五話、なんか確定負けイベントで登場する敵を〇した。でも俺は平凡な高校生です
ヒロイン登場回
◆◇◆
「……ええと、この特徴は、あーっと。むーん」
森にある大木に背を預けて体育座りをする。
大きな図鑑(薬草大全集貸出銅貨一枚)を片手に。見つけた薬草っぽい草をもう片方の手に。
「……おっ、これが指定の草か」
薬草を見付け、満足そうにバックへとしまう。
「にしてもやっぱ難しいな……もっと成長せねば……! 薬草全種の記憶ぐらいは最低でも……ん?」
【成長ノ導】を発動しますか?
【鑑定Lv10】を会得できます。
「……そういえば俺、チートあったな……今と今まで忘れてた」
突拍子もない文章に呆れながらも改めて考える。このチートとの向き合い方である。
「まあ、成長できるなら使っておいて損はないかー」
結論は即座に出た。彼は成長し続けることが好きなので合って、成長に付随する努力はオマケのようなものだ。
好きなことには変わりないが『成長できる機会を逃すことの後悔』に比べればとても低い感情だ。
【鑑定Lv10】を会得しました。
【自動鑑定】を発動します。
――――瞬間、視界に採取ポイントがずらりと現れた。
「ん? お、おおおおお!?」
【自動鑑定】……採取できるアイテムを視界に入れるだけで認識できる。
「おお……こんなところに薬草あったのか、気付かなかった」
草むらをかき分けるとそこには薬草が隠れて育っていた。まず通常では見つからないような場所だろう。
【下級薬草】
下級ポーションの作成に使用できる薬草。すりつぶして傷口に塗っても効果は見込める。
特殊な加工を施せばハーブとしても使用できる。
「ふむん……便利、だ。
鑑定すれば草の詳細情報も出てくる……!」
面白くなってそこら中の薬草の知識を見れるだけ見ていく。採取、見る、調べて、覚える。その繰り返しをして更なる成長に成長を重ねる――――その時だった
「ん? なんだこれ……赤い、プレー……ト……?」
【警戒】敵を感知しました。逃げてください。
危険を本能で察知し、咄嗟に身を屈める――――瞬間、
〝GUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!〟
ソラは左腕を切り裂かれた。
「ッ゛!」
突然の襲撃に対し、ソラは土を雑に掴んで襲撃者へと投げつける。
「(なんだ!? なんだ!? 何が起きた!?)」
即座に近くの草むらに姿を隠し、襲撃者の正体を確認する。その結果がこれだ。
――それを見て、理解した。
【名前】Cシリーズ-№07 無謬の狂狼
【レベル】87
【スキル】ハンニバル
【詳細】一度負傷させた相手は絶対に逃がさない。血の匂いを追いかけて何処までも追いかける。
【レベル】87
「(これには、勝てない)」
少なくとも真っ向からやり合って殺せる相手ではないと理解した。
ならばどうする? 目の前にいる狂気はもう既に血の匂いを嗅ぎ始めた。
「(なんだ、何だよあれ……糞、思考をする時間が足らない。
精神の不安定が見られる、思考がバラつく、アドレナリンの過剰分泌、ダメだ冷静になれ冷静になれ、まだ、死ねない。まだ、成長が終わってない……!)」
生死の境目に到達し、無意識のうちに力を渇望する。
【成長ノ導】が発動しました。
【思考加速Lv10】を会得しました。
「(ッ……精神が落ち着いてきた、ありがたい)」
同時に思考加速のスキルを認識して有無を言わざす発動する。
世界から色が抜け落ちる――――彼の思考は全てを置き去りにして加速されていた。
「(状況確認、まずアレには正面からじゃ勝てない。捨て身で行ってもステータス差で剣を振る前に即死。
――――なら、それ以外の選択肢だ)」
逃げる? ――――不可能。負傷で生まれた血の匂いを完全には消せない。
成長ノ導でステータスを上げる? ――――不可能。使えば世界が滅ぶ。
なら残る答えは――
――ソラはそれを選び取った。
「グル゛ァ……。…………」
