不安な決意
木々の葉は枯れ始める。
僕も枯れる。
小さな時の話を聞くのが好きだった。
「親バカだけどね」と必ず言ってから教えてくれる。女の子と間違えられた事やなんでも洗う癖があって、アライグマみたいだったよ!とか。
今でも肌は白く、華奢な体型で、洗う癖もその頃のままなので、僕は変わっていないんだとわかる。
病気ばかりして、月の半分は病院通いだったので体調の良い日は散歩をしたり、公園に行ったりして体力をつけさせたと聞いた。
同級生と比べてみても、僕は小さい方だ。
人に触れられること、突然の出来事、大きな音や声
匂い、光....
苦手なことばかり。
この季節になると、教室で過ごす事が多くなる学校生活が辛くて仕方ない。
あの透き通る空気はなくなった。
檜山さんと過ごした時間までが汚れていくような感覚だ。今どこにいるんだろう?
次は道徳の授業だ。
「今日は、人の気持ちがわかる人間になろう!をテーマに話し合っていきましょう」
「一三八ページを開いて下さい。」
全員が教科書を読み始めた。
僕の隣の席の沙耶香ちゃんは他の人と比べたら字が読めなかったり、書いたりするのが苦手なようだった。
幼稚園から一緒だったから今でも唯一話せる友達。
優しくて、親切な人。
「それでは、皆さん!読み終わって感じた事を発表してください。」
「廊下側、一番前から順番にお願いします。」
僕は一通り読み終わっていたが、沙耶香ちゃんはまだ読めないでいた。
「ひー、どんな話だった?」
沙耶香ちゃんがヒソヒソ声で聞いてきた。ぼくは簡潔に教えてあげた。
「先生〜、沙耶香さんが聖くんに聞いてます〜」
「え〜、ズルくない?」
「沙耶香ちゃん、馬鹿だからしょうがないよ!」
「聖君は、沙耶香ちゃんが好きなんだ〜」
「ガターン‼︎」
僕は机を前に倒して、椅子を投げていた。
「やめなさい!」
先生が駆け寄り、僕の手を掴んできた!
「触るな!僕に触るな!」
もう止まらなかった。僕は教科書を先生に投げつけた
我に返った時、僕は保健室にいた。
「聖くん、どうしてあんな事しちゃったの?」
学年主任の和田先生が聞いてきた。
あまり覚えていなかった。
「聖くんの大きな声を聞いて担任の先生、びっくりした!って言ってたよ。」
「お母さんが迎えに来るから、今日は家に帰って明日話そうね。」
僕は疲れていた。教室に鞄を取りに行く。
クラス全員が僕を見ている。
この目を一生忘れないだろうと僕は確信した。
「お母さん、学校行かないでいい?」翌朝、そう聞いてみた。
駄目と言われると思っていたのに、意外な答えが返ってきた。
「うん。」
ただそれだけの。
数日後、僕は知った。
沙耶香ちゃんがあの日の夜、自宅のマンションから飛び降りたことを。
僕はまた大切な人をなくした。
先生もクラスメートも許せなかった。沙耶香ちゃんは馬鹿じゃない。ただ少し苦手なことがあっただけなのに。先生もみんなと同じだ。
周りに合わせるために必死で、沙耶香ちゃんのことを知ろうとはしなかった。
僕が転んで膝を擦りむいただけなのに、「大丈夫、絆創膏貼貼ってあげるね!」
「いつか看護師になって、ひーの病気治してあげるからね。」
いつも優しい沙耶香ちゃんだった。僕だけにではなかった、みんなに優しかった。
人の気持ちがわかる人間になろう?
ふざけるな!
ふざけるな!
もう限界です。人は嫌いです。
沙耶香ちゃんの命が消えた日。
僕がひきこもりになった。
季節も気付かないふりをして、また新緑の季節を迎えていた。