第三話 レクイエム
レクイエム
「・・・ただいま」
「おかえり」
そう言いながら、結奈が僕に抱きついてきた。結奈が震えているのがわかったので、抱きしめる。祖父母はお互いに既に他界しているので、僕たちは抱きしめている存在を除いて天涯孤独の身になった。僕はこの手の中の温もりを、絶対守ってみせると決意した。だが、この決意は簡単に打ち破られることになった。
11歳のときの、5月17日結奈が死んだ。買い物に出かけているときに、横転した車が突っ込んできたことにより、結奈が死んだ。最期に、浮かべた泣いているような笑顔を僕はきっと忘れることはないだろう。神も、仏も救いの糸なんて垂らしてはくれないんだ、神が、張りめぐらせた毒蜘蛛の糸が存在しているだけだ。もはや、神様に対する怒りも恨みもおこらなかった。僕はまたしても生き残ってしまった。このときにかろうじて残っていた結奈という、生きる意味というものが、完全に消失してしまった。残ったのは、ただ虚ろな人形だけだった。一応遠い親戚に引き取られたが、他人を一切寄せ付けないような僕に呆れたのか、それとも邪魔であったのか、アパートの一室をあてがうと、生活費を渡すこと以外に関わることはなくなった。
惰性のまま生きるうちにいつのまにか、一年半が経過しており、僕は12歳になっていた。
その日は、冷蔵庫内に何も入っていないことを確認すると、見事に何も残っていなかったため、近所に買い物に行くことにしました。その道すがら、数年前に見かけた男、母さんを殺した通り魔が僕に向かって走ってきているのが見えた。脱獄でもしてきたのか。そう考えていると、腹に大きな衝撃を受けたような感じがしました。見れば、腹にナイフが刺さっていた。
「はははっ、ざまあみ・・グアッ」
僕は腹に刺さったナイフを引き抜くと、通り魔の首を切り裂いた。通り魔は、首から血を吹き出しながら、倒れた。漸く終われるのか。地面が赤く染まっていくのを見ながら、口角をわずかに上げた。くそったれな神様、運命様、諸共地獄に堕ちやがれ。僕は心の中でそう悪態をついた。遠くから、サイレンが聞こえてくる。やがて、意識は黒に侵食された。