第八話 『一本目、決着』
——オレンジの太陽が照らす中、リオンの持つ黒い剣はヨルナの左腕を切り裂いた。
円形の闘技場の中で観客席にいるレイとリル。二人の男女が見守る中、リオンとヨルナの一戦目は白熱を極めていた。
「ちっ——!!」
斬られた左腕をその場に捨てて、舌打ちを溢し後ろにステップして距離を取るヨルナ。
すぐさま残った右手で、再び腰についたホルスターから純白の拳銃を取り出した。
後ろに引きつつも引き金を引き、拳銃から弾が火花を散らし銃口から飛び出る。
玉は上手くリオンの足元付近に当たり、彼の追撃の牽制をしていた。
整った顔立で険しい表情をして、一度舌打ちを溢すリオン。そして足元を確認して地面にある弾の跡を見る。
ピストルの弾が足元に六つ、地面に跡があった事を確認すると、リオンは右手に持つ剣を構えてヨルナの方へと走り出す。
「——あのピストルが打てる弾数は最高六回だと考えるのが妥当。さっきの状況、普通なら焦って全ての弾を出し切るはずだ……!」
リオンは小さくつぶやき、数メートル先にいるヨルナの元へと全力で走る。
リアルワールドの彼とは違い、常人では追いつくことなどできないくらいのスピードで風と一体になる。
剣のない状況に少々不服を覚えつつも、目の前に迫る殺気溢れた男へと拳銃を構えるヨルナ。
自分の目の前を猛スピードで走り去るリオンを見て、観客席にいたリルは、隣にいるレイに対して一つの不安を吐き出す。
「あ、あんなスピードで迫って大丈夫なんですか?! またさっきみたいにスキルを撃たれたら……」
レイの方を見て質問を飛ばすリル。レイは険しい表情を崩し、走るリオンから目線を逸らさずリルの質問に答えた。
「いや、その点は大丈夫なんだ。恐らくまだクールタイムが終わっていない、リオンは今がチャンスと踏んで攻め込んでいるんだ」
レイは静かにリルに返した。
どんな状況でも落ち着いて静かに試合を観戦するレイを見て、自分も見習うべきだと感じ一度瞳を閉じるリル。そして再び目を開けた瞬間。
既にリオンはヨルナの目の前まで迫っていた。
走る事をやめず、自分へと向かってくるリオンに対してヨルナは威嚇するように眉間に向かって拳銃を構える。
だがそんなことももろともせず、剣をヨルナの胴体に向けて剣先を向けるリオン。
「もらった——!!」
リオンの口から小さくこぼれた。
黒き剣が太陽の光を浴びながら、青い戦闘服に突き刺さろうとした瞬間。
大きな金属音が鳴った。
緑の小さく丸い盾のようなものが、リオンの剣からヨルナの胴体を守っていたのだ。
今にも壊れそうなほどに薄っぺらいその緑の縦を見て、リオンの口から小さく言葉が溢れた。
「——シールドッ!」
盾による急激な行動の停止により、ヨルナにそのまま飛びつく形になるリオン。
だが、リオンの眉間に拳銃を当ててその場に立ちどまらせた。
赤い髪を舞わせて、青く鋭い眼光でリオンを見つめるヨルナ。
「弾切れ……と思うでしょう。残念、この銃は八発入りです」
低い目線ながらも、力強い表情でリオンに対してそう呟くヨルナ。
「計算通りってか、生意気な奴——」
自分を力強い表情で見つめるヨルナに向かって、笑顔を見せて返答するリオンだったが。
彼の発言を最後まで聞く事なく、赤髪の少年はゆっくりと拳銃の引き金を引いた。
——闘技場には大きくもはかない銃声が、空へと溶ける響いていた。
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リオンの体は仰向けで地面に倒れ込んだ。
前髪で瞳が隠れ、撃たれた眉間の部分も見えなくなっていた。
そして倒れるリオンの数メートル後ろには、剣を持ったヨルナの左腕が転がっていた。
切り裂かれた部分から黄色の粒が溢れ出ていた。
『一本目、勝者ヨルナ。ゲームを二本目へと移行します』
機械の声がどこからともなく、闘技場の隅々まで響き渡る。
するとヨルナの腕が突如と消えて光るの粒になる。そして握っていた手が消えて、地面に転がる自分の剣の元へとヨルナは歩いてゆく。
ゆっくりと歩く彼の周りには、空から光の粒が舞い降りてくる。
光の粒達はヨルナの左腕に集まり、少しずつゆっくりと腕の形を生成してゆく。
ヨルナが自分の剣の元へたどり着くときには、既に彼の左腕は元通りになっていた。
右手に持つ純白の拳銃を再び、腰につけるホルスターへとしまう。
腰を折り、地面に転がる己の剣を左手で掴む。
そして腰を元に戻し、振り向き未だに地面に転がるリオンに対して話しかける。
「次勝ったら僕の勝利。あなたは確かにいい人です、あなたなら僕を裏切らないかもしれない……でも、だからと言って手は抜きません。ここで手を抜いて甘える僕なんて、あなたも欲しくないでしょう」
倒れ込むリオンの左半身も、ヨルナと同じように元通りになっていた。
前髪で目が隠れるリオン。無表情で倒れ込む彼だったが、ヨルナの言葉を聞き笑顔を見せる。
右手に持つ剣をもう一度強く握りしめ、その場に立ち上がる。
「——いいじゃねぇかお前。こっからは、俺も本気で行かせてもらうぜ」
ヨルナの方を向き、彼の言葉に答えるリオン。
紅く光る瞳と、青く透き通るような瞳が睨み合う。
闘技場にはもう緊張感などはなく、ただ二人の勝利を求める貪欲な熱意だけが、ぶつかり合っていた。
こんばんは!
ここまで読んでいただいて感謝します!
明日忙しいのでもしかしたら投稿が遅れる、もしくはできない可能性があるので事前に報告しておきます。
次回もしくはその次の回あたりで、一度話も落ち着くと思います!よければ感想など評価などぜひぜひお願い致します!