第六話 性能
異世界での初戦闘を終え、20式の整備をしていた小鳥遊は、ふと足元に金髪のスローザス王妃マツリ・スローザスがいるのに気づく。彼女はフラフラと、書類の束を抱えながら20式に近づいていく。
「どうされました?」
マツリは20式をずっと見つめていたので、しばらくは上から声をかけた小鳥遊に気付かなかった。
「この陸機の名前は何?」
「20式陸上機動戦機と言います。我々、陸上自衛隊が配備した第三世代機です」
「ニイマル式……インナーフレームは?」
「インナーフレームはロンズデーライトと言う特殊な合金でできています」
「ロンズ、デライト?」
「ロンズデーライトです。数年前、自分たちの世界で紛争のきっかけとなった、ソーラズ隕石衝突災害の産物です。皮肉ですよね」
小鳥遊がいた世界。その世界は2015年、大規模な小惑星群が地球に衝突し、世界規模で食糧問題が発生。大国が小国を侵略するという事態が起こった。日本も例外ではなく、幾度も隣国からの侵略を退けてきた。
隕石が衝突した場所に現れた未知の鉱石、ダイヤモンドより硬いといわれるロンズデーライトの実用化に成功したのは、日本、アメリカ合衆国、ロシア連邦のみであった。
「装甲は?」
「特殊チタン合金、表面にステルス素材をコーティングしてます」
「動力は?」
「エネルギー源は次世代型水素電池です」
「最大速度は?最大跳躍力は?任務継続限度は?」
「最大速度は時速60km、最大跳躍力は50m、約25時間の任務継続が可能です」
「す、す……」
「えっ?」
「素晴らしすぎる!何この素材!見たことない!」
マツリは20式に飛びつくと、頬を擦り付けたり関節部分を触ったりし始める。本来なら戦機乗りは自分の愛機にベタベタ触られることを嫌うが、小鳥遊の相手は悪い。一国の王妃で、しかも超絶美人である。
「あのぉマツリ様?」
「はい、なんでしょう?」
「うえ、上がってみます?」
そう言ったものの、純粋にキラキラと目を光らせるマツリを見た小鳥遊は、少し後悔してしまう。小鳥遊は、彼女が筋金入りの科学者であることを再確認させられた。
「すごい」
懐にしまってあったメガネを取り出したマツリは、慣れない手つきでメガネを掛けると、コックピットの座席に座りモニターを見つける。
「これは?」
「モニターといって、装甲に取り付けられているカメラが撮った外の画像をここに映し出せるようになってます」
「この丸に突き出たマークは?」
「それは自分たちロメオ隊のシンボルマーク、RomeoのRをもじったマークです」
「タカナシさん?」
「はい」
「私はこれまで、数多くの陸機を見てきました。これは明らかにこの時代のものではありません。武装も、装甲も、機械も、すべて私たちの技術力をすでにオーバーしています」
「ほう?」
「それと同時に、こんな高性能な陸機を保有しているのは、タカナシさんたちジエータイ以外にありません。それらのことを踏まえて、注意をしてください」
「わかりました」
マツリが言うのは、外部内部の内通者により、20式の性能が外へ溢れることを危惧しているということだ。ウェールズ連邦はもちろんのこと、スローザス王国も例外ではない。小鳥遊たちを抹殺して機体を奪おうとするかもしれない。
「それと」
「なんでしょう?」
「明日、私の管轄する陸機研究室にいらしてください」
マツリはそう言うと、ハッチから飛び降り、王宮へと消えていった。一方、小鳥遊は先ほどの戦闘結果を踏まえて、今日はコックピットの中で対策を練ることにした。