第三話 来訪者
ロメオ隊とクレハ率いる近衛隊は、周囲を警戒しながら王都へと向かう。スローザス王国の王都は三重の防護壁で囲まれており、一層目が畑などの農地、二層目が一般市民の居住区、三層目が王宮を含めた政府関連施設となっている。小鳥遊と龍堂は20式をトレーラーに乗せ、軽装甲機動車に乗り込んでいた。
「ここが王都とは」
「まるでアニメのような世界観ですね」
正面の門に続く一本道を登ると、クレハの乗る陸機が停止する。彼女は門番に合言葉を投げ掛けると、門はゆっくりと開く。
「クレハ閣下のご帰還だ!」
「お帰りなさい閣下!」
「あれはなんだ?」
「緑色の人たちが一緒にいるぞ?」
「ウェールズの奴らか?」
いきなりこんな正体不明の兵士がやってきたら、注目を集めるのも無理はない。市民たちはクレハ達近衛隊を歓喜で迎え、自衛隊を不思議な目で見ていた。王宮の近くに着いた一同は、各自が乗っていた車両から降りる。王宮は一般層よりもひときわ高い丘にあった。
「なんか、歓迎されてますねクレハさん」
「あぁ、今この国は戦争中でな。昨日もこの王都に対してウェールズ連邦軍の小隊が攻撃してきた。戦いに出ればどんな部隊でもここじゃ大歓迎だ」
「ウェールズ連邦とは?」
「よくわからんよあの国は」
小鳥遊は部隊をその場で待機させ、自分は名倉と共にクレハについていく。もちろん、小銃などは持っていないが、護身用の9㎜拳銃を腰に備えている。
「ここが謁見の間になる。各々、王の前では無礼のないよう頼む」
「わかりました」
「近衛隊長クレハ・リジェスタ謁見!」
近衛兵が重い門を開ける。そこは中世ヨーロッパを題材にしたアニメのような王の部屋で、長い絨毯の先にある椅子に座っているはずの王が。
「いない?」
「ここだ」
謁見の間の端、大臣に囲まれた王は、窓際に手作りの椅子を置いて外を眺めていた。年齢は25歳前後ほどで、若々しさが残る好青年だった。
「へ、陛下……」
「ご苦労だったクレハ近衛隊長、話は聞いたよ。彼らが緑の人かな?」
「緑の人?」
「あんたらの噂さ」
小鳥遊が振り返ると、黄土色のくすんだ金髪をした青年と、金髪の女性が立っていた。青年はだるそうに頭を掻いているが、女性はツカツカと小鳥遊たちの元へ歩いて行くと、ジィッと何秒も見つめる。
「あ、あのぉ君?」
「かっこいい……」
「へっ?」
「おいこらマッドサイエンティスト、緑の人が困ってるぞ」
「うるさいヘタレ」
「それ言うな……」
金髪青年を撃沈した金髪美女に見つめられ、どうしようか悩む小鳥遊と名倉は、隣にいたクレハに助けを求める。
「王妃様、話が進まないのでこれくらいで」
「お、王妃様!?」
「ご無礼申し訳ありません!」
小鳥遊と名倉は迷彩Ⅱ型作業帽を取ると、深々と頭を下げる。
「構わんよ緑の人よ、彼女はいつもそんな感じだ」
「申し訳ありません陛下」
二人は王の方へ向き直ると、教本通りの敬礼をする。
「陸上自衛隊、東部方面隊特別機動機械科、ロメオ隊第一小隊長、小鳥遊純二二等陸尉であります。ロメオ隊の指揮をとっています」
「同じくロメオ隊第二小隊長、名倉庄司二等陸尉です」
「スローザス王国、スローザス10世、オウカ・スローザスだ。早速だが、タカナシ殿、ナクラ殿」
オウカは立ち上がり二人に頭を下げた。
「我々の仲間になってくれないか?」