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「何事もなく」という語句の重要性について。  作者: みのり
第1話 『翼を持った少女』
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chapter1 『真紅のドレスの少女 -bloody dress girl-』 -3

 途中、コンビニに寄って、昼飯にレンジで温めるカレーを買って帰った。

 学校で相模に注意されたばかりだが、自炊する気分にはなれなかった。

 父は俺が中学に上がった頃に事故死。母は仕事で世界中を飛び回っている。

 故に、一人暮らし。

 まあ、もう慣れたし、普段家事にも困ってないのでそれは別にいい。

 しかし今、俺は家でひとりではなかった。

「なんでいやがる……」

 高層マンションの部屋の扉を開けた俺の目の前にいたのは、先程別れたばかりの少女。

 アンナ=ブラッドフォードである。

「貴方を護ると言った。その為には、貴方の傍で生活するのが必要事項」

 言葉足らずの上に自己完結のような喋り方をするので一瞬何を言っているのかと思ったが、要するにココに泊めろと言っているようだ。

 ふざけんな。

「お前話聞いてなかったのか。俺を護る必要なんかねえって」

「それは肯定できない。私は約束した」

「約束って、誰と?」

 そう言えば、さっきもそんな事を言っていた気がする。

 何だったっけか。『俺の危険を案じた人間がアンナを送り込んだ』だったか。

 『アンナの「翼」を発見した人物』とやらも同一人物なのか。

「そう。私の『異質』を発見した人が貴方の下へ送り込んだ」

「で、ソイツは何モンなんだ」

「貴方の父親」



 沈黙があった。

 アンナの言ったひと言を何回も何回も反芻し、ゆっくりと口を開く。

「は……?」

 それでも、コレしか出てこなかった。

 なんとか、言葉を繋いでいく。

「な、何言ってんだ?俺の父親は──」

「知っている。貴方の父親は約六年前に死去した」

「な──」

 何で知っている。

 学校の友人にさえ、公言はしていないことなのだ。

 それをこんな、どこの誰かも解らない奴が知っているハズが──

「六年前。貴方の父親が亡くなる少し前、私はその人と会っていた」

アンナは淡々と続ける。

「私の両親と貴方の両親は元々知り合い。あの日も、家族で会っていた。そして、あの人は気づいたの。私の『異造』に」

「ちょ、ちょっと待てよ──」

 全く状況が飲み込めない。

 俺の親とコイツの親が知り合い?

 昔会ったことがある?

 ということは、まさか俺とコイツも昔会ったことがあるのか?

「貴方は、覚えてないでしょうけど」

「──マジかよ…」

 高校生になって親に一人暮らしを許された俺だが、それまでは親にくっついて世界中を飛び回っていた。

 思い起こせば、昔、確かにイギリスに滞在していたコトもある。そのときに会ったのだろうか。

 しかし、ハッキリと覚えてないのも事実であり、それに例え本当の事だったとしても、俺には関係ない。

 父親がこの少女に俺の事をどう頼んだのかは知らないが、俺の考えは変わらない。

「帰れ。俺は、自分の身は自分で守る。お前は必要ない」

「……解った」

 その言葉に、俺は拍子抜けした。

 粘られても困るが、家にまで押し掛けたのだ。もう少し粘ると思っていたので若干消化不良である。

 しかし、残念なことにそんな事は杞憂だった。

 紅いドレスの少女はこう続けたのだ。

「貴方の考えは解った。貴方は貴方で自分の身を守ればいい。しかし、私の役目も変わらない」

「────、」

 役目、というのは、俺を護るとかいう事だろう。

 どうやら、譲るつもりはないようだ。

「とりあえず」

 この女をどう追い返してやろうかと考えを巡らしている俺を無視して、アンナは追い討ちをかけるように発言する。

「私は今日寝床が無い。このままだと、公園のベンチで一夜を明かすことになる」



 それを言われてしまうと弱かった。

 イギリスの治安がどの程度なのかは知らないが、日本の治安は特にいいというわけではない。あんな目立つ格好の女が公園のベンチで寝ていたらどんな間違いが起こるかわからない。

