二十五話、ソラの起源とは。
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思えば、伏線は幾らでもあった。
ルノの能力、灰霧はその説明欄に怠惰の文字を一切有していなかった。
即ちそれは怠惰の権能とは別種であることを意味している。
――――では、怠惰の権能とは一体何だ?
特徴を上げてみよう。
「(成長する点)」
怠惰の権能は内に他者を取り込むことで成長としていた。
「(命題に関わりのある能力)」
怠惰に満たされて、肯定されて、許される世界がそこにはあった。
「(そして、サポート精霊)」
今まさに、ソラと戦う謎の男。
思い当たる特徴を上げて、そして理解する。
「(――――怠惰の権能と精霊装は極めて近い存在だ)」
即ち、それが意味することとは。
「(コイツは魔力が無限にある)」
――――ただの絶望的な事実である。
さて、ここで一つの問題をしよう。
武器を持ち、能力を全力で使い、二人組を相手に。ソラ・ヤマナミは勝てるだろう?
「ぐっ、ぁ、ぁ゛……ッ!」
――――否、断じて否。
経験、武器、人手に魔力、何から何まで足らなすぎる。
精神に付け込んで壊してしまおうかと思うモノの、目の前の男がそんな手に引っ掛かるかと思えば否だった。
「…………」
「ッシィ!!」
すれ違いざまに小指が2、3本消える。それを受けても尚、攻撃は一切やまずに極めて計算された斬撃の嵐をここに顕現させていた。
端的にって、遊びが無い。迷いがない。今の自分はただ『今ある世界を壊したいだけなのだ』という目的を徹底している。
悪行を悪行のまま、受け入れること。
それは人間社会に生きてきた人間であればあるほど難しいことだろう。どうしても人間には良心というモノが付き纏う以上。
そういった〝吹っ切れ〟とは難しいものになってくる。
「…………ッ」
だが、しかし。もしもそれをした人間がいたとしたら。
「…………まだだ」
こんな、極めて面白味もない男が生まれるのだろう。
斬り付けられた数はもう既に三ケタを超えた。
正道、邪道、外道、ありとあらゆる手段を巧みに扱い敵手は攻撃を受けず、当たらず、回避しては刺し殺す――――即ち一方的な活人術の実現を成していた。
「っらァ!!」
腕の皮膚を燃やしたまま行う渾身の攻撃さえ、半歩ズレては腕を切断。
すぐに生やして戦闘しようとするも念動で飛んでくる剣で身体がハリネズミにされて地面に縫い付けられる。
身体が刻まれてまた死に掛ける。治してもその瞬間にハリネズミとなり、抜け出す間にまた切断――――タコ殴り、という状態だ。
そして奴が狙っているであろう〝その時〟は既に迫っていて。
「終わりだ――――どうか眠ってくれ」
その無機質な言葉と同時に、俺は首を切断された。
「…………」
身体が 寒い。
「…………動ない方が良い、少しでも動けば身体が切断されたことを自覚して死ぬ」
瓦礫の一つに背を預けながら、俺は地面を見ていた。
「(もしかして……終われる、か)」
身体からほとんど熱が残ってない。血も脳も、ほとんど機能しない。
死の一瞬、命から興味を失うと何もかもが愛おしく見えるらしい。今では先ほどまで殺したくてたまらない奴らへ、どうしてか優しくしてやりたくなる。
「命を諦めた奴の特徴が見れるの……どうやらこれで、本当に終わりみたいなの」
ルノ嬢は俺の状態を一瞥して診断する。そうか、もう俺は死んでいいのか、と目を瞑りながら一人思う。
「(死ぬのか……死んでも、いいのか……?
この死は、許されるし死なのか……?)」
どうでもいい、疑問が生まれる。
「(前へ前へと、進んだ。何のために、俺は、何の、ため、に……?)」
思考がまとまらず、意味不明な言葉が脳を支配する。
一時間後、まただすわ