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この世全ての罪です!!

 いつも通りの変態集団を後に、取り敢えず(・・・・・)まともなアイラさんの元へと歩く。

 アイラさんは、にっこりと微笑みお辞儀をする。


 「おはようございます、マナさん。それで、私の出した課題の答えを聞かせて貰えますか?」


 本物の冒険者とは何か? という課題だ。私は自信ありげに頷き答える。

 私の考える本物の冒険者......


 「本物の冒険者(そんな人)なんて、居ないと思います」


 そう言った私の言葉に動じる事無く、アイラさんは微笑んだまま。

 

 「そう思う理由は何ですか?」

 「私にとっての冒険者っていうのは”自由”そのものなんです。子供達が憧れるような英雄も、自分の目標の為に戦い。魔物を狩る冒険者も、家族を養う為に戦う。それぞれの人がそれぞれの目的を持って”冒険者”をしてると思います。人それぞれだからこそ、”本物”はどこにでもあって、どこにも無いものだと思うんです」

 「......そうかも知れませんね。マナさんみたいな解答は初めてです。ですが、この課題はどんな答えでも正解です。仲間を大切にする人。なんて言ったありきたりな答えも、マナさんの答えも」


 そして、アイラさんが手を大きく広げ、そのウサミミを片方だけ器用に曲げる。


 「改めて、ようこそ。冒険者ギルドへ。貴方が貴方なりの”本物”になれる事を心より願います」


 パチパチと手を叩く音が周囲から一斉に聞こえる。新しい冒険者を迎える歓迎の音がこだまする。

 

 そんな何気ないワンシーン。それの全てを消し去る出来事が発生した。


 バタバタと荒い足音を立てて勢いよく、外から走ってきた少年が、息を切らしながら大声で叫んだ。


 「助けてくれ!! 魔王が、魔王が妹を!! 誰か、回復魔法を使える人は居ませんか!? 妹を助けてくれ!!」

 

 少年の背中には、何とか人の形を留めているだけのドロドロした何が居た。

 皮膚が腐っているのか、今もボトボトと落ちている。


 「イ...イタイよ......お兄...ちゃん」


 かろうじて、音になったその言葉は、今にもその子と共に消えそうだ。


 「誰でもいい!! 僕がどうなってもいいから、妹を助けてくれ!!」


 私は、いつの間にか飛び出していた。何よりも苦しそうに叫ぶ兄の声に、状況に唖然としていた私の体が勝手に動いた。


 「ごめんね、妹ちゃん。ちょっと痛いよ」


 私は、兄に背負われた妹に触る。ぐちゃぐちゃと嫌な感覚と音が伝わるが、すぐに能力を発動させる。

 この子にかかっている状態異常を危険だと感じた私の能力は無事に発動し、何とか状態を回復させる事ができた。


 そして、もう一度能力を発動する。この子が死にそうだということに危険を感じた私は、この子の受けたダメージを消した。


 「ふぅー。間に合って良かった」


 妹は元の姿に戻り、自分の状況に理解が追い付いていなくて目をパチパチさせていた。

 そんな妹に、顔をぐじゃぐじゃにして抱きつく兄の姿があった。その目からは大粒の涙が流れては落ちていった。


 何とかこの兄妹を救うことは出来たけど、もしかしたら......心の中で、渦巻く嫌な気配を感じ私は急いで外に出た。


 外の光景を見て、さっきの少年が言った言葉を改めて理解する。


 「なんで、魔王がこの街に......」


 空を見上げて黒く染まった空を見上げ逃げ惑う人々。その顔は恐怖に染まっている。その真っ黒な空は、これから起こる不吉な事を予感してしてるようにも見える。


 「マナ様。これは......」


 私を追いかけ、外に出て来たセツナ、リッカ、そして、影から現れたローエン。


 「あの女の子の状態異常からして、多分......魔王ステイン。『汚染』の魔王」


 よくゲームでは魔王=ラスボス。というイメージがありがちだけど、このゲームでは、魔王とラスボスは全く別の存在だ。

 魔王は、物語の中盤から、終盤にかけて出てくるボスみたいなものだけど、ラスボスは、本当に最後に戦う最強の敵なのだ。


 そして、この【ブレイバーストーリー】での魔王は、七つの大罪が元になっている。

 七つの大罪といっても、よく知られている、傲慢・憤怒・嫉妬怠惰・強欲・暴食・色欲ではなく。


 現代の七つの大罪と言われるものが元になっている。それは、遺伝子改造・人体実験・環境汚染・社会的不公平・貧困・過度の裕福さ・麻薬中毒の七つ。


 今、ここにいるのは環境汚染。つまり、『汚染』の魔王。さっき助けた少女は、全身を汚染され、肌が腐り落ちていた。

 魔王に近付いただけでも、その症状が出るだろうと考えられる。

 

 もし、その魔王に触れでもしたら......一瞬で朽ち果てるだろう。私の能力は触ってから発動する能力なので条件が悪すぎる。


 そして、ズルズルと体を引きずりながら突き進んでくる魔王の全貌が見える。

 20メートルを越える巨体。ギョロッとした大きな目が真ん中に付いている、そして、小さい目が至るところに付いていて、忙しなく動いている。何よりも、その体にはありとあらゆるゴミを纏っていて、魔王が通過した後の街は、修復不可能なまでに汚れ、腐っていた。


 そして、その体のどこかから発される音が、街全体に響く。


 『人間ども、全ては(なんじ)らの罪だ!! 我は、この世全てを、腐食し尽す者!!』

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