狂狼は土に付いた赤いシミを鼻で嗅ぎ……ペロリと舐めた。
「グゥ゛ググ……グゲ」
涎を垂らして君の悪い薄ら笑いを漏らした――――完全に血の匂いを辿ったのだ。
そして狂狼はソラの隠れている草むらを見て、のそりのそり、と近寄る。
「…………」
狂狼は嗤う。あまりにも愚かな猿に。
狂狼は嗤う。猿をどのように引き裂くか、想像するだけで発情が止まらないのだ。
狂狼は嗤う。嗚呼、殺したい、殺したい、その首筋を牙で喰い殺せばどれほど気持ちいいだろうか、と劣情が止まらない。
「GUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」
狂狼は草むらへと飛び掛かる――――そしてだからこそ、それが安易な罠だと気付けなかった。
「……グガガガッ、グゲゲッ…………?」
一度咀嚼。確実に牙を突き立てたと確信する。
二度咀嚼。何かがおかしいと気付いた。
三度目の租借――――自分の首が切断されていることに気付いた。
「剣術レベル10の奥義……これだけのレベル差でも隙を狙えば殺せんだなー。
よかったよかった、食われたのが利き腕じゃなくて本当に良かった」
狼は最後に己が気持ちよく咀嚼していたものを見た。
それはソラの切断された左腕だった。そう、狂狼はずっとソラの左腕を楽しそうに咀嚼していたのだ。
「咄嗟に思い付いた作戦が大成功! やったぜ! そうだよな~、負傷してるのは左腕だけなんだからそこを斬り落として切断面を火魔法で燃やせば血の匂いは消えるよなーいやー、見事な機転が利く俺は天才なのでは?」
そして服に血がついても切断された左腕の血のほうが断然強い匂いだろう。
「……そういえば咄嗟に斬り落としちゃったんだけど、これ治るかな……」
【成長ノ導】を発動しますか?
【治癒魔法Lv10】を会得できます。
「お、なんか治せそう」
一分後、そこには完全再生を果たした左腕が!!
「よかったー。左腕なかったらこれからの成長に影響が出るかもしれなかったよなぁ。
うん、これからも平凡な一高校生として成長を重ねていくとしますかね!」
そこでソラはふと思い付いた。
「あれ? もしかしてこの能力って心臓とか生やせたりするかな?」
【鑑定スキル-詳細開示】心臓の再生は可能です。
「おー、俺心臓と肝臓と腎臓と膵臓が人工臓器だからラッキー。治しちゃお❤️
あとは足の指と顔の皮膚とかも人工皮膚だからこれを機に身体新調っ、なんつって〜♪」
自分の身体を治してから死体へ目を向ける。
狂狼の死体の処理を冒険者ギルドで貰った本に従って行っていく。
「全く……薬草採取に来たつもりが大変なことになったなー」
死体の剥ぎ取りなどを行い、準備を終えるとソラは街へと歩を進めた。
名前 :ソラ・ヤマナミ
精霊装:成長ノ導
位階 :最終位階
命題 :成長
【スキル】
鑑定Lv10
剣術Lv10
火魔法Lv10
思考加速Lv10
治癒魔法Lv10
体力上昇Lv3
精神上昇Lv5
飢餓耐性Lv2
疲労耐性Lv3
【能力値】
レベル:31
筋力 :1550(剣装備時+1199)
防御 :1550
知力 :1550
精神 :1550(+300)
【称号】(実績)
格上殺し
【ちょっとしたウンコソード】
攻撃力:-1
射程 :+1
【格上殺し】
レベルが上の相手に対してステータスが1、1倍になる。
◆◇◆
ソラが初の魔物退治を成功させた時、ある場所で件の魔物についての話が成されていた。
「あん? ガルド王国近辺に出してたのが死んだ? へえ、どいつ?」
総受け枠にされてそうなガサツさと凶暴さを宿した男の声から、その話題は始まった。
彼らはソラが討伐した魔物の作成者らである。
「Cシリーズの七番で、ございます」
「……Cシリーズが潰された……驚いたの。下位のやつでも運用法によっては魔王を殺す程度の性能はあったはずなの……」
「潰されたのは下位のようですな。しかしあの国にこれを殺せる奴はいない、と記憶していたのですがね。現れてもあと数年はかかる、とも踏んでおります」
