十八話、ソラと同級生
ヒロイン枠はルノとかシルベとかなんでもいんだよ。どーせホモしかでねえよ
◆◇◆
「やっべー死ぬ死ぬww 治癒せんと死ぬww」
サカイを強化されまくったステータスでハンマー投げよろしく星となってキッラキラとしたところでその変化に気付く。
「あれ? なんか霧が薄くなってる……?」
全身が死に掛けててもう制服に至ってはちょっとエッチな少年バトル漫画のいや~んになっていた。
はは、疲れてて地の文がカスになってら。
「うん、さっきまで一寸先は灰色だったけどなんか十メートル先の輪郭ぐらいなら見えるようになってる」
朝のランニング並みに本当に走っているのかツッコミを入れたくなるような速度で走りながら、後ろを振りかえって確認した結果だ。
「……?」
…………ュー………………
なんか、変な音が耳に入った。例えるならそう、修学旅行で買った木刀を振り回したい衝動に駆られて振った時、微妙に風を切る心地いい感覚に似て、いて。
「………………?」
――――ューーーー………………
「ギャアああああああああああああああアアアアア!!!!」
「なんか飛んできたーーーーー!?!?」
ビュー――――――――――ッ。
正に剛速球。時速100は下らない勢いで神速の如く飛んでくる謎の白い毛玉。
「あ、マスター! 受け止めて!!」
「うぉ、あぶねえ」
それはソラを巻き込み事故にせんと猛り狂っているように見えるがソラは見事にそれを回避。
「で、どうだった? 主人から奪ったルノ嬢との戦闘は」
「あれ? 怪我してる従者に対する物言いとは思えないぞ??
まあいいです……クッソ強いですね、攻撃は一発掠れば致命傷、急所狙うと確実に弾かれてこっちの肉と骨とあらゆる機関が見事なまでに弾けます」
戦闘技巧を単純に答えるも、その答えは絶望一色という中々に終わっている状態だ。
「他に使えそうな情報は?」
「大鎌を浮かして使います、あと戦闘関連は……なんていうか、全部経験値でやってる感じがします。戦闘者としての莫大過ぎる経験値から生まれる勘。加えてステータスがぢ雲泥の差ですよ」
ハッ、と鼻で笑いながら現状を伝えるシルベ。本当にコイツがサポート精霊を名乗っていいのかカスタマーセンターに連絡したくなるソラ。
カスタマーセンター何処だよ。
「つーまーり。戦闘技巧が着いてきてる努力込みの正真正銘の最強、と」
「イエース! 恐ろしく強くて何回かイキましてその隙に何度も負傷を……」
「なるほど、それは不可抗力だから仕方ないな」
「――――何一つ不可抗力っぽいところが見られないのはルノの気のせいなの?」
「「気のせいだ!!」」
「……断言されたの」
黒い大鎌を片手に、返り血で塗られたゴスロリ服をまとった異様な幼女。
その瞳はソラの足、膝、股間、を心底不快そうに観察していく。そして嘆息して告げた。
「嗚呼、嗚呼……これはどうも、ルノは当たりを引いたみたいなの
ソラ・ヤマナミ……お前のその眼、その挙動、その在り方、呼吸法……間違いない、お前は英雄足り得る存在なの」
黒い大鎌を掴んでいる手を離し……その大鎌は落下せずにまるで無重力空間にいるかのように浮遊を始めた。
「この場で、お前を殺すの。ソラ・ヤマナミ」
「と、言ってますがマスター如何に」
「頑張るぞー」
「ゆるい」
と、言いつつも折れた剣を片手で構えるソラとソードブレイカーを逆手で掴むシルベ。
瞳がギャグ世界線からシリアス路線に行く。
「合わせろシルベちゃん」
「了解マスター、作戦は?」
「んなもんあるか!! 俺が突っ込む!!」「ブラックな職場!!」
そして踏み出し、ルノも戦闘を返しせんとする
「俺も参戦するよ、ソラ」
――――刹那に。
その場の中心に楔ようなモノが撃ち込まれた。
「ほー?」
その場に撃ち込まれた楔には細かい鎖が繋がっており、それは街の屋根に立つ術者の手元と繋がっている。
