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「ついにボケたか。今日は十四日だろう十四日。言っておくが痴呆症の薬はないからな。ちびまるこちゃんのコマーシャルに倣って早急に病院へ行くことを勧める。頼むからトモゾーの二の舞にはなるなよ」
「トモゾーはまだボケてねえよ!」
というか、
「十四日……?」
雪消月。如月。二月。
二月十四日。
つまりは、バレンタインデーだった。
古くはローマ帝国時代に行われていた女神の祝日であり、当時生活が別々に区切られていた男女たちが翌日に催される豊穣祈願祭のためのパートナーを決める準備をする一日であったらしい。
現代においては国ごとで風習が変化し、独自の形式でバレンタインデーを祝うところも多い。
そんな中、日本では女性が男性に贈り物をするのが通例となっており、広義ではあるが同時に想いを相手に打ち明ける日としても認識されている。
「それがどうしたっての。あ、分かった。アンタ期待してんでしょー柄にもなく。早起きまでしちゃってさー」
したり顔で言ってやったが冷たい目で一瞥され、冷静に話を続展された。
「で本日二月十四日バレンタインデー。四の付く日は休業している龍心堂だが、さて。なぜ俺は通常の営業時間よりも三時間近く早く店を開けているんだろうか?」
確かに。
龍崎誠が経営する薬局『龍心堂』は朝九時から夜八時まで開いている。加えて四・十四・二十四は定休日。開店の理由でもあったかなと思い出してみるも、何も思い当たらない。
「……さあ?」
「さあ? じゃない。馬鹿が。昨日聞いてなかったのか? だから早く仕事を終わらせてやったって言うのに」
「えーっと……ははは。なんかあるんだっけ?」
誠は、口は悪いが嘘は言わない。カマは掛けるが真実を語る。