次に聞こえたのは幼い少年の声と幼い少女の呟きだ。しかし妙なことにその声には幼さ特有の声のブレが一切感じられなかった。
まるで年百年も生きている存在が幼い子供に憑依しているような……そんな気持ち悪さと不気味さがあった。
「――――よォするによ、異常事態ってやつだろ? おもしれえじゃんかよ、くくく」
「暴食……勃〇抑えるの……汚いの」
ニマニマ笑む男へ豚を見るような視線を向ける少女。だが彼女の嫌悪も〝暴食〟と呼ばれた男には届いていないようだった。
「まあまあ怠惰の姫君よ、よいではないですか。
ここ百年、他の方々が死んだ理由、大体が暴食殿の発情が原因ですからね。外に向いてる分、まだマシです」
それを宥めた少年は、同時に暴食の経歴を辟易するように呟いた。
「むぅ……この勃〇男にはさっさと死んでほしいの。
この勃〇男にビビったフニャフニャチ〇コ共が会議にいつまで経っても参加してくれないの……」
この場は本来、七名の人間が集うはずだった。だが任意の集合であることに加えて暴食の気性という危険要素から参加を控える面々が多いのだ。
「こらこら、淑女の言葉づかいではありませんよ。
いえ……貴方の出自だと、それも致し方ありませんかな」
――――少年に弩級の殺意が向けられる。
グヂィ゛……びちゃ、びっ、
少年の首に鎌の切っ先が突き刺さり、そのまま肉を抉るように高速回転をした。
肉が飛び散り、その辺の床にべちゃべちゃと撒かれる。常人ならばまず致命傷だろう。
「お前、ルノの育ちを馬鹿にしてるの?
もしかして自殺志願なの? なの?」
次いで少年の身体に槍が二本三本と突き刺さる。少年は「はは、失礼失礼」と軽薄そうに笑って、己の身体に刺さっている武器を消滅させる。
「いえいえ、滅相もございませんよレディ。
もし何か気に障ったならこの爺に教えて頂けませんかな? そうすれば今後はその地雷に嵌らずに済むかもしれない」
ニコニコと語り掛ける少年を前に怠惰の姫君――――ルノは忌々し気に攻撃を止めた。
「チッ……相変わらず嫌らしい老害なの……はよ死ね! なの」
「ほほほ」
「――――でよぉ、どうするよ? Cシリーズ潰した奴。オレ行っていいかね」
本題に誰よりも興味を持っていた暴食がウキウキと手を上げる。
「まあ待つの……相手の情報が少ない状態での行動は死を齎すの……独断専行は玉潰しの刑なの……」
「カーッ、これだからメスガキは。怠惰にもほどがあるねえ?」
「慎重だと言ってほしいの万年戦闘発情期。だけどやっぱり行っていいの。
よく考えたらお前死んでも私は万々歳だったの」
少女と暴食の視線がバチバチと火花を散らしてぶつかる。両者の間には相当な険悪さが生まれている。
「ほほほ、まあ待ちなさい二人とも。この爺が情報を集めといたからこれだけでも読んでからお決めなさい」
「おっ、嫉妬のジーサンは気が利くねえ」
「……チッ、ありがと、なの」
暴食はウキウキで、ルノは不快感を滲ませて情報を受け取った。
そして数分後。
「ほー、これはこれは。楽しめs」
「ルノが行くの」
「はあ!?」
暴食の名乗りを即座に遮ってルノが立ち上がる。それを聞いて暴食もまた立ち上がる。
「あんでだよ」
「コイツ、ルノの敵のような気がするの。ルノの勘が言ってるの」
「…………はあ?」
暴食は不快そうな声を漏らす。が。
「……で、オメエの勘はなんつってんだ?」
暴食は勘、などというものの詳細を聞きだす方向性に移動した。
それは彼がルノの持つ〝勘〟というものの鋭さを知っているからに他ならない。
「言った通りなの。こいつの手口、ルノが大嫌いな奴の臭いがするの。
今すぐ殺すの、殺さないといけないの」
瞳に宿る狂気、そこに宿る狂念は彼女の根にあるモノが垣間見え。
「……まあいいぜ、今回は譲ってやらァ」
そう言って暴食はその場から退出した。
――――旨そうな匂いを発した少女に涎を垂らしながら。
原作(存在しない)ではあの狼君は確定負けイベント担当です。