04
「続けて」
「……筋肉が、なくなってたんです。皮と骨だけのみずぼらしい脚になってたんです。手も、身体も。鏡を見たら……鏡を、見たら……私、おばあちゃんになってました」
「家を出たのはその時か」
「はい……。朝四時過ぎくらいでした。家族はみんな寝ていたので、そのままこっそり」
沈黙が流れる。
年老いていく、というのは人間ひいては動物に必ず訪れることだ。
それを否定、嫌悪するのは遥か昔からのこと。どの時代でもどの世界でも、人は、若返りの薬や不老不死に振り回される。
若くありたい。それは誰もが望む願いなのかもしれない。
かえでと同性である杏子は、もし同じことが自分の身に起きたら、と想像する。
──それでも私は…………まあ、今回の件はちょっと特殊だけど。
「…………君の御両親が捜索願を警察に届け出ている」
誠の言葉にかえでは小さく頷く。
「君と君の弟と二人分の、ね」
今度は彼女から反応がない。
しかし誠はそんなことには一切構わないといった様子で話し続ける。
「…………その赤ん坊なんだろう? 君の弟。一歳違いの実弟・浜先ひいらぎ。彼もまた家出中で捜索中だ」
「…………」
「弟がいなくなったのも君と同日だ。君の話から推測するに、変化があったのは二月二日あたりからなのだろう。ただ、変化があったのは君だけじゃないだろう? 異変は他にもあったはずだ。君が老いていくのとは対照的に、弟はどんどん若返っていった」
「………………」
「沈黙は肯定と取る」
ぴしゃりと言い放つ。容赦がない。
「言っておくが俺は、情けをかけるために問答しているんじゃあない。今の状態がまるで君のためにならないから改善してやろうとしているんだ」
誠は、口は悪いが嘘は言わない。カマは掛けるが真実を語る。
それを知っているだけに、どれだけ厳しい物言いを誠がしようとも杏子が止めに入ることはない。




