最終回:破滅の空
生きてる価値がある人たちが、救われたのに。
道理が合わない、どういう理屈だ。命は平等ではない。
無価値なる屑が死ぬより価値ある彼女が生きることは当然の摂理じゃないのか……? 死んだのが俺であるなら、それは祝福されるべきことなんじゃないのか……?
なんで俺が死んだことで泣くのだろう。それに、あの顔は、一体どこで――――
――――美春ちゃん……? ねえ、ねえ…… あは、は……
――――おねえさん……ごめんなさい、ごめんなさい……僕、は必ず……あ、ぁぁぁぁ……っ。
――――僕は屑だ、俺は塵だ、生きてる価値のない……だから、生きる価値ある、君の死を、無価値には……はは、はは…は…
ダメだ。そんな無能で、無価値な劣悪と、彼女たちを同列にしちゃいけない。
だから――――この死は、無価値なものだ。
〝山波ソラは、まだ何一つとして報いることが出来ていない〟
だから、そうだ。
「――――まだ俺は成長しなければならない」
度重なる想像を絶する不幸と哀しみ。
超重度の人間不信。しかも誰かを信じたい、と思えなくなる程度には拗れている。
「「!?」」
彼に信じてほしいと乞うてはいけない――――その言葉は彼の心を深海へと鎮めるだろう。
「嗚呼、そうだな……確か、俺にもあるんだっけか」
彼に近寄ってはいけない――――それだけで彼は赤子を守る野生動物のように警戒を振り撒くだろう。
「うーん、と」
彼に愛を――――致命傷だ。
「出し方は」
彼に絆を――――離れていく。
「こう、かな」
彼に勇気を、同情を、情けを、光を、恋を――――否、否、断じて否。
「――――聖装 顕現」
断言しよう。ソラ・ヤマナミとは『人間不信の果て』なのだ。
ただ成長しない自分という存在を徹底して殺したいと願っており、結果的に生まれた渇望は
「俺は、成長しないという事象を殺してしまいたい」
全人類が、平等に、熾烈に苦しみ続ける世界がほしい。
「生きるとは、苦しみ嘆き、血反吐を吐いて地べたを這いずること。
だから、きっと――――お前らとは、相容れないんだと思う」
産まれも最悪、育ちも劣悪、出会いの全てが奈落へ落ちた。
ならばどうなる? 決まっている――――壊れたように成長し続けなければ死ぬ環境の完成だ。
「周囲を塗り潰す、この世界を染め上げて。
俺はこの世の〝空〟になりたい」
万象を自分という属性で満たして、修羅の世界を創りたい。
そんな狂気的染みた願いが生み出す武装は簡潔にしてシンプルなる究極だった。
「〝神ノ愛ハ慈悲深イ〟」
そしてソラの腕に、蒼い紋章が走る。出力が増大する、首の傷が修復される。
それが意味するものとは。
「自己強化なの……!? というか、密度おかしいの」
「…………」
自己の超越化。武器や防具が微塵も現れないソレは、ソラ自身の在り方を表しているようだった。
「ぁ、ー」
肩が血肉を撒き散らしながら爆発した。北斗の拳に出てくる心霊台を使われたレイみたいだった。
――――だが次の瞬間には治っている。
コンマ一秒にも満たない刹那で、破滅と再生を繰り返す。
「さ(ぷちゅっ) あ(パンっ) やろう(ごキュ、ゴリッ)か」
酷い有様だ。
破壊と再生を繰り返す、それによって生じる痛みは、一体どれだけのものなのだろう。
常人ならば狂死しかねない激痛を受けて尚、ソラは戦闘行動を進めんと足を踏み出し――――世界が割れた。
「にゃっ、ぐ、ぁああああああああ!!」
「ルノ!!」
一歩、そう、一歩だ。
踏み出した、その瞬間は見えたのだ。だが、その次の瞬間には何も見えなくなっていた。
光速の突破。そしてその狂人めいた攻撃を成したソラはというと。
「ふ(バキ)う……」
身体中の骨をグチャグチャに、肉の繊維がまるで猫に弄られた羽毛のように〝舞っている〟。
それさえ、一瞬で再生しだす。
そう、ソラの能力はそういうモノだ。
「(成長する意思を一瞬でも途絶えれば死ぬ)」
その代わりに神様めいた超越者としての力を得る。
手刀で腕の肉の繊維がひらひらと舞う、だが亜光速を超えたソレは破滅的なソニックブームを生み出す。
「俺の、kち……だ」
そして二秒もすれば、この通り。
何も出来ずに壊れている二人組の完成だ。
「じゃ(ゴリ)あ な」
そして拳を振り下ろす刹那。
「…………逃げた か」
ピタリ、と腕を止めて倒れている二人を見下ろす。
ソラは軽く足先で地面を叩く――――二人の姿が灰となって崩れ落ちた。
「能力の おう yう か」
壊れながらも消えた敵手を愛おしく思う。
何故か? 当然だ、彼らはきっと
「(また成長して、戻ってくる……楽しみだ)」
ニマリと笑いながら、ソラは霧の消えた王都を眺めた。
気付けば朝日が昇り、彼の身体を照らしてくれている。
【破壊耐性Lv1】を会得しました。
「(また、一人になったな……)」
シルベは死に(どーせ戻ってくる)、リリカも死んだ(生きてる)。
ソラは天に思い浮かべた、自分のせいで死んだ人たちのことを。
「(うん、大丈夫だよ。
無価値な僕が、価値ある君たちを殺したなんて言う不条理が起きている
……だからその帳尻合わせぐらいはするさ)」
即ち、これ以上の成長を。
【破壊耐性Lv2】を会得しました。
「(それにこの精霊装。もう二度とオフにできないみたいだしね……睡眠耐性のスキルも、取らないとなぁ)」
安息も、眠りも、怠惰も、癒しも、何もかも。この世に存在する当たり前の光が、彼は〝御伽噺〟としか思えない。
――――もう二度と、手が届かない。
届いたのなら、それは彼の死を意味するから。
小菅春虎、シルベ、サカイ、といった〝ソラを微塵も癒さない光〟ばかりが溢れていれば、彼の人生にそう言った経験がほぼ無いのは言うまでもないことだろう。
歩く自殺志願者、生きようとする気が無い生命を超えた何か。
もう、これは〝救えない人〟だ。
もう二度と救われない。もう二度と休めない。
食事、睡眠、排泄……きっともう、何一つ許されない。
そうしてソラは歩きだした、まだ見ぬ世界へ求めて……。
ソラくんとの質疑応答コーナー!
Q、トラックにひかれてヒロインが死にました。誰が悪いのかな?
A、俺。トラックのスピードを反射神経で上回らず、〝代わりに死ねなかった〟のだから、俺が悪いに決まってる。
Q、ヒロインが精神追い詰められて自殺しました。誰が悪いのかな?
A、俺。相手の感情を見抜く特殊能力を手に入れてたら大丈夫だったんだから俺が悪いに決まってる。
Q、ヒロインが強姦殺人されました。誰が悪いのかな?
A、俺。俺が自分の腕を壊してでも手錠を抜けないのが悪い。
大男を全員、嬲り殺しができないのが悪い。
※トラック運転手の不注意、あと美春ちゃんの不注意が原因です。
※自殺に追い込んだ奴らが原因です。
※出来るかボケェ!!
二章、書く気ないけど書くとしたら絶対主人公はソラではありません。
ルノとその相棒のイチャイチャを交えた旅か、他のホモどものどすこいわっしょいだと思う。
残しておいた設定達のホモホモバトルロワイアルが始まる……地獄じゃねえか。