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閑話 ルノ・イルシオン

ラスボス戦前なのでラスボスの過去


◆◇◆

 泣いている男の子。彼の頬に私は唇を落とした。



〝大丈夫、離れないよ。ずっと傍で抱き締め続けるから〟



 どうか幸せになって欲しい、と息苦しくなるような懇願を年甲斐もなくやった。



〝苦しかったね、悲しかったね……どうかルノを好きにして、ぜんぶ、ぜんぶ……忘れちゃお?〟



 逃げて、逃げて、逃げて、逃げて……正しい痛みも、前に進む意思も、全部が癒えた後ですればいい。


 だから、と……ルノはその男の子の手を取った。


 貧相な身体で必死に誘惑だってした。好きにしてください……なんて生まれて初めてそんなこと言った気がする。 それだけ、必死になっていた。



〝ルノ……私は君に愛されて、幸福だ〟



 彼の子供も産んだ。彼の命が安らかに消えるまで。ずっとずっと傍にいた。



◆◇◆


 (ルノ)の始まりは何処にでもいる子供だった。



 今より凡そ150年前……当時、大陸では資源枯渇からなる戦争が各地で繰り広げられていたため、その余波として戦争孤児が絶えなかった



『おかあさん……? おとうさん……?』



 ……ルノもその一人だった、それだけの話。


 目の前にある黒い塊に手を伸ばして、伸ばして、伸ばして……自分の腕が残ってないことに気が付いた。



『――――お前、俺らと一緒に戦わねえか?』



 そんな私を拾ったのが、丁度戦地に来ていた軍人だった。


 正直その後のことはあまり覚えていなかった。これを何処にもってけとかこれ取ってきてとか新兵みたいなことをひたすらやらされたような気がする。



 ただ結果として、ルノは両親の死を記憶の端に追いやれた。たぶん、それを計算してたんだと思う。



 それでも戦争は汚かった。人の死は悲しかった。

 見知った人を埋めながら、私を拾った人に聞いた。



『ねえ……なんで生きてるの?』


『唐突に罵倒された件』


『なんで戦うの? こんなに苦しいのに』



 仲間が死んで、死んで、死んで。それでも前に進む。意味が分からない。


 その先には骸の山しか築けない。そんな環境にルノも可笑しくなっていたんだと思う。

 古株のメンバーなら身体の改造は3桁越えも少なくない。化け物のような強さは手に入るけど、自我も無くなった奴も少なくなかった。



『……祖国のため、というべきところなんだろうな。ここは』


『でも言わないんだ?』


『言えねえさ……ま、その理由は知らなくていい。

 別にお前には関わりがないだろうしな』


『むう、また秘密主義だー』



 仲間はいつもそうだった。夜の街に行くときも『ここから先は戦場だ』と言って次の朝には『クリーチャーの巣窟だった』と死んだ魚の目で倒れてた。



『まあ許せよ、代わりに戦う理由教えてやるからさ』



 そういって仲間はブローチの中にある、子供の写真を見せてくれた。



『俺の息子でな、滅茶苦茶かわいいんだわ。今はお前の五つしたぐらいかな。

 お前なら結婚してもいいぞ』


『上から目線で人の結婚に指図するゴミ畜生』


『おう喧嘩するか。ステゴロでいいな』


『上等なの』



 ――――大切な人のために戦う。要はそういう事なんだと思う。


 ルノにはもう家族はいなかったけれど、大切な人とは誰だろう。と考えたら不思議と仲間のことが浮かんだ。



『ルノはみんなを死なせないために戦うの』



 ルノは息子の写真を見せてくれた仲間の死体を前に、そう誓った。


 その10年後、戦争は終わった。ルノが終わらせた――――灰霧という固有能力を以って、全てを終結へ導いた。


 敵も、戦争も――――仲間の命も。



『えっと……三番街の二丁目……21ー1だから……ここなの?』



 護国の英雄、と称されても正直どうでもよかった。

 ルノは国から貰った報奨金で、国の各地にいる仲間の遺族の元に向かった。



『ルノは、守れませんでした。

 これは彼の遺品なの』



 そういって深々と頭を下げる。ただ、護国の英雄なんていう過ぎた称号が重すぎた。


 遺品、というのはルノが持っていた。お守りとして、自分を戒めるための呪具として――――ルノは何も守れなかった、と自覚し続けるため。



 大半がルノの言葉に否と説いた。意味が分からない。


 ルノは守れなかった、ルノは守れなかった、ルノは守れなかった、、何も何も何も何も何も、何一つとして誓いを果たせなかった。


 死なせたくない、死なせたくない、死なないで、お願いします、行かないで、苦しまないで、声を聞かせて、泣かないで、一人にしないで……もう、ルノも殺してほしい。