「む……なの」
「おー、お前は」
「さてさて、どうなるかシルベちゃんには想像付きません」
始めに鎖を辿り、次に屋根の上へと目を向けて、最後にその主へと声を掛ける。
「小菅さんなの」「山岡!」「伏見!」
「凄い!! 一番付き合い浅い子しか正解してない!!」
なんかボケー、とした顔で見上げるルノ。
ソラとシルベは間違えた互いをディスり始めた。
「シルベちゃん、間違えちゃダメでしょ」
「マスターのケツ穴にブーメランを発注したいのです!!」
「殺意の表現方法が最悪だな!!」
しかし状況はともあれ、味方が増えたのは嬉しい、とソラはほくそ笑む。その刹那に。
「ッ!?」
自分の脳天目掛けて放たれた楔の攻撃に首を逸らして回避した。
カンッ……、横転していた馬車に食い込む楔。ソラは冷静に嘆息を吐き攻撃者へと冷めた様な目を向けた。
「はぁ……今日は同級生によく命を狙われる日だなぁ」
「……驚かないんだな」
ソラは次いで飛んでくる楔も回避し、三撃目は折れた剣の柄で弾く。
「まあ……予感はあったしな」
先ほどまで渦巻いていた霧の中、突然狙ったかのように現れる。
突然の参戦者に対し、ルノがまるで知り合いのように振る舞う。
ソラ・ヤマナミは彼に何かしらの執着を受けている。
――――気付かない方が不自然だろう。
「で、どうするシルベちゃん。
戦闘技術も格上。
基礎能力は超格上。
唯一勝ってた人員の差も埋められた現状――――やっべ、勝ち筋マジで見えてこないじゃないか」
それに加えて言うならソラは連戦による連戦。
シルベちゃんも何度も致命傷を受けており、相当な疲労が溜まっていると見て言いだろう。
「じゃあシルベちゃんがまだ経験あるあっちの相手してるのでマスターはあの女を潰してから合流してください」
そう告げてからシルベちゃんは空間魔法による瞬間移動から鳴る奇襲を行い、刹那に五十メートルほど骨がぐちゃぐちゃになりながら吹っ飛んだ。
「サンドバックの経験という意味だとは恐れ入った……」
寝屋が吹き飛ぶ、家が消える、文化へと破滅の歴史を告げていく。
明らかに狂ったレベルの能力差からなる異常すぎる破滅。それを横目にかつての親友は相対する。
「何故、と聞いた方が良いかな」
「聞いてくれると、まあ嬉しいな」
ソラは足元を踵で抉り、クレーターを作って飛んだ瓦礫の一つを掴んで投擲する。
レベル98の力で放たれる瓦礫は最早銃弾にも等しい速度で加速に次ぐ加速を行い小菅へと撃ち込まれる。
「何故?」
破壊された屋根、それを見た。
「それはな……お前を救いたいからだよ、ソラ」
瞬間、後ろに回り込んでいた小菅の攻撃を紙一重で察知して回避する。
またしてもソラ案件。ソラはどれだけ好かれているんだ。これが全員異性なら立派なハーレム。
「ほーほー、続きは?」
回避でズレた体勢を生かして屈んで足払い、その後は距離を取る。
手品の種は不明だが警戒すべきと踏んだゆえだ。
「続きを話す前に一つ聞かせてくれ
……なあ、ソラ――――俺の名前を言ってみろ」
「何を……」
意味の分からない質問にソラは眉を顰める。いいや、これは本当は分かっている。
ソラはこの問いの意味を、察していた。察した上で眉をしかめたのだ、それはこの問いが彼の琴線に触れたものだったゆえだ。
「いいや、それだけじゃない。
俺の性別、年齢、容姿も聞きたい――――なあ、俺は誰だ?」
「…………」
ソラは瞳を伏せる。だがややあって諦めたように息を吐いてから、吹っ切れた様に笑みを浮かべて問い返した。
質問に質問を返すな。
「…………もしかして気が付いてた?」
「気付かない方がおかしいだろう」
口元が悪戯気に歪む。そしてソラは観念したようにずっと隠していた真実を告げた。
「お前は」「俺は」
ソラが隠していた(尚、バレバレ)その事実とは。
「「お前(俺)の名前を知らない」」
ソラお前、マジでボッチじゃん