十話、TSモノの『TSした後に学校の奴とばったり会ってナンパされた末に友人(事情知ってる)が『コイツ、俺の連れだから』って連れ出すシチュ』好き。
◆◇◆
「お、おい……アレ」
「はあ? なん、っ!? か、かわ……」
流れるような長い白髪。その色は何処か病弱なものを思わせるのに他の要素がソレを一切感じさせず、寧ろ美の完成系とすら思えてしまう。
「わあ……何処かの貴族、かしら」
「ちょ、ちょっと声かけてくるわ」
「ねえねえ、今デート中だって知ってる?」
人形のように精巧な作りの顔は整い過ぎて何処か異端染みたものを思わせる。それほどの美。
「え? でも、あの子……なんで全身傷だらけなの……?」
「ああ、あんなに弱ってたら絶対どっかの奴隷商に誘拐されるだろ……今のうちに……保護すっか」
「は゛ァ゛?」
加えてその少女は身体中に痣やら怪我やらに溢れており包帯をあらゆる個所に巻いていた。
そして極めつけは頭に付いているソレ、だ。
「獣人……」
「ケモ耳……可愛すぎる」
「人権が認められてないガルド王国では危険だぞ……」
獣の耳。それは獣人と呼ばれる種族の象徴ともされており、ゆえに。
「(…………どうして、こうなった……)」
そのケモ耳美少女――――ソラ・ヤマナミはこの場にいる誰よりも困惑していた。
◆◇◆
―――― 一時間前。俺はイヤミをどうにかしてやっつけよう計画を立てていた。そして孤児院の裏庭でシルベ(相棒枠)からの提案を受けた通りにやってみた。
「スキル【アバター作成】」
【データがありません――精神性を参考に新規作成しますか?】
【シルベ:それとロリ化させていいですか?】
【はい・イエス・了解】
「…………なんだか何者かの意図を感じるが、まあいいか」
俺はイエスを選ん――――刹那、ケモ耳美少女になった。
「……はぇ?」
一気に視点が低くなった。
軽く20センチほどは背が縮んだ気がした。
「? ……何が起き、て」
現状把握のために周囲を見渡すと、そこには丁度窓ガラスがあり鏡のように反射して――――ソラの女体化バージョン(ケモ耳白髪傷だらけロリ)が写っていた。
「…………………………」
明らかにサイズ違いの制服を着ているモノの、間違いなくそれは自分の先ほどまで来ていた制服。
身振り手振りをして、鏡に映る美少女も同じ動きをする。
「これ…………………………俺?」
口の動きも全く同じで、そしてそれを自覚した末。
「はあああああああああああああああああ!?!?」
発狂した。その様子を見兼ねた俺が声を掛けてくる。
「落ち着いてマスターさん」
「誰誰誰……いや、そうだな。落ち着こう」
俺の姿をしている。けれど俺にしては恐ろしくやる気、というか人間味が抜け落ちたような表情を浮かべている男がいた。
しかし男の指摘は間違いなく正しいものであったためそれに納得して深呼吸を行う。そして落ち着いた様子を見計らってかその俺?は自己紹介を始めた。
「お初にお目にかかります、あなたの精霊装ことシルベくんです。
以後よろしくお願いいたします、マスターさん」
その自己紹介は簡潔で、かつ伝えるべき事柄を纏めていたためスッと脳に入ってきた。
その様子すら見切っていたのかその上で補足情報を流してくる。
「スキル:アバター作成により身体が余りましたので、この度顕現いたしました。
マスターさんがスキル:アバター作成を解除したらそちらの身体で顕現するのでシルベ君からシルベちゃんになります。呼び分けの協力をよろしくお願いいたします」
簡潔に告げ、頭を丁寧に下げる。刹那、シルベ君と目が合った。
そして気付いた――――これは同胞だ、と。
思わず口角が上がる、どうやって自我を獲得したのかは不明だがこの子は自分と似た属性を持っている、いわば自分の身内にも思える狂念を感じられた
「ああ、こちらこそよろしくお願いします。
知っていると思うけれどソラ・ヤマナミです、一応シルベ君の所有者、という立ち位置にいる」
