二十六話、ソラの起源巡り。
前回のあらすじ
悪は滅びて世界に平和が訪れた。
◆◇◆
契機、という言葉を知っているだろうか。
その人間の人生における分岐点。大きな影響を与えたきっかけ……即ち人生の契機。
もし人にその初まりがあるとするならば、ここだろう。
「(……まぶ、しい)」
手術室の灯りに照らされながら、ソラは目を覚まして……泣いて、気が付けば赤ちゃん用のベットの上にいた。
「(ここ、は……?)」
視界を動かし――――親を見付けた。
ソラを壊した、ソラを玩具程度にしか思っていない。塵ども。
「わあー、猿みたい」
「こら、あなた。なんてこというの……この子にはね、家に利益を沢山いれる立派な大人になってもらいたいのよ。猿じゃないわ」
前後の話との因果関係が微塵もない。
嗚呼、そうだ。俺の両親とはこういう奴だった。
端的に言って、自分に酔っている。
話の間に突然、全く関係のない話で『自分はなんと素晴らしいのだ』、と自負をしたがる。
「じゃあ、そろそろ仕事だから」
「え!? 私を一人にするの!?」
「仕方ないだろ、仕事なんだから」
意味の分からん低能会話をしながら、果てに一人もいなくなった。
「(……)」
俺はベットをよじ登り、頭を地面に叩き付けた。
「きゃあああああああ!! そ、ソラ!!」
――――このソラという不幸の火種が死ねばきっと、彼女たちが死なずに済む。
「た、大変……こんなんじゃ、またお婆様に何か言われる……! ソラ、起きなさい!! ソラ!!」
意識が遠のく。
◆◇◆
「ねえ、空! 聞いてる?」
「……美春、ちゃん?」
目を開ければそこにはかつての幼馴染と――――彼女を引いた大型トラック。
「危ないよ」
俺は素知らぬ顔で美春ちゃんの手を引いて、お互いの位置を入れ替えた。
――――〝僕〟の身体がグチャグチャになる。
「(嗚呼、よかった……守れた)」
「空…? 空、ねえ……空……?」
ポロポロと泣いて。呆然としている美春ちゃん。
――――なんで 泣いてるんだろう……?
◆◇◆
また目が覚めた、するとそこは暗い場所だった。
……あたたかい。
「…?」
「お? わり、目が覚めちまったか……?」
――――お姉さんだ。
思い出した。
〝僕〟が本家の子供への臓器提供で、寿命が幾らか消えて家出した時。
拾ってくれたお姉さん。このお姉さんは〝僕〟の心を立ち直らせようとしてくれて――――自殺した。
「おねえさん」
ボロアパート、狭い布団の中で互いの熱を分かち合う。
――――ここで、ぬくもりを初めて知った気がする。
「お? なんだ」
頬に唇を落とした。おねえさんは根が初心なのでこれだけで真っ赤だ。
「――――自殺、しないでほしい」
「……え?」
おねえさんはその意志を見抜かれたことに目を見開く。
当然だ、嗚呼、もしこの時。僕が他者の感情を見抜く技術があったら……そう、思ったんだ。
大丈夫、二度目は無い。
「おねえさん……今から、溶かす」
「ふぇ!? え、ぁ……?」
翌日。布団にくるまりながらお姉さんは頬を赤らめながら拗ねた様に、けれども満更じゃなさそうに呟いた。
「この……えろがき……」
「…………」
覚えてる、この元凶はまだ除けてない。
おねえさんを自殺に追い込んだ――――養父、義兄、義弟。殺さないとね。
性的虐待。その日々に嫌気がさして逃げ出して、バイトしながら美大で過ごしてた。
連絡の一切を断っていたが、この後……奴らは見つけた。
果てに、おねえさんは自殺した。
「…………」
手に持つ包丁から血を滴らせる。
もう終わった、喉を引き裂いて全部終わらせた。
かしゃん、と包丁を側にあったテーブルの上に置く。
「…………」
血で染まっていた包丁は〝俺〟の姿を映し出した。
「……この子供は、お姉さんの人生にとって害だな」
包丁を拾って首を掻っ切った。
――――嗚呼、これで大丈夫だ。ようやくしたいことが、出来た。
「(なのに)」
どうしてだろう。どうして。
「ぅ、ぁ、ぁああああああああああああ!! 空、空っ……きゅ、救急車呼ぶから、待って、待ってろ!!」
「(なんで、泣いてるんだろう……でも、この顔……この音、どこか、で)」
ダメだ。こんな、汚いのに触っちゃいけない。お姉さんが穢れる、と言いたいのにお姉さんは僕を抱きしめる力を緩めない。
俺の行く先を予測して追ってきたのだろう、その額にはびっしょりと汗が流れていた。
大事そうに、大事そうに抱きかかえて。
落とさないように尻と、頭に片手ずつ手を添えて……抱き締めるみたいに。
「こんな、場所じゃ……ダメ、だよ、な。
こんな汚いのと、ソラは……一緒に、いさせたくない……待って、ろ。
いいとこ、連れてってやるから……さ。そだ、裂きイカ。治ったらやるから、さぁ……元気、だせって、な……おい」
――――何故、泣いてるんだろう……?
