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二十二話、ソラの痛みとルノの願い

◆◇◆


 かくして先端は切り開かれた。


「消えろなの、この害悪が……!

 この世界にお前の居場所はないの!!」


「いけないなぁ、居場所が無いなら作らなければ!

 さてさて、どんな居場所を構築しようか、そしてその過程でどんな成長を得られるだろうなァ!?」



 戦闘が開始するや否や、その局面は両者が始めに予想した通りの物が展開されていた。


 ――――即ちソラの不利。一瞬で死に掛けて再生するも、ソラにはシルベちゃんのような無限魔力タンク昨日は無い。


 ゆえにその戦闘は呆気なく、上位の力で捻じ伏せられることとなる。



「塵は塵として、消えるべきなの」

「やってみろよ、俺は負けない――――いいや、負けても必ず次へ繋がる負けとしよう」



 ――――で? それが?


 ソラはそんなことなどお構いなしに神風特攻よろしくの精神を発露した。

 致命傷があっても殺す、腕飛んでも指は折る。その自分の身体に微塵も斟酌しない狂気でルノは若干の動揺を見せる。



「それはもう知ってるの、カスが……なの!」



 ――――だがそれは、シルベちゃんとの戦闘が無ければの話だ。

 見たのだ、経験したのだ、ならばあとは関係ない。


 百数十年も生きた少女は、その間。ありとあらゆる戦闘の経験値を積んでいる。


 その莫大過ぎる経験を前に何一つ通用せずソラが追い詰められるという状況が起きた。



「なあなあ、世界が許せないんだろう?」



 だが。だというのに、



「世界は間違えてると、こんな世界はおかしいと、お前もそう感じてるんだろう?」



 このソラという生きもの(ホモ類ゴミクズ科)は何故こうも余裕そうなのか?

 そこに不安を覚えるルノは、次の瞬間、正気を失った。



「なら俺たちは同志(・・・・・・)じゃないか、仲良くしようよ」

「――――?」



 ルノの動きは、一瞬だが、止まった。



「(マテ、何、それはなの。

 落ち着け落ち着け、これはきっと挑発なの。本心で言ってるはずが)」


「ま、仲良くしようや。同類」



 にこやかに、語り掛ける様にルノは発狂した。



「こ、の、塵があああああああなの!!

 お前が、お前みたいな屑がッ!!

 ルノの理想を馬鹿にするななのーーーーーーーーーーー!!」



 ダメだった、百年近く彼女を支え続けた理想に対するこの上ない侮辱、それは絶対に許せないものだった。



「お前みたいな精神異常者と一緒にするな、ルノは、ルノは!!」



 巻き起こるは最上の殺意に満ちた灰の霧。うねり、ねじれ、凝縮してその場にあらゆる敵意を凝縮したような()が生まれていた。



終焉を奏でろ(フォルテシモ・ゼロ)ッ!!」



 過去最大の攻撃は空を断ち、空間を力付くでぶち破り、王都全土がクレーターと化す勢いで放たれる。



「分かっているさ、この殺しに関する卓越した技術、ああ、ああ――――素晴らしい努力だ!!!! 俺は感動した!!!!」



 大爆笑しながらその大戦撃を身体で受け止める――――身体がコンマ一秒ごとに粉微塵に消えていく。



「殺す、殺すッ! お前は殺すのッ!!」



 お前の努力、全部俺は理解できるヨ。とさも理解者であるかのような振る舞いにルノは殺意が溢れて止まらない。



「ぐっ……ハァ! なあなあ、どれだけの人を殺したんだ?

 何人殺せばそこに辿り着けるんだろうな、おいおい教えてくれよ平和主義者(マーダーホリック)のお嬢さま?」


「――――」



 死にゆく敵の、壊れながら告げられる言葉は間違いなくルノの核心を着いていた。



「お前、舐め過ぎ」



 次の瞬間、どういうわけかルノの攻撃がルノを襲っていた(・・・・・・・・)