 というわけで、現在あの少女は俺の部屋のベッドで寝ている。

 俺の今夜の寝床はリビングのソファだ。

 俺は考えていた。

 テーマは勿論、あのドレスの少女。

 アンナ=ブラッドフォードをどう追い出そうかということだ。

相手の言い分──寝床についての事だ。護る護らないというのは、コチラも曲げるつもりはない──を無視せずに追い出すには、やはり寝床を別に用意するしかないのだろう。

 とはいえ、そんなアテもないのだ。

 厳密にはアテがないこともないのだが、他人ひとに迷惑をかけないテは思いつかない。

 故に、脳内での自分会議は堂々巡りだった。

「シンタロウ」

「ん…起きてたのか」

 ソファで唸っている俺に、アンナが部屋(俺の)のドアを開けて声をかけてきた。

「私の役目は貴方を護る事。貴方が寝ても、私が寝ることは許されない」

「……誰が許さないんだか」

 というか、寝ないのなら寝床も必要無いのではないか。俺の部屋を返せ。

「で、何か用か。敵襲だかを警戒するのなら部屋の中でもできるだろ」

 敵襲とか。

 自分で言っててサムくなるが。

「いえ。言い忘れていた」

「ん?なにを」

「貴方が狙われる理由」

 それを聞いて、俺の気が引き締まったのは言うまでもない。


 いや、ゴメンそれは嘘だ。逆に若干気が抜けた。

「なに言ってんだ。俺が狙われるのは俺の『異質』とやらのせいなんだろう」

「そう。けれど、それだけではない」

 腰を据えて話をしたかったのか、アンナは俺が寝転んでいたソファに腰かけた。

 俺は慌てて体を起こす。

「今まで貴方が経験した事件は、あくまで『巻き込まれた』もの。でも、今回は違う。明確に、敵は貴方を狙って動いている」

「────、」

 なるほど。言いたい事は解った。

 要は、『今回』は『今まで』とは違う。

 ということだろう。

 俺が明確に狙われている以上、体質のせいというだけではなく、建前的に俺を狙う理由もある、ということか。

 いや、『俺の体質』と『俺が狙われる理由』のどちらが建前なのかはよく分からないが。

「で、ならなんで、俺は狙われているんだ」

「貴方の体質のせい」

「?」

 何だろう。会話がループしたような。

「いやいや、俺の体質の他にちゃんとした理由があるんだろう?それは何なんだよ」

「だから、貴方の体質」

「────」

 俺の沈黙から、伝わってないことを理解したようで、アンナは捕捉説明をする。

「貴方の体質は、使い方によってはポジティブなベクトルに作用する。敵は、その力を狙っている」

「?」

「貴方の『異質』は『事柄に巻き込まれ易くなる』こと。決してその枕に『自分にとってマイナスな』はつかない」

「──ってことは何だ?事件とか事故に巻き込まれやすくなる分、いいことが起きる確率も高くなるってことか」

「そう、本来なら」

 その返答は、何か嫌な予感を感じさせた。

 本来なら?

 なら、現状はどうなっているんだ。

 いや、それもわかりきったことか。

 なぜなら俺は、今まで『いいことが起こりやすい』と思ったことなどないのだから。

 ならば、それは一体何故か。

「貴方の父親」

 アンナは俺の疑問を先読みしてか、それとも元々言うつもりだったのか、そう続けた。

「あの人が、貴方の異質がマイナスなベクトルにのみ作用するように細工した」

「……なぜ」

「貴方の利用価値を下げるため」

 その一言で、なんとなく解った。

 俺の父親は──アンナの証言を真とするなら──恐らく俺の身を護るために、そう、アンナを俺の下へ送りつけてきたのと同じ理由で、俺の体質を『いじくった』のだろう。

 そんなことが可能なのかは不明だが。

「元々、貴方の『異質』はポジティブにもネガティブにも偏らない。それだけでも、充分に利用価値があった」

「──でも、その利用価値は、もう無くなったんだろう?」

 なら、何故──アンナは俺の下へ来たのだ。

 俺の安全は──俺の不幸と引き換えに──保証されたはずなのに。

「その方法で、確かに一旦は安全を保証できた。しかし、それはあくまで『一旦』のこと」

「? どういう…」

「体質をいじることでネガティブなベクトルに偏らせることができるのなら、その逆も可能ということ」

 つまり、アンナが『敵』と呼ぶ相手──組織なのか個人なのか──は、俺を捕らえ、その体質をいじくり、自分達の周りで起こる出来事が全て自分達に都合のいいものになるようにしようとしているのだそうだ。

 なんというか、安っぽい悪役のような考えですらある。

 世界征服を表明しているような滑稽ささえ感じられた。

 だからなのか、少し拍子抜けし、なんとなしに窓の外を見た俺は、その向こうに見てしまった。

「────ッ!」

 絶句。

 とはいえ、『それ』は今日だけで二度目の出来事だった。

 ちなみに、俺が暮らす部屋はマンションの22階。

 そこから見える景色に映っていたのは。

 空を飛ぶ人間だった。


「──な、んっ……!!」

 正直、空を飛んでいることに対してはさほど驚いてもいなかった。

 否、こうして見る限り、飛んでいるというよりは跳んでいると言った方が即しているかもしれない。

 どちらにせよ、俺の頭はそんなことで驚くには今日だけでもタフになりすぎていた。

 だから、常人よりは冷静に対処していたのだと思う。

 普通はパニックになってもおかしくないだろう?

