」
亮は美咲に名古屋化学とGOTO株式会社に絡んだ
インサイダー、マテリアの出店計画情報が流れたこと
DUN製薬の株価が上がっている件を話した
「インサイダーと産業スパイはうちでも動けるわ」
「はい、すでに森さんに動いてもらっている件があります」
「何?」
「ヤマトの社長秘書岡本瑞枝を調べています」
「怪しいの?」
「経歴詐称、学歴資格を低く偽っているんです」
「そんな経歴詐称ありえない」
「はい、作為的です」
「どう?事件性ありそう」
「僕の推測ですがいいですか?」
「はい」
「今、僕の周りで起きている出来事に
一つ共通点があります」
「はい、なに?」
「それはヤマトの社長秘書岡本瑞枝、DUN製薬営業部秘書
三島玲菜が一葉学園出身だと言うことなんです」
「二人でしょそんなの偶然だと思う、警察庁、警視庁だって
一葉学園の娘いるわよ、優秀な学校だから」
「はい」
そこへ森から電話があった
「お楽しみの所悪いな」
「いいえ」
「あの淳子って女の勤め先GOTOだ」
「はいっ?」
「それでな、そこの秘書課長大田武彦と付き合っている」
「はい、ありがとうございました」
亮はうれしそうに返事をした
「今度は雅美の方も調べておく」
「はい、お願いします」
電話を切ると亮は美咲の目を見て話を始めた
「つながりました」
「えっ?」
「まず、インサイダーの話を」
「はい」
亮はポケットにある手帳を出すと
美咲の前に開いた
「まず、ここに淳子がいます」
「はい、淳子?」
「この女性は、一葉学園秘書学科を卒業後系列と
言われている派遣会社PJからGOTO株式会社に
派遣されていて、GOTOの
秘書課長と付き合っているそうです」
「はいっ!」
美咲は体を乗り出した
「そして、ジュディの社長秘書岡本瑞枝」
亮は淳子の隣に岡本の名前を書きマルで
囲った」
「うんうん」
「そしてうちの会社の三島玲菜」
「はい」
「二ノ宮淳子がGOTOの秘書課長から
名古屋化学のTOBの情報を取って
情報を流せば莫大な収入を得られる」
「そうね」
「岡本瑞枝がマテリアの出店計画をライバルの
会社に流せばマテリアをつぶせる」
「はい」
「うちの新薬開発の情報を流せば、株価が上がって
利益をあげる、またはM&Aも視野に入れて」
「はい、そうね」
「その三人が全員一葉学園の秘書学科出身です」
「ただ、マテリアの出店計画書を盗だけの
ために、スパイを送り込むかしら?」
「それは、ヤマト美容専門学校、
短大の乗っ取りが考えられるのです」
「そうか」
「資産600億円ですから」
「そんなに?もしそれがつながっていたら、
大変なことになるわ」
「これはれっきとした犯罪です」
「わかったわ、すぐに動きましょう」
「はい」
亮は立ち上がった
「まって、久しぶりだからもう少し」
「ああ、ごめん。珍しく興奮していた」
「いいの、私はこの三人と一葉学園を調べるわ」
「はいお願いします」
二人はバーで軽い食事をすると渋谷に向かった
「じゃあ」
「うふふ」
美咲は亮の腕にしがみつき
エレベーターへ歩いた
「久しぶりだわ、うれしい」
「今日は?」
「帰らなくちゃいけないの、父がうるさいから」
「そうか、仕事の状況を知っているからね」
「はい」
「でも、こんな関係まずくないですか?」
「別にいいんじゃない、お互い独身なんだから」
「はあ」
亮と美咲が部屋に入ると
渋谷の温かい明かりは美しい美咲の顔を照らした
「綺麗だ」
「ありがとう」
亮は美咲の顔を両手ではさみ
上唇を軽く吸った




