十六話、ソラの好敵手になりたくて。
すぐに治癒魔法を使わねば死ぬ。その瀬戸際で。
「――――で? 満足したかよ、サカイ」
ソラは腹部に刺さったサカイの剣を更に奥へと自ら刺し込んだ。
「!?」
この一瞬、この刹那。ソラは死ぬ。
かと、思われていたし現実の問題としてソラはもう虫の息だ。そうだ、こんな光景はあり得ない。
「サカイ。俺は以前にも言ったはずだぞ。
お前がキレてる相手もまた、お前だと」
だと、言うのにこれはなんだろうか?
「ギ …ィ゛ッ!?」
あろうことか瀕死のソラが、全身が腐敗した死体よりも酷い状態のサカイの胸倉を掴んで頭突きをかましているのだ。
前頭葉の破片のようなモノが少しだけ見る。ソラは何故生きている? 何故死んでいない?
その答えは単純明快――――ソラは自分の身体を無視している(いや無理だろ)。
「ひ、ヒひっ゜……やっ パり ダ
お 前… 狂っテる ヨ」
それは彼の狂ったまでの精神力。
それは彼のイカれてるとしか思えない精神構造。
それらの高校生の標準装備が成している技であった。
「何を言う、俺はいつだって平穏と平凡と成長を愛する一高校生だ。
その一高校生が迷える高校生に助言をしてやろう。
お前のしていることはただの八つ当たりだ」
押し飛ばし、露出している脛の骨を蹴り飛ばす。
サカイは激痛を物ともせず行動しようとするがソレが上手くいかない
――――肉体に物理的な限界が来たのだ。もう致命傷の域を越えている、あと数十秒も命が持つとは思えない死傷。サカイ・コースケはこのまま死を待つばかりだった。
「お前は確かに凄い。俺とお前の学園生活でもその差は顕著に出ていた。
なんか前持った気がするが単純にお前が俺に気にする理由がいまいち読めないんだよな」
首をコキリ、と回しながら致命傷を再生させていく。
もう詰みとなったサカイを見下ろして折れたちょっとしたウンコソードを片手に歩むさまは死を告げる死神にしか見えない。
その死を送る処刑人は最後の言葉を聞くかのように問いかける。
「お前は何が見たい、どんな地平を望むんだ」
地べたを死に掛けながら、それでも瞳だけはソラを眺めるサカイ。
そんな彼へ剣の、折れた切っ先を向けて問う。お前の命はこの折れた剣で絶てると言わんばかりの目で、サカイの死を予知させながら。
「人は何かを願い、何かを求めて、何かを目的とし。
それに付随する成長という手段に手を掛ける」
もう喉もまともに機能しているとは思えないサカイへ、最後の説教を始めた。
今なお、霧が迫るこの状況に置いて。そのような行動をとることは狂気に値するだろう。
だがソラ・ヤマナミはしなければならない。
この行動をしなければ、気が済まないのだ。例え自分の死が片側の天秤に乗っていたとしても、この行動だけは止められない。
「目的とは的外れの成長をすれば何もかも上手くいかない、何せ目的に全く近付く気配が無いのだから、的外れのことをしていては当然のように何も進まないという現実に押し潰される。
これでも人を見る眼は育てていてな。不思議とお前の様子は、そう言った自分が見えない人間にそっくりなんだよなぁ」
「…………」
けれども何も答えないサカイ。瞳にもう光は宿っていない。声も届いているのかすら分からない状況だ。
そんな様子を見て呆れたように息を吐く。
「けれどま、いいか。
どうも俺がお前に何かをしたようだ。ならばここで『何故』と問うこと自体がお前を煽ることにしかならんよなぁ
――――さあ、終わりにしようか。サカイ」
剣を振りかぶり、解離の衝撃を放つべく剣を打ち下ろす
「ッ!?」
――――刹那に。ちょっとしたウンコソードを、ガチリと、確かに掴まれた。ソラは驚愕した。
「どう……シ゛て。
ォ゛前 ハ゜――――俺を、見゛テくれ なイんだ……!」
泣きそうな声で、枯れそうな喉で、虫よりも軽い命で、今、サカイ・コースケという男は確かにソラ・ヤマナミの剣を受け止めるという怪奇を顕現させていた。
「……何……?」
だがソラはそんな事実に対して驚愕したのではない。
ソラが困惑したのはそのサカイが告げた言葉にあった。
「俺が、お前を見ていない?
