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それはまだ...です!!

 震えるメリーの背に触っただけでも崩れてしまいそうな程に、メリーの精神状態は危なく見えた。

 これ以上の何かがあれば、メリーはもう耐えられないだろう......だけど。


 私は何となく察していた。

 ミーニャがいかにもやりそうなことを簡単には想像できてしまった。


 「メリー、私は次の階に行くよ」


 もし、その想像が正しいなら、私はメリーをこれ以上先に連れていくことは出来ない。

 メリーの返事も聞かずに、光り出した魔方陣に向かい歩きだす。


 「......マナちゃん」


 今にも消えてしまいそうな弱々しい声。それを聞いて振り返りそうになる心を必死に押し殺し、歩みを進める。


 しかし、私の足はそこで急に止まった。


 「メリー......どうして」


 身体の違和感からメリーの『魅了』の能力のせいだとすぐに理解した。

 振り返る事が出来ないまま、後ろにあるメリーの気配を感じる。ゆっくりと、歩いてきているのが分かる。

 まだ、私が治してない傷から、ポタポタと血を垂らし、足を引きずりながら近付いて来ている。


 「メリー。そんな傷で何をするの? 私が―――」

 「......これは......わたしが終わらせる」


 そんな言葉を放ち、私の横を通り過ぎる。

 そして、その先には―――


 「メリー!! 戻ってきて!!」


 呼び掛けにも答えず、毒沼の足場に倒れそうになりながら、ふらふらと歩いていくメリー。

 そして、魔方陣の元へとその足がつく。


 メリーが魔方陣の光りに包まれる中で、ゆっくりと振り返る。そして、無理矢理作った笑みを浮かべて言った......


 「マナちゃん―――じゃあね」


 メリーは光と共に消えた。


 私は、この状態で何も出来ないことに怒っていた。情けない自分自身に怒りをぶつけていた。

 言うことを聞かない身体に、メリーを行かせてしまったことに、そしてメリーに待っている次の敵に。


 そして、何も出来ないまま1分が過ぎた―――同時にメリーの『魅了』が無くなった。


 『魅了』の能力が解けた瞬間に私は考えてしまった。メリーが―――死んだと。


 そんな考えを頭から忘れるように今までに出したことのない全力で、まだ淡く光っている魔方陣へと立つ。


 「早く、早く!!」


 魔方陣の光がだんだんと強くなる。

 そして、光に包まれた瞬間。景色は一変する。


 私の予想どうりの光景(・・・・・・・・)に自分でも分かるぐらいに顔を歪める。

 私の視界に映ったのは、10メートルはあるかと思われる巨大な二つの首を持つ蛇と、壁にぐったりと横たわったメリーの姿。


 毒によってなのか、痛々しいぐらいに腫れあがったメリーの半身が見えた。目を反らしたくなるぐらいの酷い状態。

 すぐにでもメリーの状態を確認したかったが、二つ首の蛇がそうはさせてくれなかった。


 その大きな口に紫の魔方陣が展開され、そこから25メートル程の毒の塊が吐き出される。

 逃げ場のない程の範囲攻撃。しかも私が避ければ、その毒はメリーを呑み込んで融かすだろうという位置。


 あせる気持ちを抑え、私はいつものように手を突き出し能力を発動させる。毒の塊が手に触れた瞬間。元から無かったように消える。

 

 その現象に、二つ首の蛇は驚いたのか一瞬だけ固まる。その隙を見て私はメリーの元へ駆けつける。

 すぐにメリーの肌に手を触れる。毒によって歪に膨みパンパンになった肌。


 私はダメージと、毒を能力で消した。

 メリーの体は先程までが嘘のように元に戻り、その黄金の瞳が開かれる。

 だけど、その瞳には光が宿っていなかった。虚ろに二つ首の蛇を見てメリーが小さく呟く。


 「......お父さん......お母さん」


 すがるように手を伸ばし、何かを掴もうと必死に何もない虚空を握る。


 「やっぱり、アレ(・・)はメリーの両親なんだね」


 二つ首の蛇。

 ミーニャがメリーの両親を変えた姿。


 メリーの家族が同じように敵として出で来るのは、何となく分かっていた。

 だけど......この残酷すぎる運命に、私は目をそらしたかった。


 「......こんなの見てられない」


 だから私は走った。

 今から私がする事が例え間違いだったとしても、この残酷な現実よりはメリーを楽にさせることが出来るだろう。


 超質量の毒の塊を能力で消しながら、私は一直線に突き進む。

 

 「例え......私が悪になっても」


 また一歩踏み出す。

 二つ首の蛇の攻撃は更に激しくなるが、私はその全てを能力で消していく。


 「例え......私が他人の思い出全てを消しても」


 一歩踏み出し、辿り着く。

 そして、私の手がメリーの両親に触れる。


 「―――私が全ての罪を背負うから」


 能力......発動



 二つ首の蛇は、元から存在しないもの(・・・・・・・・・・)となった。

 メリーが、両親と過ごした時間も、そこで生まれた大切な思い出も、笑いあった時間も、全て。


 メリーの両親は存在しなかった。


 それが、全ての結果で、ラスボス(わたし)が能力で背負う罪。

 続くはずだった悲しみの連載は、元から存在しなかった。


 「マナちゃん。やったね!! これでクリアだよ!!」


満面の笑みを浮かべて嬉しそうに飛び付いてくるメリーを私はどんな顔で受け入れたのか......自分でも分からなかった。

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