第四話 『休息そして』
こんばんは〜、最近やたらと人と会う機会が多くてコミュ障には辛いです。
続きは後書きで!第四話どうぞ!
——カーテンから微かに入ってくる月の光。小さく開いた窓から風が流れ込んできていた。
一般的にも大きいとは言い難いその小さな部屋。壁にはドアらしきものが一つもない、そんな部屋の中に悠斗はいた。
電気もつけずベッドに転がり、ただただ自分の手に持つスマホを眺めていた。
そのスマホに映るのは、剣を持った白いマントをきた集団と黒服に黄色の横線が入った服を着た集団が戦う映像だった。
黒服の集団の中の一人の男が、白い集団に襲いかかる。一本の剣を器用に両手に持ち替えながら、白服の集団を一人ずつ確実に致命傷を与え倒してゆく。
フードを深く被り、スマホを二度タップして何度もそのシーン見返す悠斗。
どんな思いがあって見ているのか、喜怒哀楽が豊かないつもの悠斗とは違い無表情で淡々とそのシーンを見返しいる。
すると、床の下から大きな声で自分の名前を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。
「ゆうとくーん! ご飯だよー!」
その声を聞き、細くしていた目をぱっちりと大きく開けて悠斗はベッドから起き上がった。
「今行きます!」
先程の自分を呼ぶ声に返事をして、悠斗はベッドから降りてスリッパを吐き、自分の床にある小さなドアを開けた。
ドアを開けた先には、木製の梯子があった。悠斗はゆっくりとその梯子を降りてゆく。
落ちしまわぬように、油断せずしっかりと梯子を手で握りしめ着実に一段ずつ降りてゆく。
最後の一段までくると、飛び降り、キシキシと音を立てる床に着地した。
「着地せーこう」
誰にも聞こえぬよう、茶色の床を見て悠斗は小さく呟いた。
そして顔を上げ、大きなテーブルに並ぶ選り取り見取りの食材達を見つめた。
中でも一番目についたのは自分の大好物であるハンバーグ。本日のハンバーグも出来が良さそうだと心の中でそう呟いた。
そんなことを思いながら、笑顔を見せつつ悠斗は自分の席に座った。
「ゆうとくんさっきまで偉い静かにしとったけど、勉強でもしてたん?」
そう話しかけてきたのは、悠斗の前に座るショートヘアの女性だった。
長袖のTシャツをきて、美しい金色の髪をした女性。さらに整った顔立ち、まさしく美人と言える人物である。
そんな女性が、目の前の椅子に座る悠斗に話しかけてきていたのだ。
「もちろんですよ凛姉さん! 俺こう見えても頭いいんですから」
早乙女凛子、それが彼女の名前である。悠斗の従姉妹にあたる人物で、整った顔立ちと高い学歴を持っている。
悠斗は右手の親指を自分の胸に押し当てつつ、堂々と嘘をつきながら椅子に座った。
嘘をついている人とは思えない程のドヤ顔っぷりである。
だが、普段の悠斗を知っている凛子からすればバレバレの嘘である。
凛子は左手をテーブルにつき、自分の顔を左手に載せて全てを見透かした笑顔で悠斗の方を見た。
「まーた、嘘ばっかり」
「ぎくっ……」
簡単にバレた嘘に悠斗は動揺を隠せず、額から頬へと一滴の汗が流れた。
そして顔から笑顔が消え、両手を膝について背筋を伸ばして自分を見つめる凛子から視線を逸らした。
凛子は目を閉じ、呆れ混じりに「やっぱり」と小さく呟いた。
すると、両手にヨダレが垂れる程に美味しそうな食材を乗せた皿を持った女性が、台所から出てきた。
「ダメだよゆうとくん。学生なんだからちゃんと勉強もしなさいよ」
話しかけてきた女性の髪の毛は、凛子と同じ金色をしており、モデルのような体型をしたエプロンを着た女性だった。
女性の名前は、早乙女美津子。凛子の実の母親であり、かつてありとあらゆる人気作に出演していた人気女優である。
その美しすぎる風貌から、人気モデルとしても活躍していた事も納得がいく。
早乙女家の三女達にもその血が濃く受け継がれ、一番年上の長女凛子を始め、彼女達の美貌はありとあらゆる男性達を虜にしたと巷で有名である。
