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シアワセなモノです!!

 ギルドから離れ、夕陽に染まる街を歩く。

 昼の騒がしい街並みは消え、出歩いてる人ももう少ない。家の窓から漏れる光が、少し薄暗い道を照らす。


 この世界の人にとっては、この時間はもう帰る時間なんだろう。文明が発達した現実世界とは違って、火で灯りをともしている世界だ。電気なんて概念は無いのだ。

 そして、朝早くに起きてそれぞれの仕事に行く、現実世界も元は、そう言う生活だったのだと感じる。


 なに不自由なく生きてきた私にとって、この世界の人達は凄いなと感じた。


 「なんか、別世界に来たみたいだ」


 私の口からこぼれた言葉は、この街の事だったのか? それとも、この世界の事だったのか? 自分でも分からない。


 「そうですね~。昼の時とは違って静かな雰囲気ですからね~別の世界みたいですね~。でも~夜になるとまた別の世界が見れますよ~」


 微笑みながらシーナはそんなことを言った。だけど、私は何となく分かっていた。シーナが微笑む時は、何かを知っているけど隠している時だ。

 まぁ、隠している事と言っても、本当に大切な事を隠している訳じゃなくて、シーナ自身が楽しむ為に何か(・・)を隠している。


 でも、夜になると何が起こるんだろうか? 少し興味が沸いてきた。"勇者"の時には、夜になると強制的に眠らされていたし......例を挙げると、道の真ん中で夜になってきてしまった時は、翌朝必ずゲームオーバーになってるし、ゲームオーバーの文章に『勇者よ、寝てしまうとは情けない......だから、馬車に引かれるのじゃ』と、書かれていた。


 どんな状況でも、寝ている私の上を馬車が通過するという、一種の怪奇現象が起こるのだ。

 それは、街中でも、岩山でも、水の中でも、戦闘中でも......おい、製作者(ミーニャ)!! どれだけ、私が苦労したと思ってる? どれだけ、私が「あの、宿屋はどこですか?」と聞いて歩いたと思ってる?


 そしてどれだけ、その質問の返答が大体「あそこをバーッと行って、キュッと曲がれば着くよ!! ハハッ!!」だったと思ってる? ......分からないよ!! ちゃんと道を教えてよ!! 宿屋にたどり着かないと私、|馬車に殺されるんだよ!!


 と、勇者だった時の話しはこれまでにして、そろそろ時間的には夜に近いと思うけど......


 すると、チョンチョンと私の服を弱々しく引っ張る人がいた。そんなことするのは大体、リッカだけど......と思って振り返る。


 「マナ様。セツナ帰ってもいい?」


 珍しくセツナが帰りたがっていた。私の服を握る手が少し震えている事から、本当に何か(・・)あるんだろう。それに、リッカもソワソワしていたから絶対に何か(・・)あると確信する。


 「セツナ、リッカ。私も帰りたい。一緒に帰え「ダメですよ~」......」


 ちょっと、シーナさん。被せながら言うのはやめてくれないかな? それと、ちょっと嬉しそうにニマニマするのもやめてくれないかな?


 でも、シーナの性格からして考えると、その何か(・・)は、私達に直接危険が無いもの。だけど、アブナイもの。

 まさか、(ゴブリン)が大量発生する。なんてことは無いよね? うん、無いと信じよう。他には......盗賊? ゴロツキ? うーん。夜になってから、出てくるモノか


 そう考えた時、私は思ってしまった。まさか......


 「シーナ、まさかオバケが出てくるの?」

 「......オバケですか~? そんな名前ではありませんよ」


 私の質問に答えたシーナは本当に知らないといった表情をしていた。オバケじゃ無いのか。良かったー、オバケだったら私は死を覚悟してた。


 一番不安に思っていた答えも、いい意味で間違えていたので安心だ。他には思い付かないし、きっといいものなのだろう。

 少しの期待と、ちょっとの興味を胸に夜を待った。


 日が落ちるのは意外と早いもので、辺りは影に落ち、騒がしかった街は静寂に変わった。

 昼間に平気で歩けた場所も、夜になると、やけに雰囲気があって歩けなくなってしまう事がある。でも、今のこの場所はそんな雰囲気とは遠いモノだった。


 急に空気が重くなるような違和感を覚える。少し息をしずらいような胸を圧迫される雰囲気。

 背筋は冷たく、というか全身が冷たくなってきたような......


 私の服を握るセツナは更に震える。私に伝わってくるほど何か(・・)に怯えている。


 「セツナ、手、握ろう」


 ガタガタと震えるセツナに手を差しのべる。私もオバケが怖くて震えていたとき、誰かがこうして手を握ってくれたことを思い出した。

 誰か知ってる人の温もりを肌で感じるだけで、安心する。人間というのは、そんな生き物だ。


 だから、安心させるように、セツナの手を握る。

 触った瞬間にヒヤリとした冷たさが手に伝わった。


 「セツナの手って冷たいね」

 「......マナ様の手は暖かいですね」


 私とセツナに笑顔が(とも)る。いつしか震えていた手も、止まっていた。なんか、温かさというのを感じた気がする。お母さんもこんな感じだったのかな?


 どこか、シアワセを感じた。

 今、ここで生きていると実感できた。私は、あの時の何も出来ない私ではなく。私はラスボスであると......この子達のラスボス(・・・・)であると。


 その後、起こる出来事も知らずに......

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