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過去との決着です!!

 ギルドマスターは、躊躇ためらっていた。頭の中にかつてのトラウマが蘇る。体を溶かされ、補食された体が疼く。


 魔王は飛び散ったゴミを集め、体を覆い始めている。元の状態に戻るまで、あと一分といったところだろう。


 アイラが、自身を犠牲にしてまで作られた、この最大のチャンスに、ギルドマスターは、答えられずに立っていた。


 「ギルドマスター?」


 アイラが呼び掛けても、反応を見せない。しかし、ギルドマスターの足だけが震えているのをアイラは見ていた。


 スライムの唯一の弱点である核が見えているにも関わらず、動かない。汚染によって濁った魔王の体の体の真ん中に浮かぶ、真っ赤な球体。その、核を壊せば、魔王は倒せる。

 しかし、この魔王はサイズが大き過ぎた。20メートルの巨体の真ん中まで行くとなると、確実に核に着く前に体が溶かされてしまう。


 そんな危険が、ギルドマスターを立ち止まらせていた。


 「ギルドマスター?」


 先程と同じアイラが呼ぶ声。しかし、今度は答えるギルドマスター。まるで、戦争に行く覚悟を決めた兵士ように顔を引き締め、最愛の人物に向けて、言葉を放った。


 「アイラ......僕はこの世界の誰よりも君を愛してる。だから、君は......生きてくれ」


 そんな遺言のような言葉を最後に......ギルドマスターは、過去のトラウマへと立ち向かった。


 駆け出していく背中に、何も答えられず、ただギルドマスターの面影に手を伸ばすアイラ。決して届くことのない、その距離に、アイラはまだ、諦められなかった。


 ボロボロの体で何とか立ち上がり、走って行ってしまった背中を追いかける。


 「ギルドマスター......置いてかないで......私を一人にしないで!!」


 溢れる涙を、苦しむ胸を抑え、とっくに限界を越えたはずの足を動かす。一歩進むごとに激痛が全身を襲う。だが......アイラは、それでも進んだ。


 「まだ......まだ......一緒に居たい。もっと、ずっと一緒に......」


 最愛の人を背に、走り出したギルドマスターは、止まらない。


 『愚かな勇者よ。それは、愚者の行動、死が待つだけだ』


 そんな魔王の言葉も聞かず、ギルドマスターは、魔王の体の中に突っ込んだ。

 グニャリと柔らかいスライムの体をした魔王は、ギルドマスターをわざと体内に侵入させ、溶かそうと攻撃(・・)した。

 瞬間、ギルドマスターの皮膚は焼けるように溶け、骨が一部露見す程のダメージを受ける。


 しかし、それが攻撃(・・)である以上......


 「能力『耐性・免疫』発動!!」


 瞬く間に、ギルドマスターの体が再生し、同じ攻撃に対しての耐性を付けた。

 そのお陰で、ギルドマスターは、核まで後、1メートルまで来ていた。


 「あと、少し!!」


 必死に手を伸ばす。

 核さえ壊せば......全て終わる!!

 いつものような、日常が帰ってくる。アイラと一緒に笑い合える日々が。


 『愚者よ、これで終わりだ』


 その時、異変は起こった。

 そう、あの時と全く同じように......


 魔王が、ギルドマスターの能力に気付き、攻撃(・・)から捕食(・・)に切り替えたのだ。


 激痛がギルドマスターを襲う。徐々に食べられていく、その痛みは、ギルドマスターの記憶から、あの時を思い出させる。


 「くそ......あと、ちょっと......なのに」


 伸ばしたその手は、後、数センチの核に届かないで、消え始めた。腕先の骨まで食べられ、その腕はもう無くなっていた。


 「まだ......まだ......死ねない......アイラを......幸せにするまでは!!」

 『安らかに死ね、愚者』


 伸ばした手は届かない。胸に抱いた夢も叶わない。世界は、これほどまでに残酷だ。

 消え行く体を見ながら、ギルドマスターは思った。


 もし......もし、神様が居るのなら......


