二話、世界滅ぼせるけどどうする?って聞かれても『やる!』って平凡な高校生は言わねえよ。
◆◇◆
その日の夜。
外で王城の壁を背に座り込む少年、ソラ。
位置関係からもその場所は体育館の裏を思わせるため、とても落ち着く。
「…………」
「…………スルメイカ、食う?」
通りすがりの幼女にスルメイカを差し出される。
「ありがてぇ……」
スルメイカを有難くしゃぶる。
「にいちゃん……元気ないね……」
「うん。でもスルメイカのおかげで元気が出てきたよ。ありがとう、お嬢さん」
「やはりスルメイカは偉大……」
しゃぶしゃぶ……。
他のクラスメイトは場内で楽し気にパーティをしてる頃、体育館裏(違う)でスルメイカをしゃぶるソラ。
「で、君は誰かな」
「…………謎の幼女、スーパードライ、とでも呼ぶといいよ……」
謎の金髪幼女はスーパードライと名乗り、ソラの隣に座った。
「スーパードライさん。なんだかアルコール依存症みたいな名前だね」
「気のせいだと思うよ……だって私は謎の幼女だからお酒とか知らないもん」
ソラは昼間にあったことを思い出す。
彼はクラス転移で呼び出されたとおもったら精霊装がない(と判断された)ため、その場で「こいつ悪魔じゃね?」「追い出す?」「ウンコだしワンちゃんアリ」などと囁かれまくり、居た堪れない状態だったのだ。
「まあ、いいか」
「およ?」
無論、彼は自分には精霊装がある。と説明しようとした。だがそれでも人の言葉より目に見える証の方が彼らには強く見えるのだろう。
ゆえ、必然的に失望されて今に至る。
「まずは認めよう。俺はこの世界で何一つ信用とやらが存在しない。
だから彼らが俺の言葉を信用せず無能扱いすることも、とても自然な結末だとも。うん、認めよう」
「そか」
――――その上で、だ。
刹那、瞳に淀んだ光が宿った気がした。
「まずは強くなろう、財力、権力、武力、なんでもいい。
この世界でも通用する程度の力を得よう。今の俺にはその選択が一番正解だ」
その意志を抱き、立ち上がり――刹那。次のような文が現れた。
要望:強くなる
を受諾。
【成長ノ導】を発動しますか?
【レベル9999】を得ることが出来ます。
「……おっ、目的達成した」
「なん?」
【成長の導】を発動しますか?
【レベル9999】を得ることが出来ます。
「はいいいいいいいいいいいいいい!?!?」
「うるさい」
ソラは叫んだ。
「いや待て!! ナニコレ!? はあ!?」
「お前が何だよ」
システムメッセージを何度確認しても同じ狂ってるとしか思えない文章が羅列されていた。
「(成長ノ導って……俺の精霊装か!? ……いや、そういえば水晶で調べらんなかったから、能力の詳細を聞けなかったような……だとすると……)」
「おいこら、無視すんな」
表示された文面を再度確認する。
「(これが、俺の精霊装の能力……なのか?)」
「おーい、聞いてんのか? おおーい」
そう呟くと更に表示がピコンっと増える。
【成長ノ導】
能力:願いに応じた能力を無条件で手にする力。
――――願うだけで世界最強になれます。
「(…………マジかー)」
「うっ、っ゛……無視、ひど…ぃ……よぉ゛……っ…」
最終位階と聞いて危険だと認識した空は間違えていなかった。何故ならこの力は余りにも強大過ぎる。
――――無限に力を供給し続ける魔法のランプ。しかも質の悪いことに回数制限らしいものが一つも存在しない。
「…………」
「うわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーん!! ひぐっ、ん゛っ、ぁ゛あ゛ーーー」
ソラは愕然として、その場にバタン、と座る。
「(こんな力で強くなったら、それは他者の努力無価値にしてしまうクズの行い。俺の主義に反する)」
「もうお前なんかしるかーーーーーーー! 勝手にしてろおーー!」
山波ソラは成長と呼ばれる現象が大好きだ。
ゆえにそこへ付随する努力は気合や根性なども当然に大好きだ。努力や技術の結晶を目にしたら興奮しすぎて射精してしまった経験もある。それぐらいに好きだ。
そのためこの選択肢は山波ソラには不快なモノだった。
「(が、成長できるのに成長しないという不道徳はさらに許せん。それこそ悪だ)」
同時に、彼は己の成長できる機会があるのにも関わらず成長しないことを最も嫌う。
他者の成長と己の成長。それを天秤にかけて熟考してからソラは結論を出した。
「…………おし、使うか」
成長ノ導 発動します――――刹那に。
「ん? なんだこれ、警告、ぶ…ん……」
【成長ノ導】を発動した場合、存在が強すぎて新宇宙が爆誕して既存生命が絶滅します。
よろしいですか? はい・いいえ
「よくないが!?!?」
