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全ては闇の中です!!

  マナと全く同じ見た目をした少女。カナは、お腹を触っていた。それは、ちょうどマナがエリックに蹴られた場所だった。


 「エリック。女性は丁寧に扱わないといけないぞ。少女の腹に蹴りを入れるとは、常識がなってないな......まぁ、そんなダメージ、私の能力で消した(・・・)けどな」


 そんな言葉にエリックは、苛立(いらだ)ちを隠せないでいる。エリックの顔は、先程とは打って変わって酷く歪んでいる。


 「そんな事はどうでもいい!! 何でお前は生きてるんだ、ローエンからは、死んだと聞いたぞ!!」


 カナは、不敵に笑って答える。


 「私が死んだ。という事実を消した(・・)んだよ」


 自身の死亡さえ能力で消したと話すカナに、エリックは驚き、また、あり得ないと声を上げる。


 「それは、能力の域を越えている!! 死さえ消すことができるなんてふざけてる!!」

 「そうだな、私もそう思う。だけど、私は生者ではない。同時に死者でもない、そんな曖昧な存在だ」

 「じゃあ、カナ......お前は何者なんだ?」

 「私は偽物(カナ)で、私は本物(マナ)だ」


 どこか悲しそうに、カナはそう告げる。


 「......意味わかんねぇよ」

 「今は、それでいいさ」


 エリックは、諦めたように自分の拳を下げた。その目にはもう戦う意思は無かった。後ろを向いて歩き出したエリックの背中は、見た目よりも小さく写った。


 「......何で、死んだんだよ」


 聞こえるはずのない小さな声で、言葉を残し、去っていった。

 そして、遠ざかっていく背中に、カナは答えた。


 「悪いな......私の勇者(・・・・)


 そんな言葉は、空へ溶ける。届くべきはずの相手には届かない。風と共に流れていくその言葉は、いつか聞いてもらえる事を願っていた。


 「さて、ローエン。大丈夫か?」


 足に怪我のあるローエンは、まだ動けないでいた。影の中から、足を捕まれ投げられたときに骨を砕かれたのだ。

 しかし、そんな怪我は、カナがローエンの体に触れた瞬間に、元から無かったかのように消えた。


 「ありがとうございます。カナ様」

 「このぐらい、いいよ。この子を悲しませないためにやったことだ」


 カナが自身の胸に手を置きながら、そう言った。

 その事にローエンは、やっぱりか、と驚きの表情を見せる。


 「カナ様は、マナ様の中に居るのですね」


 そう、カナは死んでない。

 マナに倒されたことで、粒子となって消えてしまいそうな時に、能力を発動させ死を逃れた。だが、粒子となり戻る体が存在しなかったのだ。

 そしてカナは、仕方なくマナの体に入り、今までマナをサポートしながら、世界を見ていた。


 「あぁ、そうだ。物分かりが早くて助かるよ。時間もないしね」


 時間が無い。その言葉に、ローエンは悲しみの表情を一瞬だけ作り、すぐにいつものように表情を作り直した。


 「あいつを止めるのに力を使ってしまったから、()は無いかもしれない」


 さらに、ローエンの表情は強張る。


 「だから、ローエン。伝言(ゆいごん)を頼んでもいいか?」

 「......はい。カナ様の......意のままに」


 納得いかないという表情をしながらも、命令を聞くローエンの態度に、カナは優しい笑みを浮かべる。まるで、これから起こる全ての事を知っているかのように......


 「ミーニャは私達の...「はい☆そこまで~♪」」


 カナの言葉を中断し、現れたのは金髪のピエロ。どこからともなく現れ、いつの間にかカナの背後に立っていた。


 「なんだ、意外と早かったじゃない」

 「まったく☆いけないな~♪ミーニャちゃんの、ひ・み・つ♥を言おうとするなんて☆ダメで~す★」


 人差し指を交差させて口の前でバツを作る。

 そして、ミーニャがそのままカナの肩に手を置き、口を大きく歪ませる。


 「退場者は、退場者らしく消えろ★ チートは、認めない★」


 ミーニャから、禍々しい闇が噴き出す。見ているだけでも心が壊れそうなほどに暗く、強い力。そこにある空間そのものを黒く染め上げていくソレは、カナの体へと絡み付く。


 「カナ様!!!」


 咄嗟に飛び出すローエン。だが......途端に体が硬直する。

 だが、この硬直はローエンが味わったことのある物だった。


 「カナ様。どうして......」


 『王の威圧』をカナが使ったのだ。

 硬直する体で、カナの姿をしっかりと捉えるローエンは、血の涙を流しながら必死に抵抗する。

 その目は、今も黒色に侵食されていく主人を見つめている。


 「最初に......言っただろ。お前には......まだやるべき事があるって」


 辛そうに、言葉を吐き出す。しかし、カナの表情は笑っていた。いつも、ローエン達に見せていた彼女の笑顔だ。楽しそうで、何を考えているか分からない。だけど、惹かれる。そんな笑顔だ。


 「やめてください!! カナ様は、まだ!!!」


 『王の威圧』が消え、ローエンが動けるようになる。必死に走り、主人の元へと向かう。その手を掴もうと、必死に腕を伸ばす。


 「ごめんね、ローエ......」


 全ては、闇へと溶けた。

 まるで、最初から何も無かったかのように......


 目の前で消えた最愛の人に、ローエンは言葉を失い、伸ばした手の先に居たはずの存在を掴もうと腕をたぐりよせる。

 しかし、帰ってくるものは何もない。


 「さて☆仕事も終わったし♥帰ろ♪♪」


 何事も無かったかのように、ミーニャは帰ろうとする。しかし、それはローエンが許さなかった。


 「帰せ!!! カナ様を帰せ!!!」


 それは、フェンリルの姿となったローエンが、もう一つの能力を使った瞬間だった。

 突如として、虚空から現れた(おり)は、ミーニャを囲い縛り付けた。


 フェンリルの元となる伝説。神をも砕く牙を持つローエンを閉じ込めたとされる伝説の檻。囚われたものは、能力に関係なくその空間に縛り付けられる。

 檻へと入ったら最後。能力封印、ステータス100分の1というバットステータスを無理矢理押し付ける。


 「へぇ☆伝説どうりだ♪だけどね狼くん♥これじゃあ~つまらない★」


 平然と檻をこじ開け、外へと出ていくミーニャ。


 「この檻は~♪君を捕らえたのであって☆君よりミーニャが強ければ♥簡単に抜け出せるんだ★」


 ローエンはそのまま、何処かへ消えていくミーニャを見る事しか出来なかった。

 ローエンは自身の力の無さに心が折れていた。


 「そうだ♪君の新しいご主人様は~帰すよ♥」


 どこからか聞こえたミーニャの声。


 「......ローエン? どうしたの?」


 そして、そんな声に振り返ると......闇に呑まれたはずの少女がそこに立っていた。


 「カナ様!!!」


 ローエンは咄嗟に叫ぶが、違うという事にすぐに気付く。


 「どうしたの? ローエン。そんなに怖い顔して......それにカナさんって」

 「い、いえ。何でもありません」


 そう言って咄嗟に、ローエンはいつもの表情を作った。


 「あれ? あの人に蹴られた傷が無くなってる。ローエンが治してくれたの? ありがとう」

 「いえ、それは......はい」


 今宵の戦いは終わった。だが、この戦いは知っている者と知らない者がいる。この戦いはローエンの中で、深く深く残っていった。

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