 ただし、冷静でいられたのはそこまでだった。

 そう、窓の外で跳躍を行っている男が、ウチの窓に突撃してくるまでのことだった。

 ガラスの割れる音。

 しかし、突っ込んできた張本人である男に傷は見当たらない。

 まるで、身体が鋼のごとく硬いかのよつに。

 これ以上なく荒い入室をしてきたのは、俺より少し年上の男。

 髪は赤──アンナのドレスのような上品な紅ではなく、かすれたような下品な赤。

 その髪の色で、外人だということは解ったが、それ以上のことは全く解らず。

 俺は、言葉を失った。


「お、前は……?」

 なんとか言葉を絞り出す。

 それに対して、相手はあっさりと返答した。

「俺の名前はジョージ=クロウリー。

 ──その女と一緒にいるってこたぁ、『異質』についてはもう知ってんだよな」

 その女。

 と、男──ジョージ=クロウリーはアンナを指差す。

「まあだから、俺も『異質』な人間ってやつなのよ」

 その言葉に、直感。

 俺はアンナの手を引いて、全力ダッシュで逃げ出した。

 本当にただの直感だ。俺はアンナに、敵も『異質』な人間だと聞かされていた訳ではないのだから。

 しかし、その裏腹、確実にあの男がアンナの言う『敵』なのだということは間違いないだろうと思った。

「オイオイ、いきなり話も聞かずに逃げるとか、そりゃあ無えんじゃねえの?」

 逃げてはいるものの、しかし逃げ切れている訳ではない。

 もとより相手はガラスに突っ込んで傷ひとつつかないような身体を持つ男だ。

 どういう『異質』なのかは解らないが、『(現時点では)不幸な出来事に巻き込まれやすい』だけのイチ高校生である俺に逃げ切れる道理などあるはずもなかった。

「私が」

 ジョージ=クロウリーの登場から一言も発さずに俺に手を引かれていたアンナが口を開いた。

「私の『力』を使えば、あの男を迎撃できる。住宅街での戦闘を望まないのであれば、逃走に『力』を使うことも可能」

 開いたと思えば、そんなことを言うのだった。

「ふざけんな」

 もちろん、俺はアンナの提案を蹴る。

「何度も言ってんだろうが。俺は自分の身は自分で守る。お前の力は借りねえよ」

 どころか、今の状況、逆に俺がアンナを護ってやらねばなるまい。

 年上の男としての義務だ。

「でも、貴方は──」

「ああ、俺には今の状況を打破するような特別な力の持ち合わせはねえ」

「なら──」

「ンなモン必要ねえってんだ」

 さっきはああ言ったものの、逃げる算段がない訳ではない。



「チッ、逃げられたか」



 アンナを引き連れた俺は、高校の友人──相模孝助の家に押し掛けていた。

「いきなり来るから何かと思ったぜ──それも、こんな金髪のオンナノコを連れて」

 相模は、アンナを見ながら呟いた。

「悪いな、少しワケアリで」

「そりゃあ、なんとなくわかるけどよ」

 相模は、俺と同様ひとり暮らしだ。

 といっても、俺のように父親が死んでいたり母親が世界中を飛び回っていたりするわけではなく、高校進学に当たって地方から上京し、その際親は地元に残った、というわけだ。

 だから、安心して頼ることが出来た。

 ──物騒な人間から追われている身でありながらなにも知らない一般人を頼るということがどれほど危険なのかは、解っている。

 ただし、この場合『なにも知らない』が重要なのだ。

 さっきの騒動──そう、騒動だ。

 ガラスが割れる際に、結構大きな音もした。

 それなのに、騒ぎにはならなかった。

 恐らく、そういう『異質』な人間が、あの場にいたのだろう。

 周りに音が響かなくなるとか、騒ぎを不自然に思わなくなるとか、そういう。

 ただ、そういう『異質』を使うということは、無関係な人間を巻き込むつもりはないということだ。

 自分達の存在が露見するのを恐れて。

 とか、そういう理由も考えられるが、たかだかマンションの一室でガラスが割れたくらいで、そこまで大騒ぎにはならない。

 精々、隣人が押し掛けてくるぐらいだ。

 そのレベルなら、押し掛けてきた隣人を殺してしまえば済む。

 そうしなかったのは、俺が考えている通りの考え方だということだ。

 無関係な人間は巻き込まない。

 ただ、『知られてしまったら殺すしかない』という考え方をしないとは限らないので、相模がワケを問い質そうとしないのは助かった。



「逃げられた?」

「ああ──悪い」

「いや、責めている訳ではない。それで、対象はどこに?」

「一般人のトコロに上がり込んだ」

「なるほど、それでは手出しはできないか」

「どうする?」

「どうにかするしかないだろう。対象を捕まえる為には」

 ──あの、『異造』を捕らえるためには。

 ──なんて、そんな会話がされていることを、俺は知るわけもなかった。

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