特大の鬼畜文章が現れて速攻でいいえを押した。
「はぁーはぁーあぶねぇ……なんだこの力……ピーキーすぎる。
もうちょい! もうちょい手加減とかできないですかね?」
【レベル9999】を得ることが出来ます。
【レベル9999】を得ることが出来ます。
【レベル9999】を得ることが出来ます。
「あれ? 君もしかして煽ってる?」
【レベル9999】を得ることが出来ます(笑)
「こいつ……システムメッセージの癖に煽りよるわ」
拳を握りしめながらも叩き壊そうとしないあたりソラは良い子と言えるだろう。
「……とりあえずこの力はしばらく使わないでおこう。何か状況が詰まったらその都度使うってことで」
とりあえずの方針を決めると、その日は貸し与えられてる部屋に帰って眠った。
「……そういえばスーパードライさん、いつの間に消えたんだろ」
◆◇◆
その翌日、クラスのうちで任意で訓練が開始された。
「吾輩は、今日からお前らの訓練を担当することになった騎士団長のイヤミである。
ブリーフ派である」
「副団長のエミール・ミートソースだっ! 同じくブリーフ派だぞ!!」
国の騎士団を纏める二人は生徒らの前で声を上げる。
しかし訓練場にはクラスメイトが半数ほどしかいなかった。
「(まあ昨日と今日じゃ心の整理も出来てない子もいるらしいし、今日は集まりが少ないことも必然かな……)」
ソラは周囲を見る。訓練場に集まっているのはソラを合わせて僅か十名。
サカイがフォローを行い無理矢理まとめたとしても本質は全員に痩せ我慢を強いているというだけものだったゆえ、翌日になり高揚感が切れたのだ。
「ではサカーイ! 君はまず吾輩とのマンツーマンである!! ……くく、国王陛下から期待されている勇者、か」
「他の勇者様はこのエミール・ミートソースが受け持ちましょう!」
サカイは騎士団長……なんだっけ、そう、イヤミだ。イヤミについていく。
そしてエミールは全員の顔をまず見渡す、その中でソラを発見するとピクリ、と眉を顰める。
「お前は……確か無能の、か」
「はい?」
「よおおおおおおおおおおおおし!! 訓練内容をはっぴょおおおおおおおおお!! するッ!
――――お前、走れ」
ぽんっ、と肩を叩かれてソラは命令される。メッチャ良い笑顔だった。
「(基礎体力も足りなかったし丁度いいか)」
しかしその命令はソラが本来、やっておきたかった訓練と合致していたため特に背くこと無く訓練場の外周を走り始める。
「(サカイは……剣、か)」
チラリとサカイの方角を見ると何と真剣を持って剣術の構えを真似させられていた。
「ぐっ……」
明らかに辛そうな顔を浮かべるサカイ。
「どうでしょう? 重いでしょう、我らはこの剣を毎ッ、日! 持っているのですよぉ~」
イヤミはニヤニヤして苦しそうなサカイを見ている。
「か、かるーい」
「くっ」
イヤミは苦虫を嚙み潰したような表所を浮かべる。
「(何やってんだアレ)」
ソラは気を取り直して前を向く――――と、そこには何時ぞやのパネルが。
【成長ノ導】を発動しますか?
要望:剣、か……
【剣術Lv10】を会得できます。
「…………」
とりあえず無言で【はい】を選択して、ダッシュを再開した。
――――その日、ソラはそれ以外の訓練を行うことは無かった。
ソラは【体力上昇Lv1】を手に入れた。
◆◇◆
夜。城の外周、人目に付かない草むらで寝そべりながら筋肉痛を極めた足を休ませる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ー……疲れた」
「うるせえ、あたりめやるから黙れ」
ソラは口にあたりめが突っ込まれるのと同時にその人間を察知した。
「あ、謎の幼女スーパードライさん」
「うぃ」
アタリメをしゃぶり、しゃぶしゃぶという汚え擬音を出す。
スーパードライさんも隣に座ってアタリメをしゃぶり始めた。
「……」
「…………」
「………………」
しゃぶしゃぶ……。
「「(きまずい……!)」」
アタリメをくちゃくちゃ咀嚼し始める。
クチャクチャ……
「(ってかなんだこの人、何で来たんだ。というかクチャクチャの擬音うるせえなコイツ……)」
「(この野郎、美幼女を前にアタリメしゃぶるとか良い度胸してるじゃねえか……なんか話題ふらねえと……つかコイツアタリメしゃぶる音うるせえな)」
クチャクチャ……ごくん。
「ほらよ」
「あ、どうも……」
しゃぶしゃぶ……
くちゃくちゃ……
ごくん。
――――そして夜が明けた。
これ、ヒロインとのイチャイチャイベントのつもりです。自由に胸キュンしていいですよ
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