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いつかの取り引きです!!

 「ローエン。エリックを檻から出してあげて」


 私のそんな言葉に、エリックが反応する。


 「俺を解放していいのか? またお前を攻撃するかも知れないぞ」


 エリックは自分の事を陥れるようなことを自分で言うが、こういう場合、だいたいは何もしない。


 「そういう事を言う人は、本気でそんな事を考えてる人じゃないよ」


 笑ってそう言った私に、エリックはやれやれと首を振る。


 「......全く、随分と信頼されたもんだな」

 「信頼もそうだけど......これは、取り引き。檻から出してあげる変わりに......」


 エリックの不安を(あお)るように、ラスボスらしい悪い笑みを浮かべながら、一呼吸をあけ、取り引きの対価をいい放つ。


 「エリックの力を貸して欲しい」


 私の言葉に唖然とするエリック。どうやら、もっと酷い事を言われるのかと考えていたようで、困惑していた。


 「拍子抜けだな......そんな事でいいのか? なら今すぐにでも貸してやるよ」

 「いや、貸してもらうのは、まだ先の話。ミーニャの事が分かった時に、カナさんを救い出すのにエリックの力が必要だ......と思う」

 「何だ、その曖昧な答えは......まぁいい。その時が来れば、力を貸そう」


 そうやって頷くエリック自身、そんなに悪い人ではない。敵なら凶悪だが、味方なら何とも心強い。

 根がいい人なのだ。律儀に人との約束を守って、弱い者の味方になる。こういう人を『勇者』と人々は言うのだろう。


 そして、ローエンの檻がすぅ~っと消えていく。空気に溶けるように、透明になって捕らえていたものを解放する。


 「まだまだ、甘いなラスボス!!」


 檻から出た瞬間。

 エリックが本気の速度で駆け出して拳を振り上げる姿を見る。こんな場所でエリックと戦えば、私は負けるだろう。元々、私よりエリックが強いから当然だ。


 だが、私は攻撃を仕掛けてきたエリックに対して......何もしなかった。

 防御力『無視』の攻撃が、目の前へと迫る。勢いと力を十分に乗せたエリックの拳が、マナへと突き刺さる......その直前。マナの目の前でエリックの拳はピタリと止まった。まるで時が止まったかのように。


 「なぜ、避けなかった? なぜ、防御もしなかった? このままなら、俺の攻撃が当たって無事ではすまなかったんだぞ!!」


 鬼気迫るエリックとは打って変わって、私は微笑んでいた。


 「このままなら? 何言ってるの? 私は今、無事でしょ。それに、エリックがそんな事をしないって私は、信じてた(・・・・)


 そう言った私に、エリックは拳を下げ、思い通りに行かなかったことに、頭をガリガリと掻く。


 「くそっ、やっぱり。やり(づら)いな」


 そして、そのまま私に背を向け、去っていこうとするエリックに聞く。


 「エリックは、これからどうするの?」

 「お前と同じだ。ミーニャについて俺なりに調べる」


 背中を向け、手をプラプラと振りながら答えたエリック。そして、窓を開らき、その窓枠に足を掛ける。

 エリックとなら、何だかんだで友達になれそうだと心のどこかで感じていたのに。


 「またな......マナ(・・)


 そんな言葉を残し、エリックは窓から飛び出した。


 「え? 今、マナって......まぁ、いいか。またね、エリック」


 どこまでも強く、どこまでも優しい。そんな勇者とは、是非ともまた会いたい。その言葉は届かなかったが、その想いはしっかりと伝わっていた......そんな気がする。



☆★☆★☆



 現在、私は『始まりの街』に来ていた。

 それは、冒険者としての活動をするためだ。それに、Sランク冒険者になる為でもある。


 目の前には、盾の上に剣が交差している看板。つまり、冒険者ギルドがある訳だが......ここからでも聞こえる、「あぁ~ん。もっと~『バシン、バシン』」という、ギルドマスターの雑音に私の体が拒絶反応を起こし、中に入ってはならないと、全力で脳が警告している。


 その時。


 「変態(ギルドマスター)......ロックオン」


 私に付いてきたリッカが、そんな事を言って、ガチャガチャンと腕を変形させ、大砲を作り出した。

 そして、リッカの魔力によって作り出された、大砲の弾(重さ20キロ、直径75mm)が音速を越えた速度で、ギルドへと突っ込んでいく。


 扉を軽々と突き破り、目標(ギルドマスター)へと直進する。そして、そんな攻撃が腹に直撃したギルドマスターが「ぷゲラっ」と変な声を出して吹っ飛んでいく。


 それを見た私は、よくやった。とリッカの頭を撫でる。さらさらとした綺麗な紅い髪は、触っているだけでも気持ちよかった。リッカも嬉しいのか頬を赤く染めて恥ずかしそうに下を向いている。

 リッカは、隠しているつもりでも耳が真っ赤に染まっていた。それを、リッカは可愛いなと思いながらも撫で続けていると、いつの間にか、無傷の変態が近付いてきていた。


 「おぉ~、リッカちゃん。今のは、良かったよ。もう一度やってくグォフェッ」


 ギルドマスターが言葉を言い切る前に、容赦なく大砲を打つリッカ。

 そして、もう一度倒れているギルドマスターに向かって大砲を打とうとするリッカを私は止めた。なぜなら......

 

 「リッカ、もういいんだ。変態(ギルドマスター)には、攻撃がご褒美なんだ。だから、攻撃じゃなくて無視した方がより効果的だよ」


 と、リッカの為に、変態の対処法を教える。


 「ほら、セツナなんて、この豚は明日にはお肉にされちゃうんだ、可愛そうに......みたいな目でギルドマスターを見ているでしょ」


 本当に嫌いなものを目の前にすると、女の子はこんなにも冷徹な瞳を贈れるのだと、改めて感じる。


 そして、これにはギルドマスターも......


 「やめて、そんな可愛そうな動物を見るような目で僕を見ないで!!......興奮するだろ?」


 ......うん。やっぱり無理か。


 「......リッカ。世の中には、二つの人種がいる。一つは変態だけど、まだ治る余地がある人。もう一つは......救いようが無い変態だ。アレ(・・)は、後者。だから、今後、関わっちゃダメだよ」

 「はい。マナ様」


 なぜか変態度が悪化しているギルドマスターと、会いたくなかったけど、再会した最悪の日だった。

 (ちな)みに、ここのギルドを私が選んだ理由は、ここがまだ私にとって、まともだと思ったからだ。


 他の街のギルドは、暗殺集団だったり、話が通じないような、エイリアンみたいな人達だったり、システムが作られて無いのかずっと無人だったり......と、まともでは無い。


 ここは、変態が居ることを除けば、まだ、ましなのだ。そんな事を考えながら私は嫌々、ギルドの中へと入った。

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