第四話 交渉
スローザス王国の王宮、その中央に位置する会議室は物々しい雰囲気に包まれていた。今からでも逃げ出したいと言わんばかりの重い空気に、小鳥遊と名倉は押しつぶされそうだった。
「陛下!今なんとおっしゃったのでありますか!?」
「このような得体の知れない者どもを仲間に引き入れるなど!」
自分たちの目の前でこのようなやり取りをされて気分の良いことはない。根っからの江戸っ子である名倉は、今にもスローザス王国の大臣に殴りかかりそうだった。
「第一、緑の人がそこまで強いのか?」
ピクっと名倉の額に青筋が浮かぶ。それもそのはずだ、陸上自衛隊特別機動機械科50部隊の中でも、エリート中のエリートであるロメオ隊。第二次朝鮮戦争、第六次中東戦争、日中東シナ海紛争、北海道防衛戦、そしてイスラム原理主義者に対する対テロ、数々の有事に対応してきた伝統あるロメオ隊の実力を疑っているためである。
「大臣、静まりたまえ」
「国王陛下、我が国はどんな困難にも国民が一丸となって立ち向かってきました。緑の人なんぞ不要、現に素性の知れないこやつらを仲間にして、将兵の士気が上がるはずもない!」
「黙れ!」
声をあげたのは小鳥遊だった。普段温和な小鳥遊がここまで声をあげたのは珍しく、名倉でさえ驚いていた。
「さっきからだまってりゃ言いたい放題言いやがる。素性が分からん?実力がない?ふざけるな!お前らと違って、俺らの世界は2000年も血塗られた歴史を持っている!お前ら官僚には分からないかもしれんが、目の前で自分の力不足で部下を死なせてしまった気持ちが分かるか!」
「貴様!スローザス王国の大臣に向かってその様な言い草、極刑に値するぞ!」
「はん、やれるもんならやってみやがれ!」
「静まれ!」
オウカが一同を静める。
「大臣、君は少し休養が必要らしいな?」
「なっ!?」
「特別休養を与えよう、五日後まで家でゆっくりするがよい」
遠回しに謹慎を命ぜられた大臣は、近衛兵に急かされながら会議室を後にする。
「すまなかったタカナシ殿」
「陛下、こちらこそ取り乱してしまい申し訳ありません」
「ふむ、どうやらここには君たちを快く思っていない者が多いらしいな」
オウカが周りを見渡すと、何人かはオウカから目をそらす。すると、名倉の無線機が反応する。
「隊長」
「なんだ?」
「(レーダーに反応だ)」
「(敵か?)」
「(おそらくな、昨日お前と龍堂が見た白色の戦機の数と一致している)」
それを聞いた小鳥遊は、オルカの方に向き直る。
「陛下、敵が迫っているようです」
「な、なんだって……うわっ!?」
爆発音が響き、会議室が揺れる。すぐに、外にいた近衛兵が会議室に駆け込んでくる。
「陛下、ウェールズ連邦軍の襲撃です!」
それを聞いた小鳥遊は立ち上がると、出口に向かって走り出す。
「タカナシ殿どこへ!?」
「我々も出撃しようかと」
「そんな!わざわざタカナシ殿が出なくとも!」
「陛下、我々も軍人です。黙っているわけにはいきません」
「た、タカナシ殿!」
「大丈夫です陛下、小鳥遊は問題ありません」
「は、はぁ……」
小鳥遊は部屋から飛び出ると、無線で本隊へ連絡する。その道中、二人組で話していた王妃と青年の前を横切る。
「あれはタカナシさん?」
「トキ追うわよ!」
「え、えっ?」
「総員戦闘配備!出るぞ!」
中庭に飛び出す小鳥遊を、マッドサイエンティストと呼ばれた王妃マツリ・スローザスと金髪青年トキ・レッドフォードも後を追う。
「隊長、出撃準備完了です!」
「よし!」
ハッチを閉じた小鳥遊は、力の限り始動ペダルを踏み込む。
「小鳥遊機、出る!」