表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/48

昔々のお話し2......です!!

前話からの続きです。

今回で過去編は終了になります。

 「ハハッ......ラスボスが最初の敵とか......」


 俺はその場に倒れこんだ。あの戦いは『戦い』では無かった。ラスボスが最初から本気だったなら俺は一瞬で死んでいただろう。

 そして、帰り際に見たラスボスの腕は、何故か元通りに戻っていた。


 まったく、ふざけてる。俺の心はこんなに暗く深い闇につつまれているのに、空は清々しく晴れていた。


 ......プニ


 不意に聞こえたそんな音に反応して、首を動かす。すると見えてきたのは、透明な何か。少し見えづらいそれは、いわゆるスライムというやつだろう。


 ......プニ、プニ


 良く見ると、スライムは二体いた。そして、様子を伺いながら俺にジリジリと近付いてきている。

 だが、俺は動けない。出来ることと言えば転がる事ぐらいだ。あのラスボスはステータスを消したと言っていたけど、それが本当だと分かった。


体は動くけど、少しでも動かすだけで骨が折れる。 ......自身の重さにも耐えられない防御力。だが、『耐性・免疫』の能力によって身体が少し強くなって再生する。確かに、この能力があればラスボスが言ってた通り、死ぬことは無いだろう。


 スライムに負けることも......


 ......プニプニプニプニプニプニプニ


 気付くとスライムに囲まれていた。でも、『耐性・免疫』なら......


 スライムの中の一匹が俺の腕に飛び付いてきた。水が腕を包み込むような感覚がした瞬間。


 「がっ!! 痛ッ!?」


 スライムに包まれた腕が段々と溶けていく。その痛みとスライムの透明な身体の中で、自分の腕が溶けていく腕が見える事に気持ち悪さを覚え、思いっきり腕を振り払う。


 勿論、腕の骨が折れ、その痛みが身体を走る。だけど、すぐに能力で再生した。

 だが......


 「......なんで、スライムに攻撃された腕が治らない!?」

 

 折れた骨は、すぐに治った。なのにスライムがくっついていた腕は、表皮が溶け赤い肉が見えるだけ......治る様子が全く無い。


 ふと、俺が振り払ったスライムが目に写った。

 そのスライムは、グニャグニャと動き、俺の腕の表皮を溶かした。


 まるで、俺の腕を食べたみたいに......


 そこで、気付く。スライムは俺に攻撃したんじゃなくて、俺を食べただけ。能力が発動しないのも、それが『攻撃』ではなく『食事』だから......


 プニプニプニプニプニプニ


 最弱のモンスターに最弱(食べるだけの存在)と認識されているこの状況に、俺は絶望した。

 ガタガタと体が震えるのを初めて実感した。ガチガチと歯が震え、死がこんな身近に潜んでいるのだと......あぁ、俺が殺した奴等もこんな感じだったのか?


 「くっ......そ」


 俺は......ここで死ぬのか......


 スライム達が、飛び付いてくる。

 包まれた部分が、ジワジワと溶かされる...いや、食べられている事は、例えようも無いほど痛い。激痛(いたい)苦痛(いたい)。イタイ。


 「ぐっ...ぁあぁあアあぁあァァあァ」


 これが、人を殺した罪なのか? 世界に変化を求めた罰なのか? 決まっていた運命なのか?

 その答えは返ってこない。


 ついに、スライム達は顔に迫ってくる。


 この世界で......俺は......


 「スペル:炎雷(ファイヤボルト)


 突如として聞こえた声と共に、視界を赤い光が埋め尽くした。

 なぜかその雷は俺に当たらず、スライムにも当たらず、少し先に生えていた木に命中し、燃え上がらせた。


 パチパチと音をたてて燃え上がる木を見てか、スライム達が俺から離れていった。


 「助...かったのか?」


 しかし、違った。スライムが逃げたのはスライム自身が助かるためだったのだ。

 パチパチと音をたてて燃える木。そして、燃えたまま俺の方に倒れかかってくる木を目で捉えた。


 俺は目を閉じて、今度こそ"死"を覚悟した。目を閉じても微かに感じる赤い光。剥き出しの肌に伝わる熱。

 あぁ......やっぱり......死ぬ運命なのか......


 「あぶないです!!」


 一瞬の浮遊感の後、低く重い音がすぐ近くで聞こえた。


 剥き出しの肌を誰かに触られる痛みを感じる......ん? なんで、死んだはずなのに痛みを感じるんだ?


