第一話 戦場
岩場で姿を隠した小鳥遊の20式は、頭部に装着されているカメラを使って龍堂に指示された方角を見つめる。
そこは戦場だった。白い戦機に似た機動兵器が、茶色の機動兵器と戦闘を繰り広げていた。小鳥遊はハッチから出ると、双眼鏡を持ちながら岩場に身を隠している龍堂へ近寄る。
「国籍は分かるか?」
「不明ですね、見たことない国旗が付いてます」
「戦況は?」
「白色の戦機が優勢ですね、茶色の戦機は機動力で白色に劣っています」
龍堂が言うように、歩兵を随伴している茶色の戦機は、戦機のみで構成された高機動の白色の戦機に翻弄されていた。武装は陸自の戦機でも2005年まで使われていた旧式の短機関銃や、近接攻撃に特化した剣やナイフなどである。
「隊長、二時方向」
龍堂に言われたように、二時の方向へ双眼鏡を向ける。そこには大きな塀で囲まれ、茶色の戦機と同じ国旗を掲げた街が広がっていた。おそらく、白色の戦機から街を守ろうとしているのだろう。
「何なんだここは?」
「自分にもわかりません」
「介入するべきではないな」
「はい、現状は情報が何もないですから、他の隊員の命を危険には晒せませんから」
小鳥遊はその戦闘をビデオカメラに保存すると、最初の場所まで戻っていく。しかし、その姿をフード着た人物に見られていた。
「こちら偵察隊、所属不明の陸機を発見。方位2-5-0、距離は1200」
『わかった。敵部隊も撤退した、帰還せよ』
「了解」
日が沈み始め、男は岩場から飛び降りると、ホバーバイクにまたがり西へと消えていく。
一方、臨時の野営地を設営した陸自機動部隊、通称ロメオ隊の隊員たちは不安な表情を浮かべていた。
「皆も知っての通りだ。我々は富士山麓の訓練所を帰還中、謎の光に包まれておかしな場所に転移してきた。GPSも作動しない、本部との連絡も途絶、そしてこの荒原、おそらく我々が元いた世界とは別だ」
小鳥遊の言葉に、集まった自衛隊員たちは騒然とする。
「小鳥遊」
「どうした名倉?」
小鳥遊を呼んだのは、防衛大の同期で小鳥遊の親友である名倉庄司二等陸尉であった。ロメオ隊の第二小隊を率いる小隊長である。
「これからどうする、俺たちは自衛官だ。異世界に転移したぐらいで文句言わねぇが、むざむざこんなへんぴな荒野で果てるわけにはいかねぇんだ」
「心配いらない、すでにここでの生活の目処はついている」
「ならいいな」
「よし、歩哨は各員二人一組の二班、周りの警戒を頼む。皆、今日は休んでくれ」
一時間ごとに歩哨を交代しながら、自衛隊員たちは眠りについた。