何を馬鹿な、俺はお前よりもお前の素晴らしさを極めて客観的に判断しているつもりなのだがな」
「……は、ハは゛。ソれ゛、だヨ。
ソレなん だよ……! ヤマ゛ナミ……ッ゛!!」
サカイの身体、少しずつ、光を帯びる。同時にソラの腹部に刺さっている剣も光を放ち始めていた。
「客観゛性とカ、周囲゛とかッ!!
お前は、お前いヅもゾればかり!!
――――いつだって俺を見ない!! サカイコースケ個人を見てくれねえんだ!!」
「ッ!? それ、は……」
ソラは考えた、サカイの言っている言葉。サカイの告げる言葉を自分の今までの対応に当て嵌めた。
自分は確かサカイを嫌っていたはずだ、なんだか不快だと考えていた。だがその想いをサカイに真正面から叩き付けたことはあったか?
客観的ではなく、周囲の評価ではなく、サカイ・コースケ自身に向き合ったことがあったか? と。考えた。
そして――――確かにそうだ。と、ソラは思ってしまった。
ソラは今、生まれて初めてサカイ・コースケという男を直視しているような気分になった。
「お前、は……」
――――誰だ? と、無意識に問いかけそうになり。自分が本当にサカイという人間をみたことがなかったと、悟った。
物理的に不可能なはず、だ。立ち上がれるわけもないのだ。だが、それでもサカイはソラの胸倉を掴んで、その怒りを、その慟哭を、真正面から叫んだ。
「女も、金も、カーストも、何も、何も、何もかも!!
客観的とか、他がどうとかじゃねえ!!
俺は!! お前に、山波ソラ個人に!!!!
『お前すげえな!』って言われたいんだよ!!!!」
泣きながらそう叫んで、初めてサカイは自分気が付いた。
嗚呼、こんな簡単なことだったのだ、と。自分の願いは、自分がやりたかったことを、初めて気が付いたのだ。
「俺、は……山波ソラに、対等として扱われるライバルになりてえんだよ!! そうじゃねえと、楽しくねえんだよ!
俺は、俺はッ!!
――――お前のライバルになれなきゃ、何も楽しくねえんだ!!」
瞬間、爆円の如く広がる光の渦――――サカイコースケは今、覚醒した。
〝汝、恋を抱きて光を願い追うモノよ〟
〝その手に力を授けよう〟
〝その命題の名は【奈落】〟
〝愛しき光はされど終わらぬ闇なりて〟
〝その身は終わらぬ奈落へ落ちる〟
【位階】――――第一へ 到達しました。
その光を見てソラは思った。
「……素晴らしい……!! 嗚呼、素晴らしすぎる!!
素晴らしいよ――――コウスケ!!」
物語の主人公めいた覚醒、ピンチという局面で成すという奇跡めいた展開。
それを前にソラという男が我慢できるはずもなく。過去最凶に至るまでの破滅的な斬撃を繰り出した――――それを見て、コースケは。
「ぁ、嗚呼……や、っと……見て、くれた。
――ソ、ラ……」
幸せそうに、この上なく幸福を噛み締めて――――切り裂かれた。
名前 :ソラ・ヤマナミ
精霊装:成長ノ導
位階 :最終位階
命題 :成長
【スキル】
鑑定Lv10
剣術Lv10
火魔法Lv10
思考加速Lv10
治癒魔法Lv10
精神操作魔法Lv10
体力上昇Lv5
精神上昇Lv5
飢餓耐性Lv2
疲労耐性Lv3
集中力Lv3
身体変化Lv10
記憶操作Lv10
戦闘術Lv5
【能力値】
総評:人外レベル
レベル:98
筋力 :4800
防御 :4800
知力 :4800
精神 :4800(+300)
【称号】(実績)
格上殺し
いじめられっ子
呪われた子供
死闘経験者
人間斬り
勇者潰し
裏ハーレム三人目登場です。
・副団長
・団長
・勇者
全員揃った! と思ったんですがなんか世のハーレムって5人とか10人とか365人とかのが普通にあるみたいですね。
と、言うわけで裏ハーレムもう少し増えるかもしれません。表ハーレム? 女性キャラ? ちょっと何言ってるか分かりませんね……
ちなみにこのサカイ君がソラのことを追いかけたくなった理由、いつか書きます。……恐らく
ってかなんでサカイおめえ主人公みてえなことしてんだオラァ!! お前初期プロットじゃソラの尻を狙うただのヤベーやつだったじゃねえか!!