踏み出す一歩です!!
「みんな、私がいない間は頼んだよ」
「は~い、マナ様~」
「ウォォォォ、任されたぞ主よ!!」
二人の見送りを受けて、私は目的地『キーベルグ』へと向かい歩き出す。
ローエンがいない今、移動手段は限られている。
ラスボスの脚力で走れば二時間もかからずに着くだろう、だけどそれをすると目立つし、環境的に良くない。一歩踏み出すだけで地面が抉れて、大規模な地震が起こるとか嫌だし......かといって、通常の移動手段だと遅すぎる。
だから私は、違う方法を取る。
城を出てから、何もない広大な広場へと向かい。そこでその方法を試す。
「スペル『突風』」
その魔法を唱えた瞬間、私の真下から風が発生する。フワリと服を揺らし、段々と威力が強くなっていく。
遂には、風を受けた私の体が宙に浮いた。
「おぉ~」
まともに魔法を使えた感動と、ちょっとした苦労が甦る。
実は、この『突風』はエリックにこっそり教えて貰ったものだ。と言っても、エリックに教えて貰ったのは発動方法だけで制御の方法は聞いてない。
だから、一番最初に発動した時は、魔法の威力が強すぎて上空一万メートル位からのパラシュート無し、スカイダイビングを味わう事になった。
あれはかなり、精神的にダメージを受けた......いや、そんな事より、体が浮く感覚。つまり、空を飛んでいる感覚に興奮を抑えられない。
誰もが子供時代に考えた、「鳥さんみたいに、お空で飛びたい」という夢を叶えられた。
発生させる風の向きを変えて、空を飛びながら目的地へと進んでいく。
かなりのスピードを出しながら、空に羽ばたく鳥達を追い越す。肌に風を感じながら、自由に飛ぶ。
飛ぶ楽しさに夢中になって遊んでいると、眼下に街が見えてきた。かなり栄えている街のようで、見る限りの建物の高さが『始まりの街』よりも圧倒的に大きい。
「あれが『キーベルグ』か......えっとダンジョンは......」
地上の人からは見えないような高さから、街周辺にあると言われるダンジョンを探す。
見渡してみると、やけに人が多いところがあり、小さ な村のようなものが見えた。
「あそこに、行ってみるかな」
目立たないように、少し離れた場所に降り立ち、その場所へと向かう。
その場所に近付くにつれて、一際大きな塔が姿を現す。奇妙な紋章が描かれた、円柱状の建物が空高く伸び、怪しい光を発している。
「これがダンジョン......」
始めて見るダンジョンに、言い知れぬ不安を覚える。あのギルドマスターが教えたくなかった理由も何となく分かった気もする。
どうやらダンジョンの近くに、武器屋や道具屋などのダンジョンを挑む前の冒険者に必要そうなものを揃えた店が並んでいて、それが空から見たときに村のように見えたのだろう。
さらに近付くと、ダンジョンの入り口で人だかりのようなものが出来ていた。
私は、その中に居た人の良さそうなおじさんに問い掛ける。
「この人だかりは何なの?」
「お嬢ちゃんが、何でこんなところに......まぁただの野次馬さ、命知らずの冒険者を見るために......または、未来の英雄の顔を見るために集まってるのさ」
それを聞いた瞬間、入り口の方から歓声が上がった。
「お、どうやらまた一人。行くみたいだぞ」
おじさんの視線の先を見ると、青色のフルプレテートアーマーの冒険者が右手を強く上に掲げて叫んでいた。
「あの人は?」
「ランクA冒険者のスレイヤだ。ここらじゃ知らない奴は居ないぞ、ドラゴン討伐の経験がある凄腕の冒険者だ......これは、このダンジョンも攻略かな」
「そうかな?」
「......ガハハハ、お嬢ちゃんには、まだ分からないか」
確かに、あの冒険者は人間の中では強いのだろう。
最強種と呼ばれるドラゴンの討伐は簡単に出来るものじゃない。だけど、何とも言えない嫌な感覚が体にまとわりついている。
あそこは危険だと......
「おじさん、ありがと」
Aランク冒険者は、それほど多く居ない。だからこそ、見捨てる訳にはいかない。
私は、ダンジョンの入り口に向かって一歩踏み出した。
「お嬢ちゃん、どこ行くんだ?」
「ちょっと、人助けに」
迷いや不安を振り切り、もう一歩踏み出す。
人混みを抜け、ダンジョンの入り口へと到達する。三メートル以上はある大きな入り口。全てを飲み込むような先の見えない闇がそこからは見えた。
「お嬢ちゃん!! 帰ってこい!!」
おじさんの声と、ざわざわと聞こえる多くの人の声。
私は振り返り、集まっている人の顔を確認する。予想していた通り、人々は私がダンジョンに挑むのを相応しくないといった顔をしている。
だから......私は力を見せ付ける事にした。
『宝物の指輪』から、この世界で一番固いと言われている鉱石アダマンタイトと聖剣エクスカリバーを取り出す。
この岩石級の大きさのアダマンタイトと、淡い光を放ち続けている聖剣エクスカリバーは、勿論ラスボスの城にあったものだ。
2メートル程のアダマンタイトの塊は相当重いらしく、指輪から取り出した瞬間に軽く地面が揺れて、置いた場所が凹んでいた。
そして私は、エクスカリバーをアダマンタイトに力任せに突き刺した。
地震のような振動が伝った後、派手に光の火花を散らして、深々とその刃が入っていき、根元まで入ったところで手を離した。
訳がわからないまま唖然とする人々を確認して、私は言い放つ。
「これは『選定の剣』。私よりも後にダンジョンに入りたかったら、この剣を抜いてからにしてね」
そのまま私は振り返って、ダンジョンへと進んでいく。
あの剣は人間には抜けないだろうと考えての作戦だ。もうこれ以上、ダンジョンで死人を出したくないからこの方法をとった。
それに、もし剣を抜けるほどの力を持っていたなら、私と同等の力を持っているという事だから心配ないだろう。
先程よりも、騒がしくなった広場を背に私は闇の方へと歩き出した。
今回でやっと目標の10万文字を達成しました。
ここまで続けられたのも読者の皆様のお陰です。
ありがとうございました!!
これからも末永くよろしくお願いします。