僕は以前、自殺の兆候を見逃したのに。
一目見て、その人の感情を読み取る特殊能力を手に入れなかった僕が悪かったのに。
――――悪役が、死んだのに……なんで……?
◆◇◆
薄暗い体育館倉庫。僕は椅子に座り身体をガムテープで縛られて動けない。
後ろの手には手錠がある。本物だ。
――――ズボンが脱がされている。それに気付いて、何処か想い出した。
「(……最後は、ここ、か)」
この光景も、見たことある。
「いやぁ、!! いや゛ぁ゛!!」
「うるせえ黙れ!!」
一メートルほど離れた場所で、ガタイの良い男が一人の女子生徒を囲んでる。
「――――先輩゛……!!」
泣いている、後輩の少女で……僕の、初めての彼女。
なにからも守る反射神経で、心の痛みを読める感情を知る力で……満たして、愛して、導いて……そんな、愛しい人。
勉強も、運動も、ボロ雑巾になるまで続けた。いや、それでもなお続けた。
見た目にも気を遣った。告白もされるようになった。噂される程度には有名になった。
――――だがそれは、全て無価値だった。
「…………」
知ってる、この場所は知っている。
――――初めての彼女が、強姦殺人されるシーンだ。
「…………」
だから覚えているよ。
僕は……〝俺〟はもう一度、こんなことが起きたらどのようにするか考えてきた。
解決できるように、成長し続けたのだから。
――――ゴリ゛……。
俺は手錠の拘束を抜け出した。親指を削ぎ落ちた。
ガタイの良い男の顎を殴り。極めて技術的に気絶させる。
そこから先は簡単だ。全員、鉄パイプやらナイフやらを取り出したので――――全員一生ものの裂傷を刻ませた。
何も問題ない。全て解決した。
なのに。
「っぐっ……せ゛、ん……パ…い。
馬鹿、馬鹿……」
どうして、君も泣くのだろうか。
ただ、塵が一匹……死ぬだけなのに。
君の人生に現れた害悪が、消えてしまうだけなのに。
ただ、眺めるしか出来なかった屑が一匹、死ぬだけなのに。
拘束を全部、力技で解くことすら出来ない無能が死ぬだけなのに。
君を、ボロ雑巾みたいに捨てられて、男が飽きたように帰って、鍵を掛けられて
衰弱していく君を……下半身に何も着けて無い状態で、寒い体育館倉庫で、朝まで、眺めるしか出来なかった屑が、死ぬだけなのに。
「なか、ないで……だいすき、だよ」
嗚呼、よかった。
過去の失敗を、全部、全部、抱き締めることが出来た。
なのに どうして。
「いやああああああああ゛ああ゛ああっ、ああァ゛ああああッ!!」
君は、泣くの……?
成長しなかった僕が間違えているのに。
トラックから守る反射神経も持ってなかった無能が。
一目で感情を見抜く特殊能力すら手に入れてない無能が。
拘束を腕を千切ってでも抜けてこなかった無能が。
どうして――――泣いてもらえてる……?
そろそろ終わらせて次の作品書きたい……たぶん人気出てないから、今作も続きは出ないと思うよ。ただ、最低限終わらすよ