第六話 『リオン対ヨルナ』
昨日はお休みしてすいません!
第六話どうぞ!
——風が吹く、土煙が巻き上がる。
大きな円形の闘技場、大きさはプロ野球の会場の半分くらいだ。
塀の上には無数に並んだ観客席に座り、戦いを見守る二人がいた。
茶髪に狐の目をしたレイ、ポニーテールで髪を結んで、リアルではレイ達の二つ年下のリル。
天井は大きく開いており、空から光が注いでいる。
そして、闘技場の真ん中に二人は立っていた。
両者砂を踏み、一人は黒の服に身を包み、もう一人は青い戦闘服に身を包んでいた。
ヨルナは自分の腰にある鞘に抑えた剣の柄を握り、リオンは笑顔でラジオ体操をしていた。
「いっちにぃ……っと」
リオンが屈伸をする目の前で、剣の刃に右の人差し指を置き、自分の剣の切れ味を確認する。
柄が黒く、刃が鈍い光を放つ。
自分の武器をちゃんと確認すると、ヨルナは一度空を見上げ大きく深呼吸をした。
そして目の前にいる男へ剣先を向け、腰を低くし戦闘の体制を取る。
「よしっ」
リオンも四回の屈伸を終えると、一度体制を戻し、背筋を真っ直ぐ伸ばした。
笑顔を消し、自分の背中に背負った鞘から鍔のついてない黒刀の柄を握った。
両者、目の前にいる男へと意識を集中させる。
その様子を見ていた観客席の二人にも、二人の間に走る緊張感は伝わってきていた。
ヨルナに目線を飛ばすリルの横で、レイは一度息を飲むと、小さく口を開いた。
「始まる」
レイが口を開いた次の瞬間、突如闘技場内にコンピューターの声が流れ始めた。
『リオンvsヨルナ、三ゲーム二本先取の試合を始めます。一本目、開始』
機械の音声が話し終えた次の瞬間、先程までの緊張感は突如消えた。
それと同時に、ヨルナは大きく足を踏み込み、大きな音を出してリオンの懐目掛け飛び込んだ。
「——はやっ」
リオンが大きく目を開け気がついたときには、既にヨルナは懐へと潜り込んでいた。
ヨルナは左手に持つ刀でリオンの胸元を切り裂こうとするものの、間一髪。リオンは後ろにステップする事で攻撃を回避した。
完全に避け切ることは出来ず多少の擦り傷でなんとか抑えた。
リオンが擦り傷を受けた胸元は、服がはだけ傷がついた箇所から黄色の粒のような物が漏れていた。
柄を持つ右手とは逆の手で、傷の受けた場所を触り確認するリオン。
「クイックか……ダメージ的には雀の涙ほどってところか……」
黒髪の間から覗き込む赤い目で自分の胸元を覗き込む、傷は横につけられていた。
リオンは数秒で先程の行動を全てを行い終えると、再び戦闘体制をとり、目の前で剣を構えるヨルナと睨み合う。
「あの、思ったんですけど」
その声は戦闘をしていたリオン達より遠く、高いところから聞こえてきた。
ポニーテールを揺らしながら、リルは愛らしい瞳でレイに何かを尋ねていた。
「私がやってたゲームとかでは、自分のHPとかがどこかに表示されてたんですけど、LSOでは表示されないんですか?」
自分の左隣から質問を飛ばしてくるレイは、腕を組み、目の前の二人の戦闘から目を離さずに彼女の質問に答えた。
「LSOではHPは表示されないよ、やってるうちに感覚でわかってくるよ。HPが見えないってのも中々スリルがあってこれが面白いのさ」
レイは試合を見ていた険しい表情を崩し、口元を緩め笑顔を見せた。
だがその笑顔は、いつも自分が見ていた優しい笑顔ではなく。どこか恐ろしく、リルはレイに初めて恐怖を感じていた。
そして一方で、リオンはヨルナと見合いながら後ろへ一歩、また一歩と少しずつ距離を離していた。
