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ラスボスに転生です!!

 先が見えないほどの暗い闇の中で小さな光を見付けた。

 それは、すぐに消えそうな程薄く、小さい光。


 少しでも近付こうと、その光に向かって重たい足を運ぶ。

 幾重にも重なった鎖が私の足を固定し、暗い闇の中へ引きずろうとしてくる。


 「はぁ......はぁ......」


 いくらもがいても、光には辿り着かない、必死に手を伸ばしても、その光は掴めない。

 段々と消えていく光を見ながら思う。

 もうのがれられないのだと......


 私は、罪の意識を抱えて真っ黒な闇の中に溶けた。

 


◆◇◆◇◆◇



 目が覚めた時に、最初に目に飛び込んできたものは、この世のものとは思えない人間達だった。

 まず、大きな黒い羽根が生えている。おっとりしたような印象の女性。足には鳥のような鈎爪が付いている。ファンタジー世界に出てくる、「ハーピー」のような見た目。


 「シーナです~。よろしくお願いしますね~新しいあるじ様」


 どこか間延びした喋り方をして、お辞儀をする。そのお辞儀と同時に、二つの大きく育った女性の部分が揺れ動き、主張を繰り返す。


 次に、銀色に輝く鱗を持ったドラゴン。まるで、鏡のように光を反射して、眩しく輝いている。そんなに大きくもなく「ワイバーン」のような見た目。その体格とは違って小さな翼がピコピコと動いている。


 「我はデリドラ!!新しく降臨された主よ!!よろしく頼むぞ!!」


 そう馬鹿でかい声で叫ぶ。耳がキィーンとする程の声量にそこに居た者達は、同じように耳を(ふさ)ぐ。


 そして、そんなドラゴンと、喧嘩を始めた人間。燃えるような真っ赤な髪の女性。腰まで伸びる長い髪は、女性が動く度に波打つ。無表情な顔とは裏腹に手が大砲のように変化してデリドラに向かって遠慮なく、撃ち込んでいる。


 「デリドラ、うるさい。土に埋まって」


 言葉にも遠慮がなく、ドカァァァン、ドカァァァンと大砲をデリドラに向かって撃っている。

 しかし、デリドラも大きな体なのに、器用に避けていき、その度、壁に穴が開いていく。


 そして、そんな二人を止めようとする、綺麗な青い髪の女性。赤髪の女性と同じく腰まで伸びる長い髪。先程の女性と、まるで双子のような見た目。だけど、それ以外は反対の印象を受ける。


 「お姉ちゃん、ダメでしょ。ほら、手を直して」


 悪いことをした子供を叱りつける親のように、人差し指を立てて注意する。


 「でも、デリドラが......」


 すると、ドカァァァンという大砲の音と共に、先程まで騒動の真ん中に居たデリドラは、なぜか壁に埋まっている状態で静かになっていた。

 頭だけが壁に突き刺さり、足がブラブラとしている状態だ。


 何が起こったのかは分からないが、青髪の女性の仕業(しわざ)だろうと感じた。


 デリドラが埋まっている壁を見ていた青髪の女性が振り返る。その動きに合わせて、長い髪も少し遅れてふわりと揺れ動く。


 「お姉ちゃん、手を戻してくれる?」

 「うぅ......分かった」


 赤髪の女性はしゅんとして答えた。

 手を元の姿に戻したところで、二人共こちらに向きお辞儀する。


 「セツナです。よろしくお願いします。......ほら、お姉ちゃん」

 「......リッカです。よろしく」


 妹の影に隠れながらも照れた様子で自己紹介してくれた。姉と妹の立場が逆になっている光景にクスリと笑いが溢れてしまいそうになる。

 先程までドンッドンッと大砲撃ってた人とは別人のようだ。


 そして、最後に執事服を着た白髪の男性。少し歳老いたように見えるが、着込んでいる執事服はとてもよく馴染んでいるように見え、落ち着いた雰囲気を出していた。

 先程の騒動も、目立たないところで微笑みながら見守っていた。


 「私で最後になりますね。ローエンと申します。以後お見知り置きを、新たなご主人様」


 見惚れるような綺麗なお辞儀をして、最後を締めくくった。


 いつの間にかデリドラも目の前に来ていて綺麗に横に並んでいた。この5人の人間達を私は知っている。

 ラスボスの部下であると共に、私達プレイヤーに立ちはだかる存在。


 ゲームの中のキャラクターとしてでしか見てなかった私は、この生き生きとした動き、雰囲気を見て、本当にゲームの中の世界に来てしまったんだと実感した。


 私の知っている世界は、もう遥か彼方に消えていってしまったのか?

