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72~2/14  作者: えむ
第4章
16/25

04

 リンゴを口にしてから若さの移行が始まるまで約二十四時間の潜伏期間がある。

 かえでがくだんのアップルパイを口にしたのが二月一日。異変が始まったのが二日であるからこれで説明がつく。

 そこから十三日。

 タイムリミット。

 十三日後──つまりそれは、

「二月十四日(今日)なんだよ」

 かえでの目じりから静かに涙がこぼれる。

 悔しさや怒りや悲しさや惨めさや。さまざまな感情が入り混じった涙が、溢れて流れて手の甲に落ちて弾けた。

 あの時自分が想いを閉じ込めていれば。あの時自分が本心を秘めたまま、想うだけで幸せだと留めていれば。些細なことで揺れないくらい強ければ。

 こんなことにはならなかったんだろうとかえでは泣いた。

 何も動かず何も変わらず、いままで通りの生活を続けることができたんだろうと泣いた。

「私の、せいですよね……全部」

 でもせめて。弟だけは。

「気にしないで。かえでちゃんのせいじゃない。全部──アイツのせいだ」

 空気が、変わる。

 それまで静かだった龍心堂内の空気が僅かにざわつき始める。テーブルに載った湯呑みが小刻みに揺れ、メモ帳の上の鉛筆がカタカタと音を立てて転がった。

「誠」

 杏子の呼びかけに誠は短く応じる。

「わかった」

「場所は町はずれの空き地でお願い。時間は夕方五時半」

「……ドンパチする気か?」

「それは最終手段。とりあえずは話し合ってみるさね、一応同族だし。でも言葉で分かり合えないなら戦争でしょうよ。私たちの場合」

「……まあ、心配なんて微塵もしていないが一つだけ助言をしておく。死ぬな」

「はいな」

 龍心堂入り口のコートかけから取った黒いモッズコートを羽織った杏子は、手をひらひらさせながらその場を後にした。


 時戻り、現在。


「龍崎さん、もう少し聞いてもいいですか?」

「……神藤と、魔女のことか?」

 かえでは頷いて答える。

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