しかし、そんな事をさせまいと、ヨルナは再び大きく踏み込むと。
リオンの懐へと潜り込んでていた。
先程のクイックと違い、距離を詰めれている。これならいける。
「——次こそは、もらった」
ヨルナがそう呟き、剣を振った瞬間。
リオンは自分を支える右足を使い、剣を持つヨルナの手首を思いっきり蹴りあげた。
「いって……!」
思わず声をこぼし、剣から手を離してしまうヨルナ。彼の持っていた剣は宙を待っていた。
リオンは背中から倒れ地面と衝突しそうになるも、左足を使って大きく飛び上がり、空中で一回転して両足で着地した。
リオンが着地したと同時に、ヨルナが持っていた剣も彼の二メートル程遠くの土にうまく刺さっていた。
ヨルナは自分の剣が刺さった場所を一度振り返り、確認する。
たかが二メートルだがされど二メートル。手ぶらで拾いに行くには好きが多すぎる。
一度舌打ちをこぼすと、再び前を振り向いた。
するとそこには、柄を持ったまま自分の元へ走り込んでくるリオンの姿があった。
「チャンスはちゃんとものにしてこそ、チャンスだ」
腰を低くし、小さく呟きつつ向かい風の中を走るリオン。
剣の間合いが届く範囲まで来ると、いよいよ鞘から剣を抜き斬りかかろうとする。
だがリオンが斬りかかるよりも前に、既にヨルナは自分の腰にかかったもう一つの武器をホルスターから取り出した。
緑の模様が所々に入った白い拳銃を左手に持ち、走りかかってくるリオンへと照準を合わせた。
「ベクトルバイパー!」
ヨルナがそう叫んだ瞬間、銃口から緑色のエフェクトを纏ったエネルギーが飛び出した。
あまりのパワーに、自分も吹き飛ばされぬようにと強く地面に踏み込み自分を支えた。
「やべっ、まずっ——」
リオンは自慢の反射神経で何とかエネルギー砲を回避しようと試みるが、時すでに遅くリオンの左半身に直撃した。
その衝撃により、リオンの体は後ろに吹き飛び、地面と衝突しつつ、先程までリオンが背中を向けていた壁と激突した。
ヨルナの銃口からエネルギー砲は止まり、銃口から煙が上がる。
そして再びホルスターに拳銃をしまい、敵から視線を逸さぬままバックステップで自分の剣の元まで向かった。
「なっ、何なんですか!? 今のベク……何とかって」
静かに戦う二人を横目に、一人観客席で大いに叫ぶリル。
目を大きく開き、ヨルナの方へ指を刺した先程の謎のエネルギー砲についてレイに質問していた。
レイは、リオンのダメージに少々の不安を感じながら、口元を右手で押さえて再び彼女の質問に答えた。
「ベクトルバスター。このゲームの目玉でもある、無数にあるスキルのうちの一つさ」
リルは大きく目と口を開き、驚いた表情のままレイを見つめていた。
だがレイは一向にリルの方へ振り向くことはせず、リオンが壁と衝突した場所から出る土煙から一瞬たりとも目を離さない。
「何すか、口のわりにたいした事ないっすね。先輩」
剣を左手に持ちつつ、構える事もせずに歩きながら挑発するヨルナ。
そしてリオンがぶつかった壁の手前まで近づくと、足を止め見下げた表情をしながら彼の返答を待つ。
「へっ、その減らず口黙らしてやるよ……」
土煙の中から、負けじと相手を挑発するリオン。
だが徐々に土煙が晴れていき、その姿が現れた。
左半身が少々吹き飛び、無様にも壁に持たれ、瓦礫の周りに座り込むリオンの姿だった。
ついに初の戦闘っす……
予定では三話とかでこの辺りのはずだったのに、予定よりもシーンを多くしてしまうのは、僕の悪い癖。
恐らく分かった人が少ない右京さんネタもここらにして。第七話は明日更新予定です!よろしくどうぞ!