「ぐ、ぁああああああ!!」



 ルノの身体は致命的な急所に穴を開けられたまま吹っ飛ぶ。しかしソラの言葉で冷静になったおかげが死の直前で何とか自分の攻撃を消した。


 原理は不明だが、それは彼女の有する固有能力だからこそ可能なことなのだろうとソラは結論付けた。


 コキリと首を回して腕や足、腹部に太腿、個所が抉れて壊れているルノを見下ろした。



「この世には老害、と呼ばれる人種存在するよなぁ、アレはいー言葉だ。

 人は歳を重ねて、それに比例する密度の成長を得ていく。

 当然だ、人は常に成長し続けるべき生き物なのだから」



 虫に息で血塗れのルノ。

 瓦礫の壁に背を預けて、息を白くしているがもう長くはないことが想像付く。


 その痛ましいことこの上ない姿を、ソラは頭を踏んで見落とした。



「ゆえ、必然的に年相応の成長には一定の基準が設けられる。

 社会人ならばそれに相当するモラルと、高校生ならばそれに相応しい節度を。

 だがその基準値を超えられない猿というのは一定数出てくるんだ。

 年相応の成長が出来てない猿――――それを老害と呼ぶ」



 にまり、と笑って伝えた。



「お 前 の こ と だ よ。ロリババア。

 気取って見せろよ最年長。

 年相応の成長(輝き)が見れないならお前は老害だぞ? あははははは!」



 顔を蹴り飛ばして踵を返す。


 両手を天を仰ぐように広げて世界を肌で感じて笑うソラ。



「っはー……」



 言い切ったのか、ソラは息を吐いてから落ち着いた様子で拳を強く握りしめた。



「なのに、お前のような老害が、この世界には少数だが一定数存在する」



 世界、それは先ほどルノが述べた『世界が間違えている』という言に対するソラの真理(答え)を話そうとしていることを意味強いている。



「当たり前のように、世界が求めるレベルに達したら努力を怠るカスがいる。

 そんなカスが、現実を生きていやがる。のうのうと、平然と……努力する人を踏み躙って、だ」



 脳裏によぎった屑の姿。放課後の体育館倉庫、ガムテープで縛られたソラは泣きながら血迷った眼光でソレを眺めている。



「俺はさ、思ったんだよ……誰も彼もが成長し続けない世界は間違えているってさ」



 ソラは振り返り、この上なく邪悪な笑みで宣言した。



「だから俺は――――この世界の(ソラ)になりたいんだ」



 それはソラのトラウマの一つであり、ソラを壊した一つの要因。



「なあ同類、お前と同じさ。俺は世界を俺で塗り潰したんだよ。

 誰も彼もが成長という概念を追い求める……そんな修羅道に満ちた世界が見たいんだよなァ、俺は」



 それはソラ・ヤマナミの理想。


 誰も彼もがストレスや苦痛を味わい続けても尚、狂ったように成長に向かい続ける世界が見たい……それこそが、ソラの理想だと、いま語った。



「なあ、あるんだろう? 世界に影響を与える力、ってのがさ」

「!?」



 ソラの言葉にルノの瞳が揺れ動く――――確信した。正直者だな、ありがとう。



「隠さなくていい、これは自前の観察眼だが……お前の『世界は間違えている』という意思には、何処か『明確なナニカ』を掴んでいるように見えた。

 ――――世界の革命となる手段を知っているように見えた」



 ソラの口元が邪悪に歪む。



「それが魔法か異能か、それとも別の何かかは知らないが……お前の意志は確かに見たよ」



 手段があるならば、さもあらん。



「その手段を俺に寄越せよ、ロリババァ。

 この世界を塗り潰してから帰還した後、故郷も修羅しかいない楽園に変えて見せるとも――――なぁ? 無能で無価値なロリババァ」


「……ぁ……は、ぁ…………なら、お前はどうなの?」



 もう全身血塗れのルノは倒れ伏しながらソラの背中で問いかけた。



「ルノは確かに無能で無価値なの。

 150は生きても超速演算の一つもまともに出来てない生まれついての凡俗。老害と言われても屑であるルノには言い返しようもないの。

 ――――じゃあ、お前はなんなの?」



 自分の崩れ始めている肩を抱いて、片目しか開いていないルノは、それでも尚、負けていないと瞳の奥で猛り狂っていた。



「成長、成長と宣って……悲劇も、周囲も、自分も怒りも何もかもを成長にくべる薪としか思っていないの。

 その果てにあるのは……独りぼっちの荒野なの。

 断言するの――――お前の求める理想には死体の山しか残らないの」



 ――――だから、と。ルノは最後の力を絞り壊してでも取り出して。



「――――屑は屑として、燃えて灰になればいい」


「な!? 馬鹿な、その光は」



 ソラは見ていた、当たり前にそれをする軍勢をソラは対峙てきたのだから。



「自爆術式……!? くっ、させるかァ!!」


「もう遅い、お前はここで散ればいい――――この(ルノ)と一緒に、世界を壊しかねない悪ガキはここでおしまいなの」



 宮廷の魔術師でさえ町の一角を吹き飛ばす怪物染みた破壊性。


 それこのルノ・イルシオンという英雄が行えば、一体どうなる……?


 間違いなくクレーターの一つは出来てしまうだろう――――チリすら残らず、ソラは灰と消える。

 そうなれば幾らソラとて再生は出来やしない。



 ゆえにさらば世界よ、(ルノ)は藻屑となって消えればいい。



「――――させないよ、ルノ。僕の愛しい人」



 ――――刹那に、ルノは唇を奪われた。



「!?」

「!?」



 ルノとソラは驚愕に見開くがそれさえ事態の介入者は意に介さず、襲い掛かるソラを見事な剣技で跳ねのけ回し蹴りの一閃で蹴り飛ばした。



「ふ、にゃ……♡ ふぇ……?」



 一方、キスされたルノはその懐かしい甘い香りに思考が吹っ飛んでおり、魔法陣の消滅した。


 この間一発の救出劇に、その場にいる全員が、その男に注がれた。



「お前は、なんだ……?」



「この子の夫で、君の敵だよ。それだけ分かれば十分だろう?

 そして知るといい――――これが怠惰の権能だ」

イケメンだなぁ(本作主人公から目を逸らしつつ)

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