02
「便所迷惑なのは男の的外れな射撃力。そんでババアっつったな今ぁ!」
「やかましい。その部屋から追い出すぞ」
「すいませんでした」
龍崎誠。
二十七歳。
杏子の高校時代の同級生にしてマンションの管理人にして龍心堂店主。
長身の短髪黒髪で好青年な印象を受ける風貌をしているのだが、その性格は竹を割ったようにさっぱりとしていて明快。歯にもの着せぬ言動ながら周囲から恨みを買うこともないのは、彼の振る舞いが本心から来ているものだと周りの人間に気付かせる動きを彼自身がしているからなのかもしれない。ただ、杏子に対しては悪意と冗談に満ち溢れている。
「まあ、起こす手間が省けてよかったという事にしておこう」
「そりゃどーも。毎日お世話さまですねー」
「早起きできないババアはただのババアだからな」
「全国の低血圧のご婦人方に謝れ全力で!」
「ドーモスイマセンデシター。ワー。ちなみに低血圧と朝起きることができないという事に因果性はない。ただの都市伝説だ」
「え、まじで」
「血行不良による内臓機能の低下。そこからくる倦怠感が『朝は調子が悪い』と錯覚させているだけだ。低血圧の人間は調子悪の状態が断続的にみられる。朝限定ではない。だから『朝弱い』というのは単なる言い訳にすぎん。気合が足りん。正常血圧BBAのお前が朝起きることができないのは、ただの怠慢」
「ふーん。……BBA?」
「深い意味はない」
いつの間に持ってきたのか、竹ぼうきで店の前の道を掃除しながら誠は話題を変える。
「今日が何の日か知ってるか?」
「はい?」
言われて杏子は部屋の中に目を向ける。窓ガラス越しに見えるカレンダーの日付を指さしで数え、自分の記憶と照合。
「……二月十日? なんかあったっけ?」