第七話 『自分勝手』
——土煙が晴れ、ようやくその姿を現した。
先程のヨルナの遠距離スキルにより、自分の胴体の左半分を持っていかれたリオン。
強がった笑顔を見せるも、ぶつかった衝撃で少々へっこんだ壁に持たれたまま、立ち上がるそぶりを見せない。
瓦礫が散らかる地面に左手をつき、右手は吹き飛んだ胴体に触れていた。
LSOでは、ダメージを受けて損傷した場所から黄色の小さなチリが出てくる仕様になっている。
これは血の演出は控えた方が良いと考えた、製作者側の配慮である。
リオンは数センチ先で、剣も構えず余裕を見せて自分を見下ろすヨルナを見つめた。
「わかったでしょう、僕はこう見えても中々の有名プレイヤー。誘ってもらえたのはありがたいですけど、俺とやってても恐らくあなた達は楽しめないですよ……」
自分に視線を送るリオンから目を逸らし、下を向いて語りかけるヨルナ。
ただただ虚しく土に向かって喋る彼の背中には、悲しいみや苦しみ、様々な思いが募っていた。
だがそんな俯く彼を見て、リオンは左手をついてゆっくり立ち上がった。
そして力強い表情と言葉で、目の前に立ち尽くすヨルナに話しかけた。
「何度も何度も言わせんな、俺はお前を仲間にするって決めたんだよ」
リオンが立ち上がったことに気づき、ヨルナは視線を下から元の位置に戻した。
半身から黄色の粒を飛ばしながらも、右手で背中に背負う剣の柄を掴み、戦闘態勢をとりはじめるリオン。
「それにさ、お前だって本当は仲間が欲しいんだろ? 強くて自分と渡り合える、支え合う仲間がさ」
腰を低くし、ヨルナに自身の答えを問いかける。
そんなリオンの答えに、ヨルナは強く右拳を握り煮えたぎるような怒りを燃やしていた。
そしてその拳を話し、大きく右に振った。その表情に現れるのは心の奥底でずっと眠っていた自分の本当の気持ちである。
「あんたに何がわかんだよ! たった一回じゃない! 僕は何度も仲間達に嫌われた、何度も何度も裏切られたんだ!」
いつもの静かで落ち着きのある彼とは違い、大きく声を荒げ叫ぶヨルナ。
小さな頃からの幼なじみであるリルには、いつもの優しい彼との違いぶりに、思わず体を震わせ顔色を悪くする。
歯を食いしばり、今までの思い出が脳裏に過ぎるヨルナ。
食いしばっていた歯を元に戻し、先程までとは違い、声を荒げず落ち着いた様子でヨルナは目線をリオンへと向けた。
「僕は……僕なりに楽しんでるんだ。自分の実力を惜しみなく発揮して、みんなの為に頑張り、そして自分も楽しむ。ただそれだけなのに、みんな俺を除け者にする」
ヨルナはリオンに対して強く主張する。そんな赤髪の少年に映る青い瞳は、いつもとは違い力強く荒々しい瞳をしていた。
両手の拳を強く握り、軽率に自分の神経を逆撫でした目の前のリオンを見た。
黒髪を風になびかせ、柄を持ち戦闘態勢を取ったまま静かに話を聞いていた。
「もういいんですよ、俺は。これ以上裏切られたくなんてないんです……だからもう……」
リオンから視線をずらし、自分の足元と地面を見つめるヨルナ。
真っ直ぐな瞳で静かに見つめてくるリオンに対して、ヨルナは静かに今にも途切れそうな声で淡々と話を続ける。
だが、
「ごちゃごちゃうっせぇぞ」
ヨルナの会話を遮り、リオンは小さく呟いた。
そして次の瞬間、ヨルナが視線をリオンへと戻した時には既に、リオンは目の前に立っていた。
小さくかがみ、左足でヨルナの両足を流れる様に三日月状に横から蹴った。
「——っ!!」
両足が地面から離れ、軸を失い目の前に倒れ込むヨルナ。
リオンは自分の目の前に倒れ込むヨルナの顔面目掛け、力一杯パワーを込めた左拳で殴った。
「ぐがっ——!!」
リオンの拳はヨルナの顔に直撃。その衝撃でヨルナは後ろへと吹き飛んでいった。
どれだけ力を込めて殴る時も、足を崩す時もリオンの右手は常に背中の剣の柄を掴んだままだった。
殴り飛ばした左手を戻し、柄から手を離しその場に立つリオン。
ヨルナは地面に何度もぶつかり転がりつつも、うまく態勢を立て直し、右手で地面を擦りながら壁すれすれのところで何とか止まった。
ヨルナが何とかその場に留まったことを確認すると、リオンは右手の人差し指を目の前の赤髪の少年に向けて大きな声で話を始めた。
「もう決闘は始まってんだ、勝てばいい話だ。くだらねぇことグダグダ話しやがって、俺はお前仲間にするって決めたんだ! とっとと負けて俺の仲間になりやがれ、このばかあほばかあほ!」
リオンのまるで小学生のような、わがままじみた発言に少々引きつつ、観客席にいるリルは隣のレイに呟いた。
「な、なんかすごい無茶苦茶ですね……」
引き気味の顔をしながら小さく呟いたリルの発言に思わず笑いを溢してしまうレイ。
突然笑い出すレイの方を向くリル、そこには自分がいまだに見たことない表情で幸せそうに笑うレイがいた。
「あいつは昔っからそうさ、自分勝手でわがままで、無茶苦茶馬鹿なやつなんだ。でも、」
笑顔を顔から消さずにリルに話しかけるレイ。彼の脳裏には夕焼けに映る二人の子供の姿がフラッシュバックしていた。
「何でかなぁ、気がつけばさ。あいつの熱意みたいなもんは、まわりに伝染するんだよ」
レイが話を終えた瞬間、リオンは大きく踏み込みジャンプした。
そして再び右手で剣の柄を持ち、ヨルナの眼前まで迫る。
「それに教えてやるさ、この世には絶対に裏切ったりしない人だっているってことをさ」
空中でヨルナを見下ろしつつ話すリオン。
急に迫ってきたリオンに対して反応が遅れ、左手に持つ剣でのガードが遅れるヨルナ。
反応が遅れた事にしっかりと気づき、リオンはいよいよ右手で持つ剣を鞘から引き抜いた。
太陽の光が差し込む闘技場で、黒く光る黒刀。リオンの真っ黒の剣はヨルナの左腕を綺麗に切断した。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
昨日せっかく書いたのに更新するのついさっきまで忘れておりました……申し訳ない。
明日の分の話ももう準備できておりますので、明日の八時に更新します。よければ感想評価など気軽にお待ちしております!