 「僕は、死んでもいい。だけど......アイラを助けてくれ」


 ボロボロの体で、微かに出たそんな願い事。

 死の間際でも他人を想うその心に答えた者が居た......それは......


 「いいだろう!! その願い、ラスボス(わたし)が叶えよう!!」


 ギルドマスターの影から現れたのは、ラスボス。


 ギルドマスターが届かなかった、核に手を伸ばし、そして触れる(・・・)


 「能力発動!!」


 魔王の核を存在ごと消した、その瞬間。

 汚染の能力も消した。青い光となって少しずつ消えていく魔王は、倒された人物に納得していなかった。


 『ラスボスは、勇者では無い。なぜ、我を.....』

 「私が、ラスボスで、冒険者で......元勇者(・・・)だからだ」

 『我は......この世全てを...汚染するまで......人間を許さない!!』


  憎しみ、悲しみ、哀しみ、全てが詰まったその叫びは、人間が犯した罪を問いただすような、深い執念が籠っていた。


 青い塵となって、風に舞う。

 それは、汚染された大地に降り注いぐ......何の皮肉だろうか? 青い光が降った所が汚染された大地を治していく。


 汚染され、灰色だった世界が、色を取り戻す。その景色は、例えようもなく綺麗で、まるで、人間が汚す前の大地に戻ったようにも見えた。


 『環境汚染』の魔王が本当に伝えたかったのは、人間によって汚されることが無ければ、こんな綺麗な環境なんだと言うことではなかっただろうか? 

 今になっては、答えを聞くことは出来ないが、それが、メッセージなんだと感じる。


 そんな時、救われない人の叫びが、微かに聞こえた。


 「ギルドマスター? 起きて下さい......ほら、仕事ですよ......だから、起きて仕事しないと......」


 もう、原型を留めていない、何かにすがり付き、泣き叫ぶアイラ。大粒の涙が地面を濡らし、とても苦しそうに胸をぎゅっとおさえる。


 「ねぇ、いつまで寝てるんですか......私を......一人にしないって、約束したじゃないですか......ねぇ......何でこんなに、悲しいんですか......何でこんなに辛いんですか......答えてよ......」


 もう、どうしようもない。そんな言葉が聞こえる前に、ラスボスは、その者達の元へと向かう。


 「ラスボスの仕事は、勇者を苦しめることなんだ」


 そんな言葉に、アイラはさらに叫ぶ。


 「これ以上、私達に何を苦しめと言うんですか!! 何で貴方が、そんな事をするんですか!!」


 だけど、私は笑う。そう、ラスボスらしく、勇者を苦しめるように......悪い笑みを浮かべる。


 「ラスボスの仕事は、勇者を苦しめる(・・・・)ことだ......勝手に死ぬなんて(らく)し過ぎだ、この変態(ギルドマスター)には、こんな辛すぎる世界に生きて苦しんで(・・・・・・・)貰う事にした」


 私は、さらに口を歪める。ギルドマスター、楽なんてさせないから、これから働き過ぎで倒れるぐらい働いて貰うとしようじゃないか。

 その方が、死ぬより苦しめる事ができる。


 私は、そっとギルドマスターに触れる。

 そして、その能力を発動させる。


 ギルドマスターが受けたダメージを元から無かった事にする。......私は、ギルドマスターを変態で、気持ち悪いと思う。そして、全てが全て危険(・・)な存在だと思ってる。


 だから、ギルドマスターの負ったダメージ。スライムに食べられた傷も全て、存在ごと消した。昔に負っていたダメージも同時に消した。


 「なんだ......意外と、いい顔してるじゃん。豚のコスプレしなかったらモテるんじゃないの?」


 先程とは、少し違った笑みを見せる私に、アイラも泣きながら笑って答えた。


 「ダメです。ギルドマスターは、私だけのものですから」


 もう二度と離しませんからと、まだ気を失っているギルドマスターを宝物のように抱き締めて離さなかった。

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