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この町
以前から書きたいと思っていた作品です。これから大切に書いていこうと思います。
茜色に染まった空を意味もなく見つめる。ガタンガタンと揺れ続ける電車の振動に心地良さを感じていた。古錆びた小さな建物が並び、流行や最先端なんて言葉が似合わない町。こんなところに来るなんて思いもしなかった。全く知らない……なのにどこか懐かしいこの町を僕は訪れた。
終点で降りたのは僕だけだった。ずっと握り締めていた切符を電車の窓から身を乗り出した駅員さんに渡した。薄暗くなった周りを見渡し、とりあえずネットで予約した格安ホテルへ向かおうと歩き出す。蛙の鳴き声がうるさいほどに響きわたっているのに、何も無い静かな感じがした。
ジャリ…ジャリ……
僕一人の孤独の足音。まともな道がここにはないんだな。チカチカと光る外灯は一体何を照らしているのか分からなかった。見えない足元を照らすのは、夜空で輝く無数の星と丸い月だった。