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「本人であると確認した。ここから先は敬語を排除させてもらう。じゃあ、依頼内容を聞いておこう。君の望みは?」
誠に促され、予約客の少女もとい少女であった彼女は目じりに涙を浮かべながら訴える。
「私を……私と彼を元に戻してください……」
学生証に印刷された浜先かえでの生年月日は一九九六年九月二十八日。しかし彼女は若い女の子の顔をしていなかった。彼女は、皺だらけの老婆の顔をしていた。
「なるほど承った。ようこそ龍心堂へ。そういう訳で仕事だ、神藤。降りて来い」
ぽとり、と。
煙草の灰がベランダの手すりに落ちた。風にさらわれ、灰は流れて消えていく。
短くなった煙草の最後の一口をゆっくりはき出した杏子は、火をにじり消して応じた。
「はいな」
これは二月十四日に起きた物語り。
バレンタインデーと男女関係と不可思議を一括りにした、なんの教訓もないただの物語りである。