俺は手を差し伸べる――――身長の差があり過ぎて手を伸ばしてる感があるのは気のせいだろう。
そして握手をしてファーストコンタクトを終える。
「しかしなんでこんな見た目なのやら」
ロリなのはなんか嵌められた気がしないでもないがそれは自分の責任なので不満は微塵もない。だが何故ケモ耳なのか、何故白髪なのか、何故傷だらけなのかが不明だった……。
「悲鳴が聞こえましたが何かあり……? ……誰、ですか?」
「この子は私の知人です、リリカさん」
「二ホンカワウソッ!!(迫真の鳴き声)」
リリカが突入。俺の姿に驚愕する。だが即座にシルベ君がフォローを加え、一旦の事なきを得た。
「(ま、マズイ!? この姿を見られる!? い、いや……見られるだけじゃない、もしも正体が俺だとバレれば……!)」
正体がバレる→女装癖だと疑われる→女装は一般性癖なので何も問題がない→死ぬ。
「(俺が死んでしまう……!)」
「ソラさん。丁度良かった、謎の幼女さんから聞きました。私も手伝わせてください」
「はい、構いませんよ。それと今はシルベ君と呼んでください」
「え? ああ、分かりました」
リリカ・アルバ……彼女には絶対にバレないようにしようと密かに決意した。
「スキル:アバター作成/精神性参考の傾向の情報開示を要求。
特徴、傾向、詳細……インストール/成功。
獣人の特徴/強烈な攻撃的衝動の顕れ。
白髪の特徴/擦り切れた精神性。
傷の特徴 /消せないトラウマ。
整った顔 /理性、安定した精神、(成長し続けたい)心の純度
――――過去の痛みを自覚した上で成長し続ける?」
テント作成完了。最低な部分だけ似てるパートナーだった。
名前 :ソラ・ヤマナミ
精霊装:成長ノ導
位階 :最終位階
命題 :成長
【スキル】
鑑定Lv10
剣術Lv10
火魔法Lv10
思考加速Lv10
治癒魔法Lv10
精神操作魔法Lv10
身体変化Lv10【女体化中】
体力上昇Lv6
精神上昇Lv5
飢餓耐性Lv4
疲労耐性Lv5
【能力値】
レベル:32
筋力 :1600
防御 :1600
知力 :1600
精神 :1600
【称号】(実績)
格上殺し
いじめられっ子
◆◇◆
少女の姿であるソラ。彼女?の傍にはシルベ君(見た目がソラ)がいる。
さて、この状況で可能な限り会いたくない相手とはいったい誰だろうか? ガーダーさん? リリカ嬢? いいやどちらも違う、正解は。
「……」
「……ど、どうしよう」
――――元クラスメイト。なんだこの地獄。
「すげえっ、こんなレベルの女の子初めて見た」
「なあなあ君、俺たちと遊ぼうぜ。実はここだけの話なんだけどさ……俺ら、凄い身分なんだよね」
「ちょっ、それ言っちゃだめだろ? まだ勇!者!のお披露目前なんだからさ~あっ、なんでもないよ。あー、もしかして、聞こえちゃった……?」
「(皆まで言ってんだよなぁ……)」
しかもナンパされるとか言う恐怖。
「(今すぐ騎士団長の首かっ斬りに……いや、成長する心を植え付けに行きたいんだが……しかし勇者の現状とかも聞いてみてもいいかな)」
ソラが見たところ、不思議と教えてくれそう。
「(目的 勇者の情報を引き出す。
現状 相手は一応、話してはならないと言われてる。
手段は……酒で泥酔させるか、監禁して脳を分か……ダメだ! それは犯罪だ! そういえば俺は平凡な高校生だった!)」
唐突に思い出される平凡な高校生設定。そのため法に抵触する手段は使えなくなった。だがその時、背に立つ男の気配を感じる。
「ソーラさん。どうかされましたか」
「シルベくん」
背に立つ男の正体、それはシルベ(外見ソラ)であった。咄嗟にソーラという偽名を出したのは状況を察してだろう。
思考は念話で共有していたため、状況を理解した上での行動であることが推測できる。
「あれ? 山な……っぶね」「気を付けろよ」
「久しぶりだね」
シルベ君は爽やかスマイルで軽く手を上げる。