 まだ、戻る事が出来るのだろうか?


 ふと、自分の手を見ると、いつもと違った綺麗な白い手が視界に写った。「あぁ、もう、私は私じゃ無いんだ」と思いつつ、手を開いたり閉じたりしていると


 「あの、失礼ですが、お名前は、なんと申せば良いのでしょうか?」

 「......私の名前?」


 自分とは思えない可愛い声に驚きながら、質問を考える。


 大きな部屋に、しばらくの沈黙が流れる......

 私の名前か......よし、決めた。


 「私は......マナ。今後からは、マナと気軽に呼んでくれ」


 そう言った途端。目の前の五人は(ひざまず)き、(こうべ)を垂れる。


 「私達五名は、今後、マナ様に信頼と絶対的な忠誠を誓い。マナ様の手足となり、マナ様が望む全てを叶えると......この五つの魂を賭けて誓います」


 間延びした喋り方ではなく、しっかりとした話し方で、シーナはそう言葉を紡ぐ。


 この日、新たなラスボスが誕生した。


 そして、勇者達にとっては生き返る可能性が生まれた日であり、最凶で最強な敵が現れた日でもあった。





 だが.........


 「貴方達の覚悟は嬉しい。だけど......私はラスボスなんてやりたくないんだ。だから、ごめんなさい」


 私は、そう告げた。

 あなた達を拒絶すると、そう言った。

 しかし、帰って来た反応はあっさりとしたもので


 「そうですか。......では、皆さん。準備・・はできてますね?」


 ローエンはニコッと笑って四人にそう言った。

 四人もそれに続くように頷く。


 「え? 準備って、何の事なの!?」


 ラスボスをやめると言った私を排除する準備? それとも、主人が居なくなったから自殺する準備?

 色々な考えが頭を(よぎ)る中、セツナとリッカはニヤニヤしながら話始めた。


 「カナ様の言った通りだね、お姉ちゃん」

 「そうだね、セツナ」


 それに続くように、シーナ、デリドラも


 「運命って~面白いものですね~」

 「ウオォォォォ、カナ様ァァァ」


 号泣しているデリドラは、置いといて、他の四人も少し悲しそうな顔をしていた。


 「カナ様と言うのは、私共の前のご主人様。マナ様の前にいらしたラスボスです」


 ローエンの言葉で思い出す。ゲームの中でラスボスを倒した画面。青い粒子となって消えていくラスボス。そして、最後の言葉を......


 最後の言葉の意味が今、分かった。

 私の前のラスボス。カナさんは、こうなることが分かっていてその言葉を残したんだと。


 そして、生まれた1つの疑問。


 「シーナ、デリドラ、セツナ、リッカ、ローエン。1つ聞いていい?」

 「はい」


 代表として、ローエンが答えたのを聞いて、続ける。


 「私の事、恨んでないの?」


 デリドラの様子から見て分かるように、カナさんは、この5人に愛されていた。だが、それを私が殺したのだ。大切な関係を私が壊した。恨んでないはずがない。


 「カナ様との別れは、私共にとって、辛いものでした。長い時間をカナ様と過ごし、大切な思い出も、多くありました」


 少し、ぎこちなく話すローエンに、うつむいている皆に、取り返しのつかない事をした。そう思った。


 「ですが、私共はマナ様を恨んではいません。むしろ、感謝しているのです」


 予想外の答えが帰って来た。

 そしてニコッと微笑み、ローエンは言葉を続ける。


 「カナ様は、貴方に倒されたいと、そう言ってました。毎日、懲りもせずに私に挑んでくる、愛すべき勇者に、本物の(・・・)勇者に倒されたいと。そして、『マナ』と言う勇者に倒されるなら、私に心残りは無いと、そう言ってました」


 でも、私が......大事な人を奪ったことは変わらない。

 心の中では、そう思っていても、少し救われたと思ってしまう私が居た。


 「なんでよ......やめてよ......そんな事」


 不意に目から涙か溢れてきて、止まらない。

 託された想いに、胸が熱くなる。「この子達を、頼んだよ」と、そんな声がどこかから聞こえた気がした。

 

 同時に私の心には、カナさんの居たこの場所を守りたい。そんな事も思ってしまった。


 「......仕方ない。今日は、ラスボスやりますか」

 「はい、よろしくお願いします。マナ様」


 この世界も悪くは無い。そう思った日だった。


 こんな世界で見付けた小さな光を見失わないようにしようと心に決めた。

 だから、私。ラスボスやめます.........多分、明日から。

 

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