そんな彼女達の母親である美津子は、両手に持つ本日の食事をゆっくりとテーブルに置き、自分も凛子の隣の椅子にそっと座った。
長い髪の毛を束ねていたヘアゴムをそっと外し、解放させる。その一つ一つの動作に悠斗もつい見惚れてしまいそうになる程。
「今日千代と飛鳥は?」
自分の隣に座る母親の方を見て、晩ご飯の席にいない自分の妹達について尋ねる凛子。
やはりこう見みると、凛子と美津子のことが姉妹に見えてしまう。悠斗は二人の女性を見ながら考えていた。
美津子は凛子の質問に対して一度ため息を溢すと、自分の娘達の事情を丁寧に話始めた。
「千代は大学の友達と食事、飛鳥はソフトボールの練習試合だから今日は遅れるって昨日話してたでしょ」
「あっ、そうだっけ?」
美津子が呆れ混じりにそういうと、凛子は右手を自分の頭の後ろに持ってきてニッコリ笑い笑顔を見せた。
この家の夕飯はいつも明るくて楽しい、悠斗は未だにこの家に馴染めずにいたままだったが、早乙女家の家族達を見ていると微笑むことが少なくない。
「いい家族だなぁ…」
悠斗は聞こえぬようにそっと呟くと、テーブルに置いてある箸を取った。
「いただきまーす!」
先程の発言とは打って変わり、大きな声で本日の夕食を作ってくれた美津子へと感謝を言いながら食事に手をつけ始めた。
いつも通り無邪気にご飯を食べる悠斗を見て、凛子と美津子は一度目を合わせると、同時に笑顔を溢した。
そして自分達も両手を合わせ、「いただきます」と呟き目の前の料理に手をつけ始めた。
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——部屋の時計は午後八時を指していた。
心地よい夜風に当てられながら、ベッドに座り、悠斗は空に浮かぶ満月を見つめた。
相変わらず部屋は暗いまま、部屋の中はキチンと掃除されており、ベッドの横に置かれている小さなテーブルには黒て丸い物体が置かれていた。
悠斗は満月から視線を逸らし、テーブルに置いてある黒い物体を手に持った。
これこそが新世代の完全没入型VRギア、通称『Diver』。悠斗が持っているのは黒色である。
夜の風に髪が靡く、悠斗は自分のDiverを数秒間見つめた。
ゆっくりとベッドに寝転び、Diverを自分の頭に装着させる。そして頭の右側にある三つのボタンのうち、一番上の緑のボタンを押した。
瞬間、悠斗は眠るように瞳を閉じた。
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——風が吹く。
先程までの肌寒いような夜風とはまた違い、これはまるで、昼間のような暖かい風だった。
空は青く澄み渡っており、流れる雲達がいた。空をかける翼を生やしたライオンのような生物達。
さらに地上からでも視認できるほどの近くにある見知らぬ星々達。
こここそが、LSO。『Life Sword Online』の舞台である。
どこまでも続く広大な緑の大地。その大地を見渡せるほどの大きな白い展望台の屋根で彼は座りながら目覚めた。
黒い髪に赤い瞳、現実世界とも全く変わらないその見た目。だが、衣装だけは現実の彼とは大きくかけ離れていた。
長袖に赤い線が所々に入った真っ黒の戦闘服、さらにその上に黒いフードの付いた服を悠斗はきていた。
そして立ち上がり、黒いズボンを両手で何度か叩いた。
黒いフードを頭に深く被り、悠斗。この世界の名でリオンは、小さくつぶやいた。
「行くか……」
そう言い放つと、リオンは展望台の屋根から走り出し、大きくジャンプし飛び降りた。
風の抵抗を受けフードは頭から外れ、ボサボサになる黒髪。止まることを知らず地面に落下してゆくリオン。
だがそんな彼の顔は、何故か少年のような純粋な笑顔だった。
ここまで読んでいただき感謝です!
つい先日少しばかり従姉妹と出会う機会がありまして、本作に登場する人物達のモデルにしました!
まぁ実際の僕はコミュ障なので、話しかけられても全く話せないんですけどね……ごめんなさい従姉妹