だが元クラスメイトらはいつものように挨拶を返してくれない。第三者から見るとここまで悲しいものだったとは……
「なに、この可愛い子アイツの知り合いなの?」
「そうだよ」(ニコ)
「……なあ、なんか今日は山波の様子が恐ろしくキモ……いや、何でもないや」
「(全部言われた上で誤魔化された……)」
自分が爽やかスマイルを浮かべたわけじゃないのに流れ弾がソラへ直撃する。
「シルベ君さん、何かあったのですか?」
「二ホンカワウソッ!!(迫真の鳴き声)」
そこへ登場するリリカ。フードを変わらず被っているモノのその下から覗く美貌は欠片も隠せていない。
「うぇ!? ま、また美少女増えたぞ……!?」
「くっ、ど、どうする?」
「どうするってお前……そりゃ」
クラスメイトらはソラを見る。
――――自称平凡。それはソラ・ヤマナミの二つ名だ。
彼は平凡な高校生を自称しているモノの、その実態を知るクラスメイトらは彼の姿を見た瞬間、ドン引きするほどである。
そこに目をつけられた自称イケメン・サカイ君が裏から手を回して無視するように仕向けた、というのはソラを除くクラスメイト全員の共通認識だ。
だが、今回は地球とは事情が異なっていた。
「待てよ……今コイツと俺ら、どっちが強いんだろ?」
「は? そりゃお前……俺たちじゃね?」
「……勇者だし、あとで王様に頼めばなんか上手いことやってくれると思う」
そう、今ソラには精霊装が無い(と思っている)のだ。
彼らは周囲の兵士らに行動を見られるたびに「すげえ!」「これが勇者か……」などと褒められて、自信がついていた……過剰なほどに。
「なあ、お茶しないかい?」
「しない」「ごめんなさい。私は少し彼と用事がありまして……」
「シルベ君もマスターを渡す気はありません。良き成長に繋がるなら別ですが」
即答である。しかも確実にハッキリ告げられたため面を喰らっているようだった。
「くっ……なんかムカつく、が……今回は諦め」
「……やだ」
クラスメイトの一人が引き下がろうとするともう一人の生徒が呟く。
それどころか彼は、いつの間にか手に短剣を握っていた。
「ちょ、お前……何街で出してんだ!」
「うるせえ、おかしいじゃねえか! 精霊装がねえ奴なんかより俺といた方が確実に幸せのはずなのに……」
騒ぎ出すクラスメイトに視線が集まる。それを不味いと思ったのかクラスメイトCが宥めようとする。
「あー、コイツこっちに来てから短パンニーソ摂取不足で情緒不安定なんだよな……ちょっと落ち着け―、俺が短パンニーソを履くから少しだけ待て」
「短パンニーソ中毒症状か……なら仕方ないな」
その説明にソーラは納得するも、クラスメイトBは今にも襲い掛かりそうな雰囲気を出している。納得しても現状は好転しないのだ。
「お、おい! なあ君たち、これを見ろ! 俺の方が凄いだろう?」
「私には単なる短剣にしか見えないのですが……」
精霊装の真価は戦闘の素人であるリリカにはわからなかった。残念。
「実は凄い武器で、こんなカッコイイ鎧持ってんだぞ!? なのにそいつが持ってるのはなんだ!? なんかちょっとしたウンコみたいな切れ味しかなさそうな剣しかないじゃないか!! 君たちは間違えてるぞ!」
「ちょっとしたウンコソードのことどこ行ってもディスられるの何で???」
短パンニーソの禁断症状が出ている以上、彼は短パンニーソを摂取するか完全に断つかのどちらかを選ばないと死ぬ。
きっと彼は短パンニーソに踊らされた一被害者に過ぎないのだ、それを理解しているがゆえにソーラはちょっとしたウンコソードを持とうと……持ってなかったため、徒手の戦闘を試みる。
「シルベ君は問いかけます。リリカさん、マスター。彼らに着いていく意思はありますか?」
「着いていく気は無い。この身に幸せなどという不快物質は要らないよ、あるのは苦痛だけでいい」
「私も着いていく気はないです」
結論が出たため、シルベ君は向き直って一礼する。
「多数決の結果、あなた方が振られた。という結論が出ました。ここは引いてください」
