過去と現在です!!
「ローエン。一つお願いがあるの」
自分でも驚くほどの真剣な声が、部屋に響く。
それにローエンは気付いて、何とも言えない顔をしている。そのローエンから、言葉がこぼれる。
「マナ様、貴方はカナ様に似ています。何かある時はいつもそう言う顔をして......一人で全部背負い込むのです!! 大丈夫と言って、笑って誤魔化すのです!!」
誰が見ても分かるぐらいに、ローエンの拳には力がこもっている。
「ローエン......」
誰よりも、カナさんの近くにいたローエンは、誰よりもその辛さを分かっているのだろう。
だけど......私は
「私は、カナさんじゃない。カナさんが私よりも、ずっと強い人だって事は分かってる。カナさんは何でも出来るすごい人だ。だけど、私は一人じゃ何も出来ない......弱い人間だ」
だけど、弱いなら弱いなりの戦い方がある。
「大丈夫なんて言わない。だけど、一緒に手伝ってとは言うよ。私は弱いから、みんなに頼らないとね。大切な誰かを失うぐらいなら卑怯でみっともない戦い方を取るよ......だからお願い。私に力を貸して」
仲間に頼って何が悪い!! 強い人は、一人で困難に立ち向かえばいい。私は、みんなで乗り越える方法を取る!!
「マナ様......そうですね。カナ様はカナ様。貴方はマナ様でしたね」
ローエンはいつものように優しく微笑んでいた。それに吊られるように私の頬も少し緩んでいた。
「......ねぇ、ローエン」
「はい。何でしょうか?」
「さっそく、手伝ってくれない?」
今、私は椅子に腰かけている状態。あの後、城へ帰ってきてからローエンに座らせてもらって休んでいたんだけど......まだ、身体が動かない。
両手を前に出して立たせて、と親に甘える子供のような格好になってしまっている。
自分でも感じているけど......さっきのシリアスな雰囲気、ぶち壊しだね。
「はい。マナ様」
私の手をゆっくりと取り、立たせてくれたけど、若干、ローエンの口元か緩んでいた。その事に頬を膨らませて怒って見るが、ローエンは嬉しそうに微笑むだけだった。
「じゃあ、始めますか。〝勇者退治〟」
◇◆◇◆◇
どこかの世界のどこかの場所。
金髪のピエロ。ミーニャはひどく顔を歪めていた。
「あ~あ★君のせいで~マナちゃんが少し変わっちゃったよ♥どうしてくれるの? ......ねぇ★答えてよ♪カ~ナ~ちゃ~ん♥」
そう問いかける、ミーニャの視線の先には、大きな十字架に磔にされたカナが居た。
身体の半分が、黒く染められたカナは、苦しそうにもがいている。そして、そんなカナの周りを真っ黒な何かが、今にもカナに飛び付きたそうにしながらぐるぐると回っている。
「ふふっ、あの子はお前の望みどうりにならないさ。このままならな」
辛そうにしながらも笑って答えるカナに、ミーニャは苛立っている。
「わざわざ君の魂を体に戻してあげたのに◆つまらない事をするから★」
あの戦いの後、ミーニャに消されたと思ったカナだったが、いつの間にか、身体が戻っていたのだ。
勿論、身体は拘束されていて、能力が使える状態では無かったカナだが、自分の腕を自分で引きちぎり拘束から抜け出したのだ。
ミーニャに連れてこられたその場所は"異常"そのものだった。能力によって腕を治しその場所を探索しながら、明らかに危険だと分かる、道具や施設を存在ごと消していた。
人間の意識を強制的に操る杖。数千数万の魂を無理矢理、詰め込んだ自我のある剣。そして......人間のクローンを作る施設。
「ミーニャ。お前はいったい......」
「カナ~ちゃ~ん★ダメですよ♥こんなことしたら◆ミーニャ怒っちゃうよ★」
突然、後ろに現れたミーニャにまた捕まり、カナは今の状態になっていた。今度は、より強力な拘束をされ、半身を闇に喰われた状態だ。その部分の感覚を全てミーニャに奪われている。
「......いずれ分かるさ、あの子は私よりも強い。そしていつかお前の前に現れる」
「そうして貰わないと困るな★だけどね♥ミーニャは......物語を邪魔されるのが一番嫌い~君みたいにね♪」
カナの背後にある大きな水晶が光を放ち、マナの姿を写す。
「また☆面白い物語にしてあ・げ・る♥待っててね♪マナちゃん」
水晶の映像を見て口を歪めるミーニャ。
「お前の望みは叶わない。だから、あの子を解放してやれ」
「ダ~メ♥だけどね★まだこれは♪夢のまた夢の話☆まだ君達は世界の真実を知らない♥」
そう言い残し部屋から姿を消したミーニャ。
マナの運命に起こる悲劇はまだ......始まったばかり。
「ミーニャ。君は、どれだけの試練をあの子に与えるつもりなんだ? 君の望みが叶うまで? あの子が力尽きるまで? それとも......」
......この世界が消えるまで?
 




