ダンジョンで...です!!
しばらくの沈黙。なにも見えない闇の中、微かに声が聞こえた。
『......たすけて』
気のせいだったかも知れない程に小さく、か細い声。
そして、小さな光が現れた。
段々と大きくなる光に、私は飛び込んだ。
見た世界は、〝異常〟の一言で表せる。
全てが灰色に染まった世界。壁も空も、人間でさえも......私以外の全てが灰色だった。
石化した人間達。考えなくても分かる原因。
このダンジョンのモンスターの仕業だと―――
「これは、厄介だ」
今までに挑んできたであろう冒険者の石像。だが、どの冒険者にも違和感が存在していた。
それは......どの冒険者も、武器を構えたり、攻撃体制になっていたりしないことだ。
......そんな事か、と思うだろうか?
私の考えだと、これはかなり危険な相手だと思う。
可能性の1つ目は、武器を抜く暇もないほど早いスピードで石にされたこと。これは、私にとっては問題ではない......だけど二つ目。
何らかの能力により、動く事が出来なかった場合だ。
その能力は、私にも通じる攻撃であるからこそ、厄介だ。
対策を考えながら、周囲に注意していると、不意に声が聞こえた。
「やめろ......もう、やめてくれ」
「ダーメ。ちゃんとわたしを見て?」
「や、やめっ―――」
パキッと乾いた音が木霊した。
「ざーんねん。この子もダメだった」
そう言った少女は、その石を不満げにペチッと叩いた。叩いた場所がボロボロと崩れ落ちる。
「あ~あ、何で誰も......」
不満げな顔をした少女がまたペチッと叩こうとしたところで私は止めた。
「そこまでだ!!」
「ふぇ!?」
予想とは違った可愛らしい声が帰って来た。
だが、そんな事で止まるわけにはいかない。足に力を溜めて、一気に爆発させる。
それだけで簡単に少女の元に―――たどり着けない!?
「ここに女の子が来てくれるなんて、びっくりしちゃった。こんなの始めて」
嬉しそうに目を輝かせた少女が、優雅に近付いてくる。
それなのに私の体は動かない。石化対策の為に、相手とは目を合わせていないが、なぜか動かない。
そして、少女が目の前に来たところでピタリと止まる。なぜか顔を絶望に染めて......
「君も、わたしを見てくれないの?」
「ぐっ......」
ゆっくりとその手が私の頬を撫でる。
強制的に目を開かされ、その少女の姿が私の瞳に写る。
灰色の世界に映える、紫とピンクのグラデーションのかかった長い髪。人形のような白磁の肌。整いすぎている顔立ち。恐ろしい程の美人。
そして私の姿を写す、黄金の瞳。その目の瞳孔は爬虫類のそれだった。
「わたしを...見て」
身体のどこかで、乾いた音が響いた。頭に過ったのは、ファンタジー世界の怪物『メデューサ』。
その目に写ったものを石に変えてしまうという化け物。
乾いた音が響いた......
視線だけを下に落とすと、腕が風景に同化していた。
「......よし」
石化の呪いが手に触れた。
能力発動!!
その瞬間、止まる事の無かった音はピタリと止み、身体の色が戻ってくる。
「え...うそ...」
黄金の瞳が大きく見開かれる。信じられないと言うように、その長い睫毛をパチパチと動かす。
これで私に、石化は効かない。
後は、動けなくなる厄介な能力だけ......
「こんなの......始めて!!」
「わぷっ」
―――なぜだろう。何でこの子は抱きついてきた?
良く分からなすぎて、「わぷっ」とか変な声出しちゃったし。
なぜか猫みたいに抱き着かれたままスリスリされてるし......
「ねぇ、君は何て名前? あっ、わたしはね~メリーって言うの。よろしくね」
「え~と......え?」
「ねぇ、名前教えて? ......ダメ?」
首をカタンと傾げて、上目遣い。さらにさっき嬉し過ぎたのか涙が目から溢れそうになっている。
ヤバい何この生き物。お持ち帰りしたい!! ......じゃなくて、この子は一体何なの?
こんなに近いのに攻撃をしてこないし、それどころか、話かけてくる。
これが本当に、ダンジョンの怪物?
理解が追い付かない。どう考えてもおかしい、ん? いや、待てよ.......
「ねぇ......教えてよ」
考え込んでいて答えなかった私に、メリーは頬をプクッと膨らませて目に涙を溜めていた。せっかくの美人さんが台無しに......
「あっ、ごめんごめん。私はマナ。よろしくね」
私がそう言うと、メリーはパーッと顔を輝かせて頷いた。
「よろしくね、マナちゃん」