 そんな疑問に目を開く。

 写ったのは、赤く燃える木とは反対に青く輝く長い髪。そして、青髪をかき分けて生えてるウサ耳。

 

 「痛ッ.....」


 触られているだけで針を刺されるような痛みが走る。


 「はっ!! ごめんさい」


 取り合えず地面におろして貰うが......痛い。地面の方が痛い。

 すぐに立ち上がり、体勢を整えようとするが、やはりステータスが無いため、立ち上がれない。四つん這いの状態が限界だ。


 「あの......大丈夫です?」


 ヒョコッと覗きこんでくるウサ耳。


 「これで、大丈夫に見えたらお前、どうかしてるぞ」


 全身火傷を負ったように溶けている。顔も少し溶けていることが分かった。


 「むぅ~。お前じゃ無いです。アイラです。アイラには、アイラという名前があるのです」


 プクーっと膨らませた頬で、俺を覗きこんでくるウサ耳。そういう仕草をすると子供っぽい見た目が更に子供っぽく見える。


 そう......俺は、自分よりも小さい少女に命を救われたのだ。


 「いちおう、助けられたんだ。ありがとう」

 「いちおうは、余計です。......どういたしましてです」


 今度は笑った顔で、ウサ耳は言った。誰かを救えた、と満足そうに俺を見て笑った。

 その時、俺の中にあった暗い闇が少し晴れた気がした。

 命を助けられたからなのか、そんな少女の笑顔を守りたいと、俺は心から思った。いや、思ってしまった。


 


◆◇◆◇◆◇



 これが俺。いや、僕とアイラとの出会い。


 あの出会いから3年で、僕は強くなった。『耐性・免疫』の能力を最大限に生かし。毎日毎日、実際に血がにじむ努力をしてきた。

 アイラに、『スペル:炎雷』を撃って貰う日々。それも、いつしか慣れ『耐性』ができ、『免疫』によって、僕が『スペル:炎雷』を撃てるようになった。


 そんな風に、毎日『攻撃』を受け続けては、『耐性・免疫』を付ける日々。

 いつの間にか、僕はあり得ないぐらい強くなっていて、大抵のモンスターは僕にダメージすら与えられなくなった。


 何となく毎日側にいるうちに、何となく二人の距離は近付いていった。

 この何となくの距離感が僕は好きだったが、それが耐えられなくなってきた......正直言って、アイラが好きだ!!


 そして、僕をアイラに見て欲しくて、僕が強くなったことを試すためにダンジョンに潜ろうと考えていた。


 そしてある日、ちょうど暇だったのでアイラを置いて、ダンジョンに挑んでみた。そこは噂では、かなり難易度の高いダンジョンだったそうだが......1日でダンジョン100階を攻略してしまったのだ。


 ダンジョンから帰ってきた時、ダンジョンの入り口でアイラが泣きながら待っているのを見た。


 「アイラは心配......だったですよ......もう会えないと思ったじゃないですか」

 「ごめん、アイラ」


 ポカポカと殴ってくるアイラを、抱き締めて俺は謝り続けた。

 そんな事があってから、アイラは僕にペッタリくっ付いて離れなくなった。


 そして、ダンジョン攻略の噂はすぐに広まり、なぜか僕は英雄と(あが)められた。


 そして、数日後その国の国王に呼ばれ、ダンジョン攻略者として、ギルドをやってくれないか? 頼まれてしまったので、仕方なくギルドの管理人として働く事にした。


 『英雄のギルド』と言われ、冒険者達がわんさかとやって来たりもした。

 ......まぁ、だいたいは、僕の姿を見ただけで去って行くんだけどね......


 今の僕は、治っていない。あの時、スライムに食べられた(・・・・・)傷は、いまだに残っていて、少しどころじゃなくグロい。剥き出しの肉が服の上からでも見える。

 自然治癒で治ってきてはいるが、まだまだ人に見せられるものじゃない。


 それでも、いつものように側に居てくれるアイラに感謝している。何気なく会話してくるアイラがいる。外見だけじゃない本当の僕を知っているアイラが居るから僕は、今を生きていける。そんな気がする。


 そういえば......少し前から、肌を隠すために豚のコスプレをして見たんだけどコレ大丈夫なのか?


 アイラからのプレゼントだから着ているけど......ちょっと趣味悪いよアイラ。


 それと、もう一つ。毎日やる俺の強化。つまり、『攻撃』を受ける事だけど......最近、アイラから『攻撃』を受ける事に喜びを感じてきた。実際、全く痛くないし、なんかアイラも楽しそうだし、まぁ、いいかとも思っている。

 実際、強くなってるからね。


 それの影響なのか、変な人がギルドに集まるようになってきてしまった。まぁ、実力は確かなものなので、ギルドマスターとしてはありがたいけど......やっぱ、僕も変人で同じだからいいや。


 最後に、感謝を送ろうと思う。それは、祈りみたいなものだけど、神様なら届くだろ?


 「ミーニャ様。アイラと出会わせてくれた事。感謝します。僕は今、幸せに生きています。ありがとうございます」

 ギルドマスターの過去話。佐藤太郎がギルドマスターに成るまでの物語でした。

 お前がギルドマスターかよ!? と思ってくれたならうれしいです。

 それでは、次回からは本編に戻りますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