「……っ、なんかヤマナミの癖に生意気だな」「許せねえ、俺と彼女たちをかけて戦え!」「ああ……自体が最悪の方角へ」
精霊装を取り出したのが二人になった。しかしこれも短パンニーソの禁断症状が影響しているのだろう、致し方なしとシルベ君は目を細めた。
「(判断を仰ぎます、マスター)」
「(ふむ……)」
ソーラは周囲を見る。クラスメイト三名、衆目の目、リリカ。それ以外の状況を軽く視認して次は自己の目的を再確認する。
「(俺たちの目的は【貴族の心を(俺にとって都合が良い形に)更生させること】で、そのために必要なカードは【透明化】【精神操作】。可能ならここに加えて【敵の情報】か【敵の情報を奪う手段】がほしい……)」
もしかしたらこちらの手段を上回る何かがあるかもしれない。その可能性が僅かでもあり、探れる手段があれば探りたいと思うのは当然の思考だ。
その上で。
「(――――リリカさんを依存させる方向性で行動を起こせ、失敗してもフォローはする)」
「(何故?)」
「(あのイヤミとかいう奴に探りを入れたい、そのためにリリカさんは使える手段になりうるかもしれない……顔もいいしこれから先も使える手駒になる可能性が高い。その上でリリカさんを手駒にするには少しでも精神に付け込んだ方が良い)」
発想が屑のそれであった。
「(マスター……)」
「(なんだ?)」
「(ドン引きです……)」
「(なん……だと……!? このメンヘラ女子をソープ堕ちさせるイケメンホストから着想を得たこの作戦に何の不満があるというんだ……)」
「(性根)」
「(正論だな)」
結論:ソーラは屑。
「(ですが手段としては極めて正しい。やはりマスターは最高です、いつか身体の主導権を乗っ取りたいです)」
それとシルベ君も屑。
「(ああ……! 素晴らしい、配下という立場に満足せず更に上を目指すというその心意気を讃えよう。
乗っ取りたいならいつでも歓迎するぞ! だがやるなら命を賭ける覚悟も当然あると判断し、俺も全力で潰しに行くと約束する!)」
そしてソーラは馬鹿。
何はともあれシルベ君は作戦のストレートさには一応筋が通ってると理解したのか実行に移した。人道に沿っているかは不明。
「すまないが連れの女性が困っているので」
「がッ……」
クラスメイトの首を強引に掴み自分に引き寄せ、目を合わせる。
「お引き取りください」
【精神操作魔法Lv10】を発動しました。
瞳が一瞬、チラリと揺れて気が付けばフラフラと立ち去った。
周囲がポーっとシルベ君に見惚れている、どうやらシルベ君は周囲にも印象操作にしようしているようだった。
「(……この魔法使えば速攻でリリカさんの心を掌握できる気がしますが……マスターには伏せておきましょう。自己の成長に視野が偏り過ぎて成長の導関連には頭が上手く働いていないマスターの不徳です。さあいつ気付くでしょう)」
シルベ君はソーラの成長を信じている、ゆえに必ずソーラならばこの程度の間違いは反省に活かすであろうと確信している。
だからこそ絶対にサポートはしない気でいる、サポート用の精霊なのに。
「よく出来ました」
「ぁ……きゅん」
「???」
ソーラは背伸びしてシルベ君の頭を撫でる、シルベ君が発情したのは知る由もない。
TSっていいよね。でも何故かTSは現実世界に登場しないんだよ。一時期男友達のバナナをアワビにしてバター垂らしたいなって思って呪術に手を出したんだけど何故かTSしなかったんだ。
意味不明すぎて友達に突っかかったよ。なんでお前TSしてないの?頭おかしいんじゃねえのか?ってさ。そしたら無言で精神病院のリンクを貼られたんだ。これはもしかして精神科医に弟子入りして催眠術を学べという意味かな。
こんな……悪口のネタ切れたな。その、読んでくれてありがとうございます。
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