『どんな誓いも、どんな願いも……守れなかったルノはゴミなの』



 だと、いうのに……それどころか感謝しだす輩もいた。

 意味が分からなかった。


 ルノは屑だ、ルノは塵だ、ルノは劣悪、邪悪、小物、カス……だからどうか、ルノへそんな目を向けないで。



『……ここが……最後……』




 意味も分からない感謝に、気が狂いそうになりながらも最後の遺族の場所に辿り着いてから……それに気が付いた。



『これ……ルノのネックレスの』



 時期は冬となり、雪は積もっていた。白銀の世界にルノの持つネックレスは、古くさびているように見えた。


 あの日以降、ルノはそのネックレスを〝最初の戒め〟としてずっと着けていた。



『…………?』



 ノックをする、その時間帯は特に外出していないと聞いている。主にここに来るまで住所の場所を聞いた人たちから。


 そこまでの人たちが妙な顔をしていたのが酷く印象的だった。



『…………ぁ』



 ノックをして、返事が無くて開けてみたら……彼が首を吊ろうとしていた。



『!?』



 小柄な体で全力タックル。床に倒れる彼のお腹に乗って押し倒す。



『…………ぁ』



 瞳が、瞳が死んでいた。

 正体は分からないが身体が酷く冷えており、すぐに温める必要があった。


 とりあえず浴槽を掃除して湯を沸かして入れようとする、が。



『…………沈むの』



 微塵も生きようとする気配が無かった。風呂に入れたら沈む。



『…………』



 ルノは服を脱いで同じ浴槽に入って、背中を抱きしめながら温めた。


 見た目が14か13の時で止まっているため、中身が28でもまあ……大丈夫なの、子供を風呂入れてる親もいるし合法なの、と割と安易な推理を基に。



『…………この場所は、ダメなの』



 それは勘だった。戦場で10年ほど生きてきたルノの勘は予知染みていたため、その勘を疑う隙は無かった。


 ――――彼はこの場所にいたら壊れる。

 ゆえにルノは反応がない彼を拾って、国からの報奨金で飛竜を買って彼を連れていった。


 命を絶つ機会を奪った者として、最低限の責任はとる。と決めたゆえなの。



『…………なにがあったなの……?』



 薬草や香辛料を混ぜた粥をお玉で混ぜながら、放心状態の彼の状態に疑問を浮かべる。



『…………?』



 国の果て、海が見える緑の生い茂る街の外れで彼を介護していてから一ヶ月が過ぎた頃。


 偶然彼の目の前で下着を見せてしまった。すると、少しだけ今までとは違う反応をしたのが見えた。



『…………涙なの』



 それがプラスの反応か、マイナスの反応か。ルノには判断が付かなかった。



『(しばらく過ごして精神が幾らか安定してるの。ここでは博打に出ずに治療を続ければ良いの……まあ2、3年経てば)』



 ――――ルノは押し倒された。


 過去にここまで強引に動いたことは無かった。


 息が苦しそうに上がっており、まるで獣の発情期のような血迷った眼光にルノは本能で察した。



『(ああ、これは……抱かれるの)』



 泣きそうな顔、限界ギリギリで、結界寸前の感情波。


 そして同時にもう一つの事実に気付けた。



『(この子の抱えた闇は……この類のものらしいの)』





 薄暗い室内。汚れた身体を軽くタオルで拭き取ってから、傍らで抱き着きながら寝る男の子へ目を向ける。



『…………』



 額へとちゅっ、と口付けをしながら布団の中に潜り込んだ。服を何一つ身に着けずに一つの布団で熱を共有するのは、酷く背徳的に思えた。



『(精神がもう少し安定して……言葉を話せる程度に回復したら調べてみるの)』



 その後、二桁ほど本能的な暴走で〝治療〟を終えた頃。


 元の街で何があったか調べてみた。



『…………婚約者を、奪われた?』



 集めた情報を手帳に描いてから結論に辿り着く。


 この街の領主に婚約者を奪われ、そして後もねちっこく嫌がらせを繰り返した。それが真相らしい。



『…………』



 その〝嫌がらせ〟の陰湿さにルノは唖然とした。


 戦場でも何度かこの手は使った。相手の戦意グチャグチャに踏み躙る上で盾に付けて遊ぶ(・・・・・・・)というのは使えた。


 相手の国の国旗やらで侮辱的かつ扇情的な衣装でも作って女に着させて、戦場の真ん中で遊ぶ……なんていうのもやったが、それは戦術上で効果的だから飲んだこと。


 ――――大切な人(家族)を守りたいから、誰かの大切な人(家族)を汚して犯す。そういうことだ。



『るのは…………何が、守りたかったの……?』



 大切な人を守るため? 嗚呼、、嗚呼……まただ。


 また誓いが破られた(・・・・・・・・・)



『領主を殺す……?

 本当に、それで、いいの……?』



 ――――何も守れないから、何もかもを殺す?



『ルノの、したいことは……そんなことなの……?』



 殺したい? ルノは殺すしか出来ない?


 こんな平和な世界で、誰かを守ることも出来ずに、ルノはただ殺すの?



『ぁ……ぁぁっ…………っ、』



 地面に膝を付き、戦場で行ってきた非道畜生が、脳裏で無限に描かかれる。


 32作戦。オペレーションエンドレス、秘匿ナンバー41。スパイの精神破壊、拷問、尋問…………嗚呼、ルノは。



『…………ルノは、人殺ししか出来ない畜生なの…………』



 涙をポロポロ流しながら、雪の降り積もる路地裏を進む。



『屑は屑として、他の屑と一緒に燃えて消えてしまえばいい』



 領主のことを調べ始めた。

 何故? 殺すため――――だってルノは屑だから。


 殺す、殺す、殺す――――だってルノは屑だから。


 屑は屑として燃えて死ね――――(ルノ)(ルノ)を殺して死ねばいい。



『…………【ここの文章が思った以上に吐き気を催す内容だったため、伏せさせていただきます】

 は……?』



 だがそこで領主という人間もまた壊れるしかない人(・・・・・・・・)生を歩んでいたと、ルノは知った。



『戦争、戦争、戦争…………戦争が、終わって、その先にあるのがこれなの?』



 戦争は何故、してたの? 誰かを守りたいからじゃないの?

 誰かを救いたいから、私たちは戦ったのではないの?



『っるの、は……ルノの、命は、何……?』



 ルノはただ、傷付く人が見たくなくて。守りたくて……でもどうすればいいか知らなくて、結果…………傷つける人を傷付けて、その果てにあったのは、何……?



『ルノの人生は……骸の山しか築けない』



 正しい人が、苦しんで。


 苦しんだから、壊れてしまい。


 壊れたから、正しい人が許せない。


 ――――当たり前に生きれる人が許せない。



『…………人の傷が、許せない。傷付くという事象が、嫌い。

 なら、ルノは、どうすればいい……?

 人殺ししか出来ない(ルノ)は、どうすればいいの……?』



 嗚呼、嗚呼……と、そして〝異能の資格者として選ばれた〟。



【怠惰の権能】ヲ 取得シマシタ。




『…………ただいま、なの』



 帰ってきた途端、押し倒されて抱き締められた。



『…………?』



 その後、愛を囁かれた。必死に、苦しそうに、愛していると、行かないで、と女々しい言葉を泣きながら発露された。



『大丈夫、大丈夫なの……全部、ルノが、受け止めるから』



 その時のルノは、どんな顔をしていたのだろう。


 分からない、分からないけれど…………。



 とても苦しそうな笑顔だった、と彼は教えてくれた。



 そこから、いくつもの月日が流れて。

 ルノは13人ほど出産して、彼の痛みを全て慰撫した。



『生きるとは、無限に痛みを強いてくるの』



 子供たちにも、彼にも、生きる上で、大切なことを教えた。

 そうすれば苦しくない? いいや苦しい。



   【生きるのは当たり前に苦しい】



『ならどうして、頑張るの?』


『それはね…………それは』



 ルノは、その問いに答えられなかった。

 ――――死ぬのが怖いから、ただ息をしてる。なんて言えなかった。



『それはね、そんな痛みよりも大切なモノを守りたいからなんだよ』



 彼はそう答えて、私のお腹にいる14人目の子供を撫でた。

 それが子供を励ますための嘘だと分かっていても、複雑だった。



『ルノ……僕は君を愛している。

 こんな糞みたいな人生でも、君さえいれば何度でも生きていけるんだ』



 そうやって、毎晩愛を囁かれた。



『ああ、ルノを励ますために嘘なんて……慣れないことをしちゃって……

 普段の嘘もろくにつけないあの子は何処へ行ったなの……?』


『はは、嘘じゃないんだけどなぁ……』



 困ったように笑う彼は、何処か不思議だった。



 ひ孫にも囲まれて、幸せそうに死にゆく彼は言った。



『ルノ……君を残していくことに後悔が絶えないよ。けれど神様はそんな我儘を受け入れてくれるほど暇な方じゃないからね。

 せめて、これだけは言わせておくれ


 ――――どうか自分を許してあげてほしい、愛してる』


こりゃたまげたなぁ。君は何人出産してるんだ、にゅう工房さんではないけれど本当に赤ちゃん製造工場。




そういえばこの話、珍しくホモ出